『S−Report』  7/11  コミュニティの力とまちのカルシウム  −潜在的なコミュニティの力


 先日、川越JC主催で「熱血生討論!!地域コミュニティーの役割とは」というイベントがありました。ここでは講師に作家の野坂昭如さんを招いて講演を行い、また、市内で活発に活動しているコミュニティ代表者の熱いバネルディスカッションが行われました。
 ここで、問題になったのは「コミュニティの役割とは何か」ということでした。もちろんここではその結論は出ませんでした。

 今年は年初からいろいろな全国規模の地域活性化のシンポジウムなどのイベントにも数多く参加し、その一部はこのレポートでもご報告しました。いろいろとテーマはありましたが、それらに共 通している課題は「現在、コミュニティが衰弱しているがどうしたら それを活性化することができるか、また、コミュニティの役割とは何か」でした。そして。そのために立場や考え方は異なっていても それぞれが真剣に取り組んでいました。  

 北九州市のNPO法人「まちのカルシウム工房」理事長の竹内裕二さんは現在の衰弱しているコミュニティ姿を人の体でいえば 骨粗鬆症にかかっていると診断し、まちのカルシウム不足解消のために「まちのカルシウム工房」を始めました。
 竹内さんは北九州市の出身で東京で都市計画系のコンサルタ ント会社で仕事をしていました。ところが、クリーニング屋をやっていた実家の父親が倒れられたので、実家のクリーニング屋を閉 めるために帰って来たそうです。
 ところが、久しぶりに自分の街に帰ってきて街や商店街は元気 がなかった事に衝撃を受けたそそうです。  そして、商店街に人通りの絶えなかった昔の「活気」を取り戻す ために若松区にポランティア団体「まちのカルシウム工房」を設立 しました。
 最初は、地元ではあまり積極的にまちづくりに参加する人は少なかったのが、次第に「住民のつぶやきを大切にしたい」という「まち のカルシウム工房」の姿勢が評価され「まちの健康診断カルテづく り」の参加者も増えてきて、今では地域の活性化に貢献しています。 (有名な事例なので活動の詳細は下記の記録等をご覧いだければ と思います。)

 始めて参加した受講生の多くは、「果たして、まちづくりに関心を 持った市民だけで、地域や行政を動かすことのできる提言書がで きるだろうか。」との不安でいっぱいだったと思います。(中略)
 そのような状況で笑ったり、悩んだり、驚いたりしながら8回の講 座が行われ、誰に見せても恥ずかしくない提言書が完成しました。

  「北九州市の八幡東区前田地区発  まちの健康診断カルテづくり実戦記録」
   前田まちづくり協議会・NPO法人まちのカルシウム工房

  ここでは早稲田商店街のように商店街のメンバーから自主的に始まったのではなく、竹内さんがまちのカルシウムを補充する活動 を始めたことで受身であった住民が自主的に動いていったということ は重要です。
 つまり、潜在的なコミュニティの力を「まちのカルシウム工房」が引き出したということです。


  さて、6月29日〜30日に行われた日本ボランティア学会の年次大会 のテーマは「コミュニティの力」でした。

 日本ボランティア学会2002年度年次大会「コミュニティの力」   http://popo.or.jp/vgakkai/commu.html  

 日本ボランティア学会は学者・研究者の集まりである一般の学会と異なっています。

 ボランティアの能力を高めること、その社会的なイメージを高めることを目標として、自律と協働にもとづく経験を知の体系に織り成し、その知の力を実践にもどすために、日本ボランティア学会を設立すること にしました。  
「日本ボランティア学会設立趣意」

 このような趣旨のもと、日本ボランティア学会は実際にボランティアを行っている人たちが数多く参加している団体です。

 本年度は、日本ボランティア学会の総合テーマとして「コミュニティの力」 を掲げました。「コミュニティ」は、ボランティア活動が掲げる理念を実現 する場や社会関係を意味します。コミュニティに内在するこの「地域性」 と「共同性」を、いわば縦糸と横糸とし、21世紀の旗印ともなる新しい図版が織りあがることを願っています。

 日本ボランティア学会 2002年度年次大会委員長 園田恭一

 このテーマのもと2日間に渡って「コミュニティの力」について多くの発表や討議がなされており、重要な事が語られました。それらは、ここではとても語り尽くせないので、そのまとめとして会長の栗原彬さんの閉会あいさ つを引用します。  (但し、私が聞いた範囲ですのでその点はご了承ください。)

 2002年度年次大会は「コミュニティの力」をテーマとして今まで討議してきたわけですが、「コミュニティの力」で思い起こされるのは「阪神淡路大震災」です。   
 あの震災で助け出された人が多いのは淡路島でした。それは、地震の起こったとき誰がどこにいるかを分かっていたからです。
 つまり、いつも、どこそこのおばあちゃんは「いつ、どこで、何をしているか」をみんなが知っているということがあって、閉じこめられたおばあちゃんを助け出すことが出来たわけです。
 これが「コミュニティの力」のひとつの例です。

  また、神戸でも長田区間野地区というところがあります。
  ここは奇跡的に震災にあっても人が助かったのですが。それには理由があって間野地区というのは震災前に中小の工場と商店と住居が混在していたのですが、環境が良くないということで工場は郊外に出ていってもらおうという論議が地域であったのですが。
 その論議の中でこのような工商住混在の街をそのまま生かすために地域を変えようということになったんです。その中で街の人たちが火事が出たらどうする、誰かが倒れたらどうするとあらかじめ決めておいたそうです。

 しかし、このような「コミュニティの力」ばかりだけではないんですね。  

 これは中坊公平さんのお話なのですが、森永砒素ミルク事件の被害者で十七歳で亡くなった知的障害を持った男の子のお話です。
 この子は、生涯で3つの言葉を覚えたそうですが、それが「おっかあ」「まんま」「あほう」なんですが、「おっかあ」「まんま」は母親が生きていくのに必要なので教えたんですね。
 この子は外へ出たがるので、首に名札をかけて出してやった。
 そうしたら、砂や水をかけられて戻ってくる。そして、外では泣かないで、家に帰ってから母親にすがりついて泣いたそうです。
 そして、いつの間にか「あほう」と言う言葉を覚えてしまったんです。  

 この子に「あほう」という言葉を浴びせて覚えさせたのも「コミュニティの力」なんですね。
  (中略)  
 私たちはこの両義的な「コミュニティの力」のことをよく考えて新しい公共圏の創出をしましょう。

 「コミュニティの役割とは何か」というのは、簡単に結論がでる問題ではありません。
 そのことよりもこの両義的な「コミュニティの力」を前提に「コミュニティとは、その役割とは何か」を常に考えて問い直していくことが重要です。
 さらに言えば、「コミュニティの役割」のひとつに、いろいろな仕掛けに よってマイナスの力をプラスに転化して、潜在的なコミュニティの力を引 き出すことがあるのではないでしょうか。

(参考) 「三つ目の言葉 「あほう」と、世間が教え込んだ」

 中坊公平  「金ではなく鉄として」連載 第53回   『朝日新聞』 朝刊 2001