『S−Report』  9/19  作者から −メディアのパラダイムシフト(9)


 小説家をはじめとした作家の個人サイトはたくさんありますが、今回は単なる個人サイトから別のサイト・メディアに発展し、それがどうなるのかについてです。作家の村上龍は以前から向現という事務所を主催し、主に経済のメールマガジンJMM [Japan Mail Media]を発行したり、「セルフパブリッシング/向現 Author's Own Publishing(こうげん・オーサーズ・オウン・パブリッシング)」というオンデマンド出版を手がけています。

 富士ゼロックス株式会社(本社:東京都港区赤坂2-17-22、社長:坂本正元、資本金:200億円)と作家の村上龍氏(事務所名:向現 東京都杉並区和泉4-25-11)は、著者自身がインターネット上で作品を公開し、出版と販売を行なう新しいWebサイト「セルフパブリッシング/向現 Author's Own Publishing(こうげん・オーサーズ・オウン・パブリッシング)」を共同で開設。12月24日から運営を開始いたします。 この出版サービスは、富士ゼロックスのコンテンツビジネスである「BookPark(ブックパーク)」サービス事業の一環として、オンデマンド・パブリッシング技術とインターネット・ドキュメント・サービス技術を利用しています。

「著者自身によるセルフパブリッシングを支援」  富士ゼロックス株式会社 1999年12月16日
   http://www.fujixerox.co.jp/release/991216.html

 今回、セルフパブリッシング/向現では村上龍の作品の中で自分の好きな短編を集めて一冊の本にしてくれるというサービス「グリーティングブック」を始めました。

 これは、「物語にあなたの気持ちをこめて贈る、新しい物語の読み方、贈り方を提案する、新しい本の形です。」  そして、「グリーティングブック」には中表紙に贈り主・贈られた相手の名前とメッセージをいれるものです。
 グリーティングブック http://www.greetingbook.com/

 村上龍はこの発想を彼が高校生の頃にチェーホフの短編を好きだった女の子にコピーして、自分で挿絵をつけて郵送しようとしたことから思いついたようです。

  さて、このことが彼の言う「つまり、一編の短編小説と、それを誰かに送りたいと考える人と、受け取る人を、個別にオンデマンド出版が結びつけることができるわけです。」(同前より)かどうかは別にして単なるオンデマンド出版とは違っていることは確かです。

 また、この富士ゼロックスの「BookPark(ブックパーク)」サービスでは小松左京の全集も刊行しています。  いよいよ私の全集がオンデマンド版で発行されることになった。

 私の作品集は、1995年から96年にかけてジャストシステムが全5巻の「小松左京コレクション」を出してくれたものがあるだけである。  全集を、という声はよく聞いていたが、実際に私の全作品をまとめるとなると、単行本で長編だけでも15作品20冊、短編集が36冊、児童書が6冊、戯曲集が1冊、ショートショートが200編近くあって1冊。ノンフィクションも入れると100冊を越え、対談や座談会も含めた「全集」となると、120冊にはなる。これだけのボリュームを今までの「全集」という概念で引き受けてくれる出版社は、残念ながらいなかった。私も40年近くなる作家生活の成果を「まとめる」のは、無理だろうと思っていた。  しかし、20世紀のイノベーションの最たるコンピュータが、それを可能にしてくれたようである。(中略)
 さらに欲を言えば、私の企画構成したイベントの映像や、ドキュメンタリールポの映像、漫画、映画、朗読も含めた、「マルチ・メディア全集」も作ってもらいたい。こんなとんでもない「夢」も、きっと近いうちに実現してしまうことだろう。おそろしい世の中だ。 「セルフパブリッシングの可能性−『小松左京全集』オンデマンド版発行に寄せて」

