『S−Report』   11/8号    お勧めの本と映画


 読書の秋ですね。どんな本を読まれていますか。いい映画をご覧になりましたか。
 さて、読書週間は終わりましたが毎年恒例のお勧めの本と映画です。


 お勧めの本


 お勧めの本は中村哲さんの 『医者、井戸を掘る アフガン旱魃との闘い』です。

 著 者:中村哲
 出 版:石風社
 サイズ:四六判 / 283p
 ISBN :ISBN 4-88344-080-X
 発 行: 2001年10月 − 11月上旬に増刷予定
 価 格:1,800円

 この本はいろいろなところで紹介されていますが、そのほとんどは同時多発テロやアフガニスタンでの戦争との関係で語られています。それもひとつの読み方かもしれませんが、それらのことを一度頭から消し去ってこの本を読んでみてはいかがでしょうか。

 長い戦乱・内乱によってどうにもならなくなったこの地域に、昨年の夏の大旱魃はさらに壊滅的な状況をもたらしました。水 が枯れ、赤痢が流行し多くの人々は住んでいる家を捨て難民となりました。
 その時、医師である著者は井戸を掘り「水源を確保して人々を引き留め、難民を出さない」という無謀ともいえる計画を実施します。
 しかし、それは飢餓や戦乱の中で素人が巨岩や荒地を手掘りするという難関を極めるものでした。この状況の中でその活動をバックアップする日本の「ペシャワール会」の人々や遠路西アフリカから駆けつけ伝統の井戸掘りの技を教えた中屋さん、さらには地雷から取り出した火薬で巨岩を爆破した元ゲリラなどの人々の力もあって、今年8月末までに512の水源を確保し20万人の難民化を防ぎ、荒地に緑をよみがえらせました。

 著者は17年間もパキスタンとアフガンで診療を続けてきた人です。そして、彼は政治的意図や主義主張によってこの活動を続けてきたわけではなく、ひたすら命を救うために活動を続けてきただけです。そして、さらなる絶望的な状況にも至ってもなお諦めることなく自ら強固な岩盤に穴を穿ち井戸を掘ったのです。

 この本には現地から遠く離れた場所で「命」を言い分けに「国際貢献」とか「難民支援」などの耳障りの良い「政治の言葉」を騙る人たちは登場しません。ここで聞こえてくるのはそのようなものとは無縁な現地で命を必死に守る人たちの声です。
 その声に耳を傾けるならばそこには民族・宗教の違いはありながらも命を守るために共に働く人たちの姿も見えてきます。
 そして、その姿はアフガニスタンばかりでなくニューヨークの消防士たちにも見ることができるのではないでしょうか。

[関連書籍]

「ダラエヌ−ルへの道 アフガン難民とともに」       中村哲著  石風社 1993年  2,000円
「医は国境を越えて」                      中村哲著   石風社 1999年  2,000円
「ペシャワールにて:癩そしてアフガン難民 増補版」   中村哲著  石風社 2000年  1,800円  

これらの本を読まない方でもこのサイトは見てみては。

[関連サイト]

 ペシャワール会                        
  http://www1m.mesh.ne.jp/~peshawar/  

 孤立するアフガンで診療所を建て、井戸を掘る
 ペシャワール会は1984年より現地活動を開始し現在パキスタ ン・アフガニスタンに1病院と10診療所を設立して年間20万人の 患者診療を行っています。加えて2000年夏より戦乱についで今世紀最悪の干ばつに見舞われるアフガニスタンの村々で約600か所の水源(井戸、カレーズ)確保作業を継続しています。

永訣の朝「無限の正義」の行方 中村 哲 http://www1m.mesh.ne.jp/~peshawar/tero02.html

[参   考]

ムスリムについて
「二つのイスラム社会」    クリフォード・ギアーツ著   岩波書店 絶版につき図書館等で探してみては。
 人類学者のギアーツが幅広く東アジアのムスリムから北アフリカのムスリムまでを考察したものです。今書かれたものではないですが「原理主義」と対極にある開かれたムスリムの姿も捉えています。今あふれてる「イスラム本」とは違う視点で見てみるのには重要です。

グローバリズムについて
「転移する時代」   イマニュエル・ウォーラーステイン編 他 藤原書店 4,800円
  「近代世界システム」という概念を提唱したウォーラーステインがさ まざまな分野の人たちと現在の世界を解明したものです。この本では今の「文明を自称しているグローバリズム」の根底にある世界システム(1945−90年までの状況)を概観し、1990−2025年の新たな世界を展望しています。

