今年もこのレポートに対して問い合わせやいろいろなご意見を頂いています。
そして、それらのご意見は単なる批判ではなく、反省させられ創造的で次につながるものばかりです。このことをここで改めて感謝します。
さて、滋賀県長浜市の『黒壁』を中心としたまちづくりに関わりながら研究を行っている、東京都立大学大学院博士課程に在籍している矢部拓也さんからこんなこんなメールを頂きました。
学生のまちづくりは、もっと地域社会が気楽に取り入れられてゆくといいと考えています。ただし、過度な期待は禁物です。先生が全面的に関わってもらえず、学生のみの関わりの場合、専門的なものは難しいですが、まちづくりへの参加を通じて、問題意識が高まり、実際の勉強への刺激にもなり、まちの人も学生と知り合うことで、いろいろな刺激を得られればそれでよいと思います。
また、学問とは大学の中のみにあるのではなく、教師という職業人のみが教えるものでもないと思っています。ともに学ぶ(協働する)という雰囲気ができるとよいと思います。
それと、卒業論文や卒業制作、調査実習の報告書など、大学が存在する限り沢山の「調査研究」が毎年行われます。これらが、何らかの形で地域社会に役立てればよいと思います。そのためには、大学内で教育が完結していてはだめなので、少しでも、教育が、大学外に開かれるようなシステムになるとよいと考えています。
その通りで、特に「大学が存在する限り沢山の『調査研究』が毎年行われます。これらが、何らかの形で地域社会に役立てればよいと思います。」というのは重要だと思います。
12月8日にTISパートーナーシップが企画した「第6回所沢まちづくり塾 若者からの9つの提案」というイベントがありました。TISパートーナーシップはTISパートナーシップは埼玉県所沢市のT、入間市のI、狭山市のSという各市の頭文字をとった広域のまちづくりのグループ(10/17号「キューポラの消えた街−小さな火を灯し、街を織る」)で今回の「若者からの9つの提案」は東京理科大学建築学科の演習の一環として実現されたものです。
東京理科大学建築学科の学生による、所沢の旧町地区のまちづくり提案です。飛白をモチーフとした空間演出、マチごと美術館、パスネットによる街の案内、空地を活用して歩く面白さを伝えるなど、ユニークな提案がたくさんありますのでご期待ください。
商店街、青年会議所、市民まちづくりグループ、商工会議所、市役所職員、個人など参加者に審査員になっていただいて優秀賞の投票も予定しています。世代をこえた交流のなかで所沢の新しいまちづくりの芽を探りたいと思います。
TISパートーナーシップ MLより
ここでは学生たちのユニークで実現性のある「若者からの9つの提案」がなされました。どれも、実際に学生たちが千葉県野田市にある大学から埼玉県所沢市に何回も足を運び、現地を見て、現地で考えたものです。
このような演習はたくさんあると思いますが、この演習の特徴はこの「第6回所沢まちづくり塾 若者からの9つの提案」の発表がこの演習のゴールだということです。
この発表前に大学の演習としての採点は終わっており、その後に学生たちはさらに自分たちの提案を練り上げ、地域の市民に提案すること目標にやってきました。
それを受けて審査員となった参加者たちも自分のまちのこととして真剣に意見を交わしていました。
もちろん、参加者は「学生だから」という態度をとったりしませんでしたし、学生たちも自分たちの提案をたんなる授業のひとつで単位取得のためと思っていませんでした。
これが、地域で「ともに学ぶ(協働する)」ことのひとつの形ではないでしょうか。
さて、インターンシップという制度があります。
これは1906年アメリカシンシナティ大学において提唱された「どの職業にも、講義ではなく、実際の仕事場でしか学べないものがある。実務を経験することによって培われた判断が理論を補う」という理念に基づいて始まり”Co-op
Program”と”Internship”に発展しました。
”Co-op Program”は、主に大学が主体となり運営されるもので、実習期間も比較的長く(数ヶ月〜1年)、単位認定されるのが通常です。
一方、”Internship”は、主に企業が主体となり運営されるもので、実習は夏や春の休み中の数週間で行われます。
日本におけるインターンシップは
しかし、その形態は一つではなく、インターンシップを大学の授業科目に組み入れて現場実習などを単位取得の対象と位置づける場合もあるし、大学とは無関係に企業や団体が実施するインターンシップに学生が参加する場合などさまざまである。
「日本におけるインターンシップの現状は?」 http://www.internship.jmam.co.jp/jmam020.html
(参考−これに関わる学生まちづくりについては11/ 7号「たんほぽの綿帽子のように− まちづくりのあらたな展開を求めて−1」)
政府の「インターンシップ」の定義は、「学生が、在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うことで、学校と企業(非営利団体等も含む)との連携によって行われるもの」となっています。
「経済構造の変革と創造のための行動計画」平成9年5月16日閣議決定
「教育改革プログラム」平成9年1月24日文部省(当時)発表
文部科学省の「大学等における平成13年度インターンシップ実施状況調査結果について」(2002/11/12)によると「単位認定を行う授業科目として実施されているインターンシップの実施状況の概要は、以下のとおりである。」
1 平成13年度の実施状況
