2000年2月のミステリ

ムーンシャイン・ウォー The Moonshine War
エルモア・レナード 扶桑社ミステリ 北沢和彦訳
あらすじ
禁酒法まっただ中の1931年、アメリカ・ケンタッキー州の片田舎では洪水で土を流された農夫達が家族を養うためという名目でせっせと密造酒(ムーンシャイン)を造っていた。そこに現れたひとりの男。禁酒法取締官のフランク・ロングは陸軍時代の仲間サンをまっすぐ訪ねていく。
密造酒を狙うギャングと、ケンタッキーの田舎町の密造酒屋の攻防戦を描く、「禁酒法時代に生きていたら喉の乾きで死んでしまう」のんべさん必読の書!

感想
「ムーンシャイン・ウォー」ってな「夢かうつつか幻か」といった不思議な響きのある映画名が、「暗黒街の特使(1970年)」って映画名になった理由を誰か教えて(笑)。
 私、、、、映画より先に原作を読みたかったわあ。エルモア・レナードは市井の気骨あるヘンコを書かせたら並ぶ人がいないですね。いやカール・ハイアセンのスキンクがいたな。スキンクはヘンコというより変人か・・・。
もっともいい場面は、「取り締まりに来た」と言って男達が真面目にしみじみウィスキーを味わうシーンと、サンとドクターの攻防戦を「自分達を楽しませるための見せ物」と見物を決め込む農夫達。どこかしら哀しい話でもあるんですけれどね。アメリカ魂が感じられる。
 映画・・映画の方はねぇ・・ほぼ原作どおりなんだけれど、どこか違う。悪役のドクターがリチャード・ウィドマークってのはOKなんだけれど、密造人のサンがアラン・アルダねぇ。他の誰であってもいいくらいアラン・アルダとはイメージちゃうよなあ。あの髪型のまんまやもんなあ。「暗黒街の特使」は3月のWOWOWのラインナップに入ってましたのでまた見てください。映画には好きなテリー・ガーもでてるの。
本はばなさんに分けていただきました。ばなさん、ありがとう。
おすすめ度:★★★★
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ボーン・コレクター

ジェフリー・ディーヴァー 文芸春秋 1997年作 池田真紀子訳
あらすじ
捜査中の事故が元で第四頸椎を損傷し四肢麻痺になったリンカーン・ライムは鬱々とした日々を過ごしていた。動くのは指一本。今の望みは安楽死だけ。やっとその願いがかなえられそうになった時に発生した異常な事件。空港からタクシーに乗った男女二人組が行方不明になり、男の方は埋められ手だけが土から出た変わり果てた姿で発見される。その手からは肉がこそげ落とされ骸骨状態。殺人鬼ボーン・コレクターの登場だった。
感想
科学捜査と犯罪心理に長けた「兄マイクロフトの体に入った現代版シャーロック・ホームズ」のリンカーン・ライムがボーン・コレクターの残す手がかりを元に異常犯を追いかける。悪趣味な刺激を求めて読み始めたこちらとしても、つかみの第一の犯罪だけでもうかなりアップアップ状態。その読者の気持ちを察してか中盤から後半は残酷さは幾分薄められていました。犯人が罪なき人々を残酷な目にあわす心理状態はさっぱり理解も共感もできませんでしたが、もう一つの方がよくできていた。マイ・シューバル&ペール・ヴァールーの「テロリスト」を読んだ時の驚きとちょっと似ている。
赤毛のアメリア・サックス巡査もいい。赤毛のカーロッタといい赤毛の美女の大女ってかっこいい。
おすすめ度:★★★1/2
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盤上の敵

北村薫 講談社 1999年作
あらすじ
中堅プロダクションのテレビ・ディレクター末永純一は勤務が不規則だ。昨夜は局の仮眠室で寝て土曜日の昼過ぎ車で家に帰ってくれば、家の前には数台のパトカーが止まっている。何事が起こったのかと警官に聞けば、殺傷事件を起こした犯人が妻を人質に立て籠もっているという。
感想
チェスの事はまったく知りませんが、持ち駒の連携プレーのゲームなんだな。なるほどよく出来ている。
頭脳プレーがよく練れていて、そこの部分は面白かった。。やはり白からゲームが始まっていたという事か。「昔の中国の王」とは違い、白のキングはクィーンの気持ちを大切にして、国(仕事、社会的地位)を犠牲にしたんだ。

犯罪事件が起こると、「加害者が罪を犯した原因は何か?」「何故加害者はこのような人間になってしまったのか?」とかが問題にされるけれど作者はその部分初めからばっさり切り落としていました。まずなにより大事なのは被害者を救う事ではないのか? 白のキングにこのような突飛な行動を起こさせる事で、「被害者の痛み」を意に介さないマスコミの報道やそれを興味本位に読む人達により誰が被害者かわからなくなり被害者が二重に痛めつけられる現状を、厳しく批判している。と思う。
おすすめ度:★★★★
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Jの神話 第4回メフィスト賞受賞作

乾くるみ 講談社ノベルズ 1998年作
あらすじ
全寮制の名門女子校・純和女学院の新入生・坂本優子は敬虔なクリスチャンでありオクテのおとなしい女の子。初日に上級生達は何故か優子の顔をじっと見つめる。4ヶ月前の12月25日学校の塔から飛び降りた安城由紀という女生徒に、優子は似ているらしい。
感想
女性が主体的に見えながらも男根崇拝から抜けきらない隠微な作品であった。
おすすめ度:★★1/2
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