米国テロ事件についてのウォーラーステインのコメント(緊急翻訳)   
  http://www.ne.jp/asahi/norihisa/yamashita/iw-coverpage.htm

 お勧めの映画


 さて、お勧めの映画は『GO』です。

 『GO』
 監督:行定勲
 脚本:宮藤官九郎
 原作:金城一紀
 出演:窪塚洋介、柴咲コウ、大竹しのぶ、山崎努
 配給:東映  
 劇場:全国東映系、他(日韓同時公開)
 公開:2001年10月20日より、現在公開中
 
 公式サイト http://www.go-toei.com

 韓国籍を持つ主人公(窪塚洋介)は高校3年生。中学までは民族学校に通っていたが、"広い世界"が見たくなり、意を決して日本の高校を受験したのだ。入学当初こそ、"在日"とバカにされていたが、破天荒な性格と幼い頃より元プロボクサーのオヤジ(山崎努)から仕込まれてきたボクシングのおかげで、気がつけば誰も彼に手を出さなくなっていた。そんな杉原のまえにある日、メチャメチャかわいい桜井(柴咲コウ)が出現。彼女の登場によって"恋"を知った主人公の人生は、素晴らしい方向に向かっていくはずだったのだが。
 主人公の両親役の山崎努、大竹しのぶなどのベテランもですが、親友のジョンイル役の細山田隆人が光ってます。あの大杉漣が味のある脇役で登場するほか、"BOBA"(田中要次)をはじめとする脇役もすべてがいいです。ただ、演じられる役者がいないとはいえ 「バトルロワイヤル」に続いて山本太郎や柴咲コウに中・高校生の役はちょっと無理があるとは思いますが。
 日本に住むコレアンのお話で差別や民族対立も描かれていますが、これもまたそういう先入観を一度頭から消し去って見てみてはいかがでしょうか。実際に劇場では主演の「窪塚くん」目当てのコが多く見に来てましたが、上映後には「窪塚くんもかっこよかったけど、映画もよかった。」の声も聞かれました。
 ただ、ラストに主人公が叫ぶ悲痛なそして新たな想いの宿った言葉を聞き逃さないように見てください。

 この映画を見ない方でもこの本を読んでみたら。

[原  作]

 「GO」 第123回直木賞受賞作品。

 著 者:金城一紀  
 出 版:講談社  
 サイズ:B6 / 241p
 ISBN :ISBN 4-06-210054-1  
 発 行:2000年3月
 価 格:1,400円

[関連書籍]

「レヴォリューションNo.3」表題作−第66回小説現代新人賞受賞作品。
 金城一紀著  講談社 2001年  1,180円

[参   考]

「コレアン」について

「コリアン世界の旅」
 野村進著 講談社+α文庫 880円  
 従来のコレアン関係のルボルタージュを超えた「大宅壮一ノンフィク ション賞」と「講談社ノンフィクション賞」ダブル受賞作。
 『コリアン世界の旅』は、複雑多岐にわたる問題意識について、日本人によって書かれたものである。
  (「内在肯定力の旅」梁石日(ヤンソギル)による文庫版の解説より)

「在日韓国人の終焉」
 鄭大均(テイタイキン)著 文藝新書 660円
  「在日韓国人が日本で生活していることに深い意味や特別な意味はない」と言いきる鄭大均にも「GO」の登場人物たちのように葛藤や苦闘があることを私は少しは知っているつもりです。
 その苦闘の彼方に多くの批判は承知の上でこの「在日が存在理由をなくすために書いた本」(同書より)を書いたのです。

日本の中の「ヤマト」と他民族について

「古代東北と王権」   中路正恒 講談社現代新書  720円 
 ヤマトの正史である「日本書紀」を元にヤマトの蝦夷への侵略の過程を解明したものです。この本ではヤマトの他民族に対する態度の「根源 にあるもの」についての重要な手かがりが得られます。


  (注)名前等の表記はそれぞれの主張を考え「韓国朝鮮語風読み」及び 「日本語読み」のどちらかに統一はしてありません。
 映画「GO」では正一を「ジョンイル」としてありますし、鄭大均は自ら名乗っている通り「テイタイキン」としています。 また映画「GO」の主人公を名前でなく、主人公と表記してあるのにも意味があります。これは映画を見ていただければわかると思います。

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