大学: 281校(41.9%) 対前年度63校 8.4ポイント増
短大: 127校(23.4%) 対前年度19校 2.3ポイント増
高専: 54校 (87.1%) 対前年度 2校 3.2ポイント増
6.インターンシップ体験学生数
大学: 25,972人(4,909人増)
短期大学: 3,547人( 23人減)
高等専門学校: 5,066人( 288人増)
○調査時期:平成14年4月 ○調査対象:全ての国公私立の大学・短期大学・高等専門学校 ○回 答 率:100%
*ただし,教育実習・医療実習・看護実習等特定の資格取得を目的として実施するものは本調査においては除外している。
このように、主に「産学連携による次代の人材育成」と「在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行う」ビジネスインターンシップは年々盛んになっており、また、数多くの高等教育機関もいろいろなインターンシップを単位認定しています。
さて、12月18日に麻布大学インターンシップ報告会「インターンシップで得たこと−単位化に向けて」が開催されました。 2002年度、麻布大学環境保健学部では、8名の学生がNPO5団体と荒川区でインターンシップを行いました。インターンシップとは、NPOや行政、企業において教育の一環として体験実習を行うことを指しますが、学生の間でもまだまだ十分な認識が得られているとは限りません。そこで、環境保健学部からインターンシップに参加した学生から報告をしてもらい、インターンシップの教育的効果について学生・教職員で考えてみたいと思います。
なお、環境政策学科では、来年度からスタートする新カリキュラムにおいてインターンシップを単位として認定します。
麻布大学生向け案内より
この報告会では8人の学生が企業とかではなく、自治体や地域の密着しているNGO・NPOでのインターンシップの体験を同じ学生たちに自分たちの言葉で語りました。一人一人がインターンシップで学んだことを伝えようとしていました。もちろん、プレゼンテーションに慣れていないこともあって伝わらなかったこともあったでしょうが、インターシップの体験やそれを「伝えたい」ということは伝わったと思います。
そして、今回のインターンシップでお世話になったNGO・NPOの方々も会場にみえており、学生たちの報告を真剣にとらえ「学生たちに気づかされた」ことについても発言していました。
今後の日本におけるインターンシップは「産学連携による次代の人材育成」と「在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行う」ばかりでなく企業に限らない多様なセクター(NPOも含めて)でのインターンシップが盛んになります。(もちろん、「産学連携による次代の人材育成」を否定しているのではありません。)
文部科学省の報告にあるように、現在多くの大学・高等教育機関がインターンシップを単位として認めていますが(註)、麻布大学環境保健学部環境政策学科では行政や企業ばかりでなくNGO・NPOも含む幅広い活動(環境関係)への単位認定を来年度予定している点で非常に有意義なものです。
(また、麻布大学のこの試みはコミュニティ・サービス・ラーニング(Community Service Learning )にも近いものであり、その点でも画期的なことです。)
さて、「まちづくりのあらたな展開」の四つめは「地域での民学協働」です。これは地域で「ともに学ぶ(協働する)」という意味での「地域での民学協働」です。
もちろん、現在の大学・高等教育機関も学内で研究や教育が完結している訳ではなく、学外では「広く専門機関としての提言・支援」「政策提言」、「産学協同」「民学協同」のプロジェクトや「市民への公開講座」など、「研究」や「教育」以外でも社会で大きな役割を果たしています。
しかし、大学・高等教育機関の上記の学外の活動以外は「研究」や「調査」を主な目的として地域と接することが多いです。 また、まちづくり・地域づくり、NGO・NPOや市民活動との「地域での民学協働」も数多く行われていますが、現状は研究室単位の活動である場合が多いです。
それをさらに進めて大学の授業(演習)の中で市民に具体的な提案をする東京理科大学建築学科の試みや広い意味でのインターシップを単位化する麻布大学環境保健学部の試みはこれからの大学のあり方としても重要なもので、「地域での民学協働」の具体例となるのではないでしょうか。
また、地域やNGO・NPO・市民活動の側も学生を単なるお手伝いとしてではなく、インターン・パートーナーとして迎え入れる体制づくりを考えなくてはならないのではないでしょうか。
今回もいろいろとご協力頂いたすべての皆さんに感謝します。
註−もちろん、インターンシップの単位認定対象は「企業(非営利団体等も含む)」(文科省)となっており、公益法人やNGO・NPOでのインターンシップを認定している大学はありますが、対象がJETRO、JICA、JODCとかNGO・NPOでも前者に準ずるようなところばかりというのが現状です。
また、NGO・NPO「論」を売り物のひとつとしているいくつかの大学でも「行政機関と企業しかインターンシップ単位認定の対象としていない」例さえあります。
補−できれば、さらに学生自身が自らの専攻や研究課題を実践できる受け入れ先を開拓する「インディベンデント・スタディー型インターンシップ」を目指してほしいです。
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