毎年、クリスマスは心暖まるお話をお贈りしてきました。去年は O・ヘンリーの「賢者の贈り物」"The Gift of the Magi"でした。今年は「ハリー・ポッターのクリスマス」の予定でしたが。 小さいときのクリスマスの想い出はいろいろありますがMさんと いう方のクリスマスをよく覚えています。Mさんは元は英語先生で 同じ団地で子供に英語や勉強を教えていたのです。毎年、クリスチャンのMさんはその生徒さんを集めてクリスマス会をしてました。それは素朴で慎ましやかなクリスマスでした。でも、街の華やかなクリスマスとは違いそこには静かで穏やかな時間がありました。 ある年のクリスマス会でいつものように部屋を暗くしてロウソクだ けの明かりになった時にサイレンが鳴りました。それは火事を知らせるサイレンで一瞬みんなはびっくりしましたがすぐに終わりました。 それが分かると子供たちは何事もなかったようにまたクリスマス会 を続けました。 しかし、その時Mさんがぽつりと「空襲みたいだな」とつぶやきまし た。幼かった私は「空襲」という言葉の意味が分かりませんでした。でも、その一瞬のMさんの暗い表情だけは覚えています。そのMさんが空襲で家族を亡くした方だということをだいぶ後になってから人から聞きました。 空襲によって母を失った4歳の節子と14歳の清太は叔母の家に居候するが、食糧不足の折り二人は邪魔者扱いされていく。耐え られなくなった二人は空襲に怯えながら幼い兄妹は防空壕で二人きりの生活を始める。それは、子供たちだけで空襲の恐怖に耐え飢えに苦しむ生活だった。 これは高畑勲監督のアニメ「ほたるの墓」のストーリーです。原作は野坂昭如の直木賞受賞作「火垂の墓」で、神戸大空襲の中で14歳の少年が幼い妹を抱えて必死になって生きていく姿が描 かれています。 しかし、原作者の野坂昭如はこの映画のパンフレットで「ぼくは、作中の少年ほど、妹にやさしくなかった」と書いています。その結果、妹さんを失うことになります。 彼は別のところでも「あのとき自分は自分が生き延びることで精一杯で、本当はもっと醜いことをした」とまで書いています。であったとしても、誰が「正義」の名において14歳の清太や野坂昭如を 「石もて打てる」のでしょう。雲の上から「空爆」する側の正義が「空襲」される人間を裁くことができるのでしょうか。 彼には空襲するアメリカが、B29爆撃機が、戦争を始めた大日本帝国や大人たちが憎かったかもしれません。いや、それ以前に自分自身を許すことができないのかもしれません。彼は「ほたるの墓」のモデルになった妹さんにしたこと、してあげられなかったことを忘れられないのでこのお話を書いたように思えます。 その野坂昭如をして「アニメ恐るべし。おかげで、吹き切れたような気持ちもする。」と言わしめたアニメ「ほたるの墓」は故高畑勲 とスタジオジブリの渾身の一作です。 見るのにつらすぎるものなのでご覧くださいとは言いませんがまだ、ご覧になっていない方にはぜひご覧頂きたいと思います。
本年も『S−Report』をご愛読頂きありがとうございました。 内容等にいろいろと至らぬところがあったと思いますがいっそう内容の充実に努めたいと思っております。今後ともよろしくお願いいたします。 2002年1月1日には新年のご挨拶も兼ねて、例年通り 『S−Report』新年号をお送りします。 [年末年始休業のお願い] 2001年12月31日から2002年1月6日まで誠に勝手ながら期間中のご連絡は下記へメールでお願いいたします。