『S−Report』   11/29号    ユビキタスネットワークへ  − IT分野の2001年                   

 
向島(東京都江東区)には小さな路地があります。この間、天気がよかったので携帯を持って向島の路地をめぐってきました。
 これは、アートロジー(向島博覧会2001)のイベントのひとつで 携帯端末(文字情報)によるナビゲーションシステムの実験です。携帯はあまり見ませんでしたが、好きなように路地を歩き回ることが好きな私にはオリエンテーリングをしているようで勝手が違 いました。しかし、こういう楽しみ方もあるのかと思ってもみました。
 このナビゲーションシステム実験に参加した意図は、アートへの関心はもちろん地域の表示サインとネットの連携がひとつの課題であることと、携帯端末の可能性について考えるためでした。この話は別のところでするとして、

 この頃は、携帯で電話するのではなく文字を打つ光景は見なれた風景になっています。一般に料金が安いから文字による携帯メールが使われていると言われており、新型の携帯では音楽 が聞けたり、写真が撮れることをアピールしています。メーカー側は携帯はカラーで高画質になり動画も見れるようになってマルチメディア対応の携帯を志向しているようです。
 このような傾向に対して作家のいとうせいこうは携帯によって文字の読み書きが増大していることを指摘した上でこう言っています。  
 
今は過去にない文字読み書き大時代が到来している。そして、今の人達は、音声通話のような“即時的”なコミュニケーションではなく、メールのようなタイムラグのあるコミュニケーションに魅力を感じている。
 「どこへ向かう? ケータイ文化」     World PC EXPO 2001のパネルディスカションより

 マルチメディアの最先端に向かいつつある携帯ですが、メーカ ーの意図はどうであれ文字を読み書きするツールとして携帯が使われています。
 そして、読み書きのツールとしての携帯をビジネスにする傾向 も顕著になってきています。携帯にもメールマガジンの配信がされていますが、

  新潮社はNECインターチャネルと共同で、来年1月から携帯 電話で読む連載小説を始める。若者の本離れの一因は携帯電話の普及ともいわれる中、逆転の発想で読者獲得をねらう作戦。 出版社が携帯電話に有料で小説を配信するのは初めてだ。読めるのはEZweb対応のauとツーカー。利用料は月100円(通信料別)。
 連載するのは直木賞作家、乃南アサさんのホラー「あなた」と 服部真澄さんの企業サスペンス「GMO」。新聞の連載小説を手本に、1回1000字から1200字程度の文章を月曜から金曜まで毎日サイトに掲載、メールでの直接配信もする。乃南さんは約半年、服部さんは1年以上続ける予定。同じサイトには、星新一 さんの日替わりショートショートや江戸川乱歩傑作選などもある。
 画面で一度に読めるのは最大100文字程度。ボタンでスクロ ールしなければならず、新潮社内では「読みづらいのでは」との声も出たが、「月100円なら気軽に読める」「小説の発表媒体が 増える」などの理由で踏み切った。将来は詩や短歌なども加えていきたいという。
「携帯電話に「文学」配信 新潮社、連載小説を1月から」
 http://www.asahi.com/culture/update/1124/001.html

 今までも小説をモバイル機器で読むシステムはいつくかありましたが、新作の小説を携帯で読めるような試みは初めてです。 現在でも携帯による道路案内、電車乗り継ぎ案内、グルメ案内などもありますが、携帯のマルチメディア化の傾向も進んでいます。

 朝日新聞社は日刊スポーツ新聞社などと共同で、NTTドコモの 第3世代(次世代)携帯電話FOMA(フォーマ)の「iモーション」対 応端末向けに、動画ニュースを配信するサービスを開始した。 テレビ朝日などから映像素材の提供を受けて、主要閣僚の記者会見や芸能情報などの動画ニュースを携帯端末上に配信して いる。
「朝日新聞などがFOMA端末向けに動画ニュース」
 http://www.asahi.com/business/update/1127/010.html

 ただし、有料にした場合に動画ニュースを携帯端末で見れたか らといってどのくらいの利用者がいるかはわかりませんが。 しかし、携帯電話は音声による通話以外に読み書きのツールと しての携帯とマルチメディア端末としての携帯のふたつ利用法が 増えたことで、さらなる利用量の増大が見込まれています。

 一方、このごろではインターネットを使ってふつうの電話に無料でかけられるようになってきています。これはVoIP(Voice over IP) という音声をIP網(インターネット)に乗せて伝送する技術を使っており、このVoIPはこれからの「通信費圧縮のための切り札」とも言われています。
 最近、どのパソコンからでも普通の電話に安く電話できるシステムがOSに標準搭載されるようになりました。もちろん、これは単独でも使えます。

 米Microsoftが米国時間10月11日に,インスタント・メッセージン グ機能「Windows Messenger」の機能拡張について明らかにした。 Windows Messengerの新版は,次期OS「Windows XP」の発売日である10月25日に利用可能になる。
 新版では,パソコンから電話への音声通話機能をオプションで追加する。地域にもよるが,Windows XPユーザーは複数のIPテ レフォニ・サービス・プロバイダから1社を選び,地域条例のもとパソコンと電話間の通話を行うことができる。英Callserve,米delta three,米Dialpad Communications,米Net2Phone,カナダのTELUS などが,各社サービス地域内および海外への通話を提供する。 (中略)
 また,Windows XPでWindows Messengerを利用するユーザーは, MSN Messengerユーザーや他のWindows Messengerユーザーとパ ソコン間の音声通話を行うことも可能。  
 Microsoft社は,米国や世界でパソコンと電話間の通話サービスを提供するサービス・プロバイダとの協力を進め,顧客がより多く のプロバイダから選択できるようにする予定である。
「最新の「Windows Messenger」にPC-電話間の音声通話機能を追加 」http://ascii24.com/news/i/topi/article/2001/11/23/631514-000.html

