2000年3月のミステリ

グリーン・マイル

スティーブン・キング 新潮文庫 1996年作 白石朗訳
あらすじ
死刑囚監房の看守主任だったポール・エッジコムは、1932年当時に体験した出来事をつづり始める。今は老いて老人ホームにいる身の上だが、現役時代は死刑囚が残された日々を心穏やかに過ごせるように気を配る事、そして電気椅子で彼岸へと送る事を仕事にしていた。
感想
−おそらくネタバレあります−
私、読んでいる間ずっと鼠のミスター・ジングルズ(またの名をスチームボート・ウィリー)の役割が謎だったんです。死刑囚のジョン・コーフィはやっぱキリストなんだろうなというのはぼやっとわかるんですが。鼠には鼠の世界があるだろうに何故人間世界とばかりかかわりあうのか? あの鼠はどなたかの再来なのか? 輪廻の話なの? と色々予想していたのですが読み終わってわかりました。煙草の箱の役目だったって事が。ほら、物の大きさを表すのにモノサシとして横に置く「煙草の箱」。鼠があれなら人間は?っていうモノサシです。このお話、いまさらですがホラーでした。最後はまことにもって恐い(笑)。

主人公のポール・エッジコムと仲間が計り事を巡らす所を夢中になって読んでいたら、読んでいる私もまんまと作者の術中にはめられ物語の捕らわれ人になっているのに気づかされる。クヤシイくらいのストーリーテラーだ。

キリストが彼方に去った後、残された人間は出会いと別れを繰り返しながら”死”への一本道を歩み続けるっていう人間の悲しい定めを語る主題の内外に、男女の情愛やら友情やら様々な奇蹟やら恐ろしい場面やら殺人の話やら語り部にされてしまった話やらエンターティメントが詰め込まれ興味をそらさせない。
おすすめ度:★★★★
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青の炎

貴志祐介 角川書店 1999年作
あらすじ
ロードレーサーで軽快に飛ばす17才の高校生櫛森秀一は大きな悩みを抱えていた。母と妹の三人暮らしの平和で幸せな家に10日前から寄生虫が居着いているのだ。10年近く前に手を切ったはずの母の2度目の夫が家に居着いて朝から酒、出かけるといえば競輪場の毎日だった。いつまでこの不愉快な状態が続くのか? いつか母や妹に暴力をふるうのではと思うといたたまれない。
感想
親しい人達の悲しみやトラックの運転手さんや警察官の困惑も切り捨てる”オオバカヤロウ”の主人公ですが、 その青さが切ない。
昨今、若者の幼稚でキレタ犯罪映画が多い中、大人になりかけた少年のこの緻密な計画力に新鮮さを覚える。自分の力を出し切って論理的に考え抜いた計画に行動が伴う所が理科系の主人公らしい。”少女のような母と幼さを残す妹”を守るため”大人の世界に挑戦した孤高の若き騎士”と言えば言い過ぎか。秀一の心情を教科書の「山月記」の冷え冷えとした月明かりの青い世界に重ね合わせてあるのに感心した。高校時代がずーーーっと遠くなった人にも一気に青い時代が甦ってくる。
おすすめ度:★★★★
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監禁

ジェフリー・ディーヴァー 早川書房 1995年作 大倉貴子訳
あらすじ
狂信者が17才の若い女を誘拐する。狂信者には狂っていながらもそれなりの理屈があった。神の意志だというのだ。言葉巧みに離婚した両親への恨みの手紙を書かせ、家出に見せかける。さらわれた娘ミーガンの父で弁護士のテイトは、物事に対しすぐれた嗅覚を持ち「娘の家出」に不穏な影を感じ、別れた妻ベットともに娘を捜し始める。
感想
なるほど。「眠れぬイヴのために」「ボーン・コレクター」も本書も捕らわれているもしくは身動きできない(「眠れぬイヴのために」は洪水で孤立する)者を連続殺人犯が狙い、それを追う人達の話なんだ。この同じ筋立てを「精神分裂病」 「科学捜査」 「話術」 とそれぞれ個性的なキーワードと騙しのテクニックで読ませる。犯人、被害者、ハンターと3つの視点から語られる多角的な構成が成功しているのは、それぞれの登場人物が読者の頭の中でイメージできるまで描けているためだと思う。

浮世離れした妖精のようなベットと現実家のテイトはあまりに違いすぎて「惹かれるのはわかるけれど、一緒に生活するのは難しいだろうな。」と思っていたんですけれども、人を説得するテクニックに長けたテイトは知らず知らず本来の気質とは違う「理想の姿」を自分自身にも信じ込ませていたというのがなかなか興味深かった。ふたりは似たもの同士だったのか。テイトのイメージは「HEART」のクリストファー・エクルストン、ベットはメグ・ティリーがいい。
おすすめ度:★★★1/2
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