1999年12月のミステリ


眠れぬイヴのために PRAYING FOR SLEEP

1994年作 ジェフリー・ディーバー ハヤカワ文庫 上下708頁
あらすじ
嵐が近づく11月の夜、アメリカニューイングランド湖畔の町リジトン近くの州立精神病院からマイケル・ルーベックという妄想型精神分裂病患者が脱走した。彼は5月に起こったインディアン・リープ事件と呼ばれる殺人事件の犯人だった。彼の行き先は? 目的は何か? 裁判で証言した事件の生き残りリズを狙っているのか? リズの夫オーエン、元警察官で賞金稼ぎのヘック、ルーベックの主治医コーラーがそれぞれルーベックを追う。
感想
今でもたまに「どうしてはるんかなあ」と思うんですけれど、もう10年前くらいになるのかな。12月の始め頃に広島にひとりで出張した事があって、朝早くに新幹線に乗って広島駅に着いた後、初めてなんで近かったんですけど目的地までタクシーに乗ったんです。私旅慣れてないのでちょっと緊張していたんですけれど、そしたらタクシーのラジオで医療相談がかかっていて、中年の女性が高校生の息子さんの相談をしてはったんです。いつからかはよく覚えていないんですけれど、昨夜はその息子さんが2階の自分の部屋の窓から屋根に出て、道行く人にワーワーわめき始めはったとか言われました。誰かが自分の悪口を言っていると言うんですという内容だったと思う。主人が帰ってきて息子と添い寝をしてその場は収まったとかいう話でした。お母さんは、思いあまって電話しましたというお声でした。その時はもう私、話を聞いてただごとではないと固まってしまっていたんですけれど氷ついたのは相談にのっていたお医者さんの声です。「息子さんは今どうされてますか?」「試験があるので学校に行きました。」「ご主人は?」「会社に行ってます。」「今すぐにご主人に連絡をとって帰ってきてもらいなさい。息子さんを大きな病院、大学病院があればそこの精神科に連れて行きなさい。」と、たいそう緊迫した声でした。
「精神分裂症」というのは初期に適切な治療しないと大変な事になるんだ、というのと、家族にはなかなかわからないんだというのがその時頭に焼き付きました。
この小説に書かれていることがどのくらい正確かはわかりませんが、色々考える事の多い小説でもあります。
前作の「死を誘うロケ地」はまあまあでしたが、作風ががらっと変わっていました。
おすすめ度★★★1/2
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透明な一日

1999年作 北川歩実 角川書店 298頁
あらすじ
能勢幸春は大学の3年生。12才の時に家に放火され母を亡くしていた。同じ犯人に放火され同じく母を亡くした竹島千鶴と再会し今は恋人同士だ。千鶴の父に結婚を申し込みに行くと様子がおかしい。大学の助教授だった竹島久信は6年前に交通事故で頭を強く打ち「前向性健忘症」にかかり記憶が残らない。6年前の1月6日を毎日繰り返すのだ。
感想
10年前の未解決の放火事件と、6年前の1月6日と、現在が巧みに組み合わされよくできた構成だと思う。
映画「恋はデジャ・ブ」や
「七回死んだ男」の裏返しのような話。同じ事を繰り返す人物にはその現実はわかっておらず、周りが知っていて1月6日を毎日再現するというのが新しい。これでもっと文章力があれば、結構感動物になっていたはずなのになあ(あっ、言ってしまった)。

映画「探偵ボーグ。わたし忘れています。」の主人公ボーグも同じ症状だった。寝ると前の日の事を忘れてしまう。彼には病気であるという認識はあり、それでテープレコーダーに今日あった事を吹き込んでおくという話だった。ワンちゃんもかわいかったし、これわりと面白かった。「ボディガード」の監督さんだったかな。この映画は笑ったけれど、笑い事ではないんだ。
おすすめ度★★★1/2
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どんどん橋、落ちた

1999年作 綾辻行人著 講談社 358頁
あらすじ
作者が「本格ミステリへのこだわり」という自身に掛けた枷の中で苦悩している内面を発露している連作短編集。鬼気迫るね。純文学みたい。
以前はもっとクールで「トリックなんて後から後から湧いてきます」みたいに見せるスタイリストだと思っていたのだが、、、
 
「どんどん橋、落ちた」   
面白かった。これはわかった。さぼてん◎  
「ぼうぼう森、燃えた」   
これは「綾辻」と同じ答えをしてしまった。作者に負けた、さぼてん●。この連作集では一番。  
「フェラーリは見ていた」   
まあまあかな。それがどうした?という気もせんではないけれど。。。さぼてん●  
「伊園家の崩壊」   
結構趣味の悪い話。さぼてん▲  
「意外な犯人」   
やはり映像向きの話。さぼてん▲   
作中に出てくる「サンタクロースが殺人鬼のB級映画」ってなんて言う映画なんかな。
私が見たのは「ウォンテッドMr.クリスマス」っていうフランス映画だった。サンタクロースに追いかけられる主人公の少年のママがブリジッド・フォセー。「 禁じられた遊び」で小さな女の子だった人。あまり評判のよくない「ニュー・シネマ・パラダイス」の完全版もこの人が出ているし好きだ(と話はあさってへ向かう) 感想
華がないけれど、緻密でよく練られた連作集。いささか偏執的。「フェアです、フェアです」と耳タコ物がなければもっと楽しめたかも。実験的なんでしょうね。「頭の体操」を読んでいる気分にもチラホラ。
ラストの意味深な文章。「綾辻行人」ではなかったという事か? それでいったい何が言いたいのか、わからない。
 
「どんどん」どつぼにはまっていくというか、自ら袋小路に入って行きどう活路を見いだすのか? 作者は鮮やかな転身をみせるのでしょうか? パズラーとしての純粋さを追求して、読んで面白い「小説」としてはどうなるのか興味あります。
おすすめ度★★★
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