 このようにブロードバントサービス、携帯電話、電話もすべて統合 されたネットワークが早期に実現するようになってきました。
 今年はブロードバンド「ネット広帯域常時接続」の時代に入り、情報格差や情報弱者の問題はますます拡大するでしょうし、ネットの安全性やプライバシーの問題も大きくなります。 」( 「ITの光と影」 1/1号)と年初にこのレポートで書きました。 いろいろと問題(1/18号)やネットワークセキュリティの問題はあ るもののネットワークインフラの整備(6/28号)は進みワイヤレス・ 携帯ネットワーク(8/2号)も伸張しています。また、テレビのデジタ ル化による通信・放送融合(8/30号)はより進みました。
 そして、WORLD PC EXPO 2001のレポートでお伝えしたように「ユビキタスネットワーク」が本格化してきました。  ユビキタスネットワークとは簡単に言うとモバイル(モバイルコンピューティング)と言われるものをさらに進めたもので、具体的には家 電や電話やAVなどがネットワークで結ばれ、駅の自動券売機や今回の展示にあったようにコーラの自販機までもがネットワークにつながれ、歩きながらでも車や電車の中からでも「どこからでもネットにア クセスできるシステム」のことです。 (9/27号)  

 このようなユビキタスネットワークはもう既にビジネスアイテムとして具体化してきました。
 ソニー社長の安藤国威がアメリカで行われたCOMDEX Fall 2001において「ユビキタス・バリュー・ネットワーク」についての基調講演を行いました。

 最近は、計算機という部分をパーソナルデータや、インターネット上の公開情報などに置き換えた意味で使われる機会が増えている。
 安藤氏が強調したのは、そこに付加価値(バリュー)を加えることで、まったく新しいビジネスモデルやサービスを生み出すことができるということ。それが可能なのはヒューマンインターフェースを開発し、デジタル技術で製品化できるソニーの強みであるという点だ。
 ソニーの目指す、相互接続されたハードウェア・プラットフォームの構築で、キーテクノロジーとなるのはデジタル機器すべてにIPアドレスを割り振り、ネットワーク化を容易に実現するためのIPv6。そして、各機器間を接続するワイヤレス技術になるという。特にワイヤレス技術は家庭内における機器接続のカギを握ることになる。
「COMDEX Fall 2001レポート ユビキタス・ネットワーク実現へ向け
   − 「FEEL(仮称)」は極めて人間的な機器間接続のインターフェース 」
  http://www.watch.impress.co.jp/pc/docs/article/20011115/comdex09.htm

  さらに具体的にはソニーがこの「ユビキタス・バリュー・ネットワーク」の実現に向けてAOLタイムワーナーやノキアと協力して事業展開を図るこ とも発表されました。

 また、日立でもホームネットワークに特化した形ですがユビキタス・ネ ットワーク対応機器の研究成果を発表しています。 (株)日立製作所は22日、同社の各研究所のユビキタス情報化社会に関する取り組みを披露する“ユビキタスフォーラム 2001”を、東京・青山の 同社デザイン本部で開催した。同フォーラムは、報道関係者および社内向けで、一般には公開していない。
「日立、ユビキタス情報化社会をデモ――レーザーポインターで家電をコントロール」 http://biz.ascii24.com/biz/news/article/2001/11/23/631514-000.html

 このように今後はブロードバンドの時代からそれを基盤としたユビキタスネットワークの時代に進んでいきます。  そして、重要なことはこの「どこからでもネットにアクセスできるシステム」 そのものではなく、それに付加価値を加えることで、どのようなビジネスモデルやサービスを生み出すことができるかです。
       
 法律の紹介


 プロバイダー責任法

 政府は「サイバー犯罪に関する条約」に署名することを決め、刑事訴訟法改正など国内法整備に着手し、早期の条約締結を目指ようになりまし た。また、国内でも「プロバイダー責任法」が成立しました。

 プロバイダーがWebサイト上の悪質な書き込みを削除できる権利などを定めた通称「プロバイダー責任法」が11月22日衆院本会議で可決・成立 した。
 法案の正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律案」です。
 この法案において「プロバイダー」とは、インターネット接続事業者だけでなく、法人・個人を問わず不特定多数の人が書き込みできるサイトの管理者を指す。コミュニティーサイトや、電子掲示板を持つショッピングサイトやオークションサイトなども含まれる。
 掲示板などで他人の権利を侵害する内容の書き込みがあった場合について、次の2項目を定めている。
 1つは、条件によってはプロバイダーが書き込みを削除しても賠償責任を負わないこと。例えば、権利を侵害されたとする被害者からプロバイダーに対して書き込み内容の削除要請があったとき、要請があったことを書き込みした人物に対して伝えたが7日以内に返事がない場合は、削除などの 「送信防止措置」をとることができる。
 もう1つは、書き込みを行った発信者情報の開示を、被害者がプロバイダーに請求できることだ。ただし、開示請求した被害者の「権利が侵害された ことが明らかであるとき」に限られ、明らかかどうかはプロバイダーの判断にゆだねられる。
 「「プロバイダー責任法」成立へ」   BizTech News (2001年11月22日)


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