 小松左京 http://www.bookpark.ne.jp/sakyo/yosete.asp

 このように、120冊にもなる全集は確かに全体ではコストが合わず、オンデマンド出版が向いています。  しかし、ここで重要なことは、小松左京が自己の著作ばかりでなく「イベントの映像や、ドキュメンタリールポの映像、漫画、映画、朗読も含めた「マルチ・メディア全集」」も考えていることです。

 つまり、小松左京が単に既存の作品の新しいメディアへの移し替えではなく、新しい形でのメディア表現を提案している事です。 もちろん、村上龍の試みもです。

 作家の山川健一が企画したサイト・メールマガジン「文学メルマ!」は2000年12月8日に創刊されました。この「文学メルマ!」では文芸誌のように毎週現役作家の連載が掲載されており、また、その中からいくつかの作品が出版され、文学メルマ!新人賞受賞作品も出版・オンデマンド出版されています。

 「文学メルマ!」は9月末日をもちまして、リニューアルすることになりました。10月15日からは版元であるサイバーエージェント社のメールビジョンに連動し、HTMLメールマガジンの「文学メールビジョン」に生まれ変わります。wwwサーバ上でも「文学メールビジョン」は購読できますが、新しいコンテンツはHTMLメールマガジンとして配信されます。 
  「リニューアルのお知らせ」 文学メルマ!通信 第89号 2002/9/19

 「文学メルマ!」もまた、新しい形でのメディア表現に向かってメールビジョンへ変化していきます。  メールビジョンとは、メールアドレスを登録するだけで、読んで面白いだけでなく、写真・映像・音声など、見て、聴いて楽しいコンテンツが、自動的に送られてくる新 しいメディアです。そのジャンルは、お笑いなどのバラエティ、英会話やクッキングなどのカルチャー、野球やサッカーといったスポーツ、さまざまな音楽情報と多岐にわたります。

 これまでのメールマガジンのように、長い文章の中から自分の知りたい情報を必死に探す必要はありません。メールビジョンは、朝のお出かけ前の一瞬や、仕事の合間、学校の昼休みなど、ちょっとした短時間で楽しめるように設計されています。あなたの五感を刺激して、ツボに突き刺さるエンターテイメント、それがメールビジョンなのです。
  「メールビジョンとは」メールビジョン http://www.mailvision.jp/
 
 このように、今まで単なる作者に過ぎなかった人たちが、販売・流通そして、新しいメディアの企画を始めています。
 この動きはこの連載「メディアのパラダイムシフト」でお伝えしてきましたように普通の人が「自前のメディア」(1/11号)を持ち、ネットを武器に既存のメディアに拮抗する表現を始めたり、既存のメディアでも「エキストラから」(3/14号)共同表現者になる時代のひとつの方向です。  新しい形でのメディア表現はこのような新しい担い手によって創られていくことになります。

 

   イベントの紹介


 
名称:千年芸工

  期間:10月11日(金)〜10月13日(日)

  会場:東京都台東区谷中5-7-7 株式会社 玄/ART SPACE GENT    
                       電話番号03-5685-9249

  主催:越前伝統開発研究会(OPEN DOOR) 事務局  松田蒔絵工房内 福井県鯖江市河和田町12-17
      Tel&Fax 0778-65-0760 shokan@land.hokuriku.ne.jp  
      http://www.ttn.ne.jp/~washiya/opendoor/index.html

  内容:

 越前の伝統技術は、千四百年以上の歴史に培われ日本の文化を代表する技術が伝承されています。しかもその技術は、時代に対応した商品に支えられてきました。 こうした技術と歴史の文化遺産を、漆器・和紙・織物・眼鏡など異業種と異業種の融合を図り共に新しいコミュニケーションの場を築いていくことを目的として活動しています。
 今回も越前漆器のつくり手とそのつかい手がコミュニケーションを図り、一緒に創り上げた商品と新たなライフスタイルの提案を企画・展示します。 福井県伝統的工芸品の商品を多くの人に見ていただき、ご批評やアドバイスなどを頂けましたら幸いに存じます。


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