2000年9月のミステリ

ハンニバル HANNIBAL

トマス・ハリス 2000年 新潮文庫 高見浩訳
あらすじ
「羊たちの沈黙」から七年経ち逃亡中のハンニバル・レクターを大富豪のメイスン・ヴァージャーが執拗に追っていた。自分を二目と見られぬ体にしたレクター博士に恐ろしい復讐を仕掛けている。一方クラリス・スターリングFBI特別捜査官は、クレンドラー司法省監察次官補目の敵にされ窮地に陥る。そのスターリングを助けたが老いたジャック・クロフォードはレクター博士を追う仕事をスターリングに与える。
感想
「羊たちの沈黙」のハンニバル・レクターを得体の知れない怪物にしてあるのに対し、その成り立ちを説明した本書はいくぶん普通になったかと途中は思いましたが、こういう結末にしたのか、ほおぉと驚きました。胸の悪くなるような残虐さとエレガンスが入り混じった他に類をみない作品です。
おすすめ度:★★★1/2
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ポップ1280 POP.1280

ジム・トンプソン 1964年 扶桑社 三川基好訳
あらすじ
時は1916年頃のアメリカ、ポッツビルという人口1280人の町の保安官ニック・コーリーにはさまざまな心配事があった。夜も眠れない。いったいどうしたらいいんだ? 
感想
あっちをたてればこっちがたたないというか、水漏れの穴を防ぐのにふたつ一緒に埋めるグッドアイデア思いついたら、3つ穴があいてしまったりという笑っていいのか、それともその人間性の恐ろしさにオノノイタ方がいいのかという複雑な味の作品。コミカルで面白かった。
この現代的な軽い題が35年も前の作品というのに驚きました。
本書は、映画「突撃!」「現金(げんなま)に体を張れ!」のキューブリック作品の脚本、「ゲッタウェイ」「グリフターズ」の作者だそうです。一番「グリフターズ」の味に近いように感じた。ブラックで血も涙もないのに、なぜかほのぼのしているという所が。

ポッツビルという町がアメリカのどこかは明らかにされていませんが、綿花の話がでてくることからさぼてんは勝手に南部と思い込む。南部人って一種独特かも。さぼてんが海を越えたのは北海道と九州、沖縄しかないので(四国には行った事がありませんっ)おおはずれかもしれませんが。南北戦争で負けてからある種の南部人ってアメリカの規範に従わなくてもいいんじゃない、どうせヤンキーが作ったものだしぃーと思ってるんじゃなかろか。「ロンリー・ウーマン」を見た時のサム・シェパードのお人よしの田舎者そうで実は抜け目ないってのを見てからよりそう思うようになった。特に南部の貧乏白人ね。「ハンニバル」でもレクター博士がスターリングの事を何回も「貧乏白人」ってからかうでしょ。南部人には独特の考え方があるように思う。
おすすめ度:★★★★1/2
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フィアー −恐怖− FEAR

L.ロン・ハバード 1940年 ニュー・エラ・パブリケーションズ・ジャパン 島中誠訳
あらすじ
新進気鋭の民族学教授ジェームズ・ロウリーは、学説が激しく旧弊な人々に受け入れられない。雑誌に投稿した文章のために学長から今学期いっぱいでクビと言い渡される。南の島々での民族学調査中に貰ってきたマラリアの持病も再発し心身共に参ってしまった。そんなジェームズ・ロウリーに悪霊共が取り憑き始めたようだ。
感想
本の裏表紙にはスティーブン・キング、レイ・ブラッドベリ、アイザック・アシモフ、ロバート・ブロックといったホラー、SFの大御所の賛辞が連なっている。なんとなく苦手な話かもと思いながら読み始める。・・・・訳わからへん。 魑魅魍魎が跋扈する世界に入って身をゆだねなければと思いながらも、話がどこに向かっているのか時間軸もくにゃくにゃ歪んできて「ああ、はやく終わらないか」と思ってラストまできたら、なんとなんと。いままでの苦労が報われた気がするぞ(笑)。SFホラーファンには味わい深い本だし、ミステリファンには一発物。
おすすめ度:★★★1/2
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魔女の館 The Witch's House

シャーロット・アームストロング 1963年 シリーズ百年の物語6 トパーズ・プレス 近藤麻里子訳
あらすじ
大学の数学講師パット・オシーは研究室を出た所で、向かいの部屋から出てきた生物学の教授エヴェレット・アダムズを目撃する。アダムズ教授は右ポケットから何かを取り出しごそごぞしていた。パットの頭に閃く! アダムズ教授がポケットから取り出したモノは十日前に理学部から消えた高価な顕微鏡のレンズに見えた。そのレンズの盗難については、パットが目をかけている学生ロッシが疑われていたのだ。アダムズ教授を追いかけるパット。それに気づいたアダムズ教授はあわてて車に飛び乗る。
感想
映像的な面白い小説なんですよ。でも、どうもさぼてんは著者のシャーロット・アームストロングと合わないみたい。ブツブツしたぶつ切りの文章と、その文章により臨場感溢れた心理描写や行動がどうも違和感があって。それが映像的なのかもしれない。
例えば、
「彼女はそわそわしている彼の様子に気づき、不安な気持ちを持つ。」
ではなく
「『どうしたのかしら?』彼女は自分に聞く。『なぜ彼は私と目をあわさないのかしら。どうして?』 」
という感じなんです。なかなか何が言いたいのかわからない。何を言っているのか掴みにくい。でも、そこがいいんだと思う。

オーソドックスとも言えるサスペンスはいい。さぼてんはセリアとセシルの二卵性双生児が以心伝心、ふたりでひとりの異星人っぽさが気持ち悪くて気持ちよかったです。手に負えない双子を題材にしたミステリってわりとありますね。
おすすめ度:★★★1/2
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