『S−Report』  8/8  アンアクセス−プラグを抜く −ユビキタスネットワークの世界へ(6)


  6日に住民基本台帳ネットワークの住民コードが地元自治体から交付・通知されました。この通知書にはこのシステムのメリ ットについて書かれてはいますが、5日から稼働しているのに 通知が6日になっていることの説明はなされていません。
 また、この住民コードの通知を自治体が本人ではなく他人にしてしまったというあってはならないことが兵庫県三田市や富山県立山町等で多く起こっています。

 総務省は7日夜、住基ネットの住民票コード通知の際の誤通知が相次いでいることから、作業に慎重を期すよう都道府県を通じ全市区町村に通知した。通知は井上源三・市町村課長名で出された。通知書の記載事項に誤りがないか・通知の秘密保持は十分か・確実に通知書が本人や世帯主あてに送付されるかの再確認を求めている。 
   「誤通知多発で市町村に慎重な作業求める 総務省」   毎日新聞 8/7  

 住民基本台帳ネットワークは5日からこれ以外のトラブルも続いており、その信頼性、安全性に疑問をもたれています。
 住民基本台帳ネットワークについては、いろいろな立場から論議がなされており本レポートの参考の項目に関係サイト(URL) を書いておますので参考にしてそれぞれお考えください。

 ここでは、住民基本台帳ネットワークを構想した人たちの主張であまり信用できない点を指摘するにとどめます。  それは住民基本台帳ネットワークのシステムは「民間の最高水準で作られたシステムだから安全」と「外部のネットワークとは別のネットワークであるから安全」という主張です。

 まず、住民基本台帳ネットワークのシステムは「民間の最高水準で作られたシステムだから安全」とのことですが、実例で言うと あまり説得力はありません。
 みずほホールディングスは合併前の三行のオンラインシステムを統一する際に、「民間の最高水準で作られたシステムだから安全」であり、「多少の障害はあっても利用者に迷惑をかけていない」 と主張しましたが、実際は利用者に多大な迷惑をかけたことは皆さんも忘れていないと思います。

 次に、住民基本台帳ネットワークのシステムは「外部のネットワークとは別のネットワークであるから安全」とのことですが、これも実例で言うとあまり説得力はありません。

 外務省は以前に省内システムと外部のシステムを同じネットワークにしていて、サイトを乗っ取られたり情報漏洩があり、現在は省内システムと外部のシステムを別のネットワークしています。
 ところが、外務省の登誠一郎経済協力開発機構(OECD)大使が自分のプライベートアドレスから発信した個人的な不倫のメールが省内の掲示板に掲載された事件がありました。
 もし、この大使の(省外のメールシステムを使っている)プライベートアドレスのメールが省内のシステムで掲示板に反映されていたとしたら省内と省外を別のネットワークしているからといっても、安全性や信頼性も確保されていないことになります。
 また、仮に何者かがこの大使の(省外にあるメールシステムを使 っている)プライベートアドレスのメールを盗み、省内の掲示板に掲載されたのだとしたら外務省のセキュリティは成り立っていないことになります。

 住民基本台帳ネットワークのシステムは「民間の最高水準で作られたシステムだから安全」ではないし、「外部のネットワークとは別 のネットワークであるから安全」ではないのが現実です。

 政府の諮問機関である電子政府評価・助言会議ではセキュリティに関して各省庁のどんでもない実態が浮き彫りにされてます。
 以下、「本年」14年6月11日に行われた「第5回電子政府評価・ 助言会議議事概要」より引用しますが、上記の主張を裏付けるようなことを各省庁が認めているといっても過言ではありません。

総務省 − セキュリティホール問題、セキュリティポリシー未整備
 総務省のセキュリティホールの問題に関連して「セキュリティ面でのトラブルについては、情報セキュリティポリシーに今回の経験を組み込みつつ、これを踏まえて対応していく。」

経済産業省 − セキュリティ対応の人材難  
 セキュリティテクニックの一部に関しては「3,300ある地方自治体に対し人材を確保することは大変である。」

総務省 − 地方自治体の体制の未整備
  「地方自治体の体制整備が十分つくれるかという問題については再三指摘を受けてきた。正攻法は自治体職員のITリテラシーの向上で あり、セキュリティ問題を中心に職員1万人の研修を、国の予算と地方財政措置で支援していく。」

情報セキュリティ対策推進室 − 政府全体のセキュリティ体制の未整備
  「すぐにうまい方法が見つかる訳ではないので、官で自らやるべき部分、すなわち最低限の核を作っておいて、あとは外部の第三者を積極的に活用することが重要であると考えている。」

http://www.kantei.go.jp/jp/mille/densiseihu/dai5/5gaiyou.html

 詳しくは上記の議事概要を見ていただくとして、これでは住民基本台帳ネットワークが4つの情報しか開示しないとしても、その運用体制の基本がまったく出来ていないとしか言えません。

 さて、住民基本台帳ネットワークに対して既に福島県矢祭町や東京都杉並区がネットワーク接続(接続)を拒否していて論議を呼んで います。また、政府はこの予想外の反応に驚いているようです。
 この住民基本台帳ネットワークシステムを構想した人たちは「接続されなければ、アクセスされなければeネットワークではない。」ということを知らなかったようです。つまり、「法律で決まったから自治体は接続する」という程度の人たちはこのようなeネットワークの本質を分かっていなかったようです。

 eネットワーク、もちろん、ユビキタスネットワークも中央集権的なオンラインネットワーク(システム)とは根本的に異なり参加によって初めて成り立つネットワークです。つまり、多くの人が自発的に参加してデータを提供するから成り立つシステムです。

 しかし、多くはITゼネコン(ベンダー)の「eネットワークは分散型ネットワークでデータを効率よくローコストに共有できる」とか「eネットワークはユーザーニーズを的確に捉えることが出来る」とかいう分かったような説明を鵜呑みにして、eネットワークに分散処理とその相乗作用のメリットをしかみてなかったのでこういうことになったようです。
 ビジネスではこの原則を忘れたアクセスのない「寒い」サイトやeネッ トワークが目立ちます。

 かつて、イヴァン・イリッチがエネルギー問題に関して“アンプラグ" (プラグを抜く)[註]を主張しましたが、ネットワーク社会、ユビキタスネッ トワークでは福島県矢祭町や東京都杉並区のような”アンアクセス”が重要です。
 この連載でもユビキタスネットワークはいつでもどこでもネットワークにアクセス「できる」ネットワークだと説明してきましたが、いつでもアクセス 「しなくてはならない」ネットワークだとは言ってきませんでした。
 単なる接続をしないだけでなく、個人情報を含めて「提供しない」という意味での”アンアクセス”が権利やプライバシーを守り、ユビキタスネットワークを健全なものにしていくことになります。

[註]イヴアン・イリッチ「エネルギーと公正」1979年(原著1974年)

 ユビキタスネットワークの世界へ(7)へ

   サイトの紹介 


 住民基本台帳ネットワークを推進する側と反対する側の代表的なサイトです。  

 住民基本台帳ネットワークシステム全国センター  http://www.lasdec.nippon-net.ne.jp/rpo/juki-net_top.htm

 国民共通番号制に反対する会  http://kokuminbango.hantai.jp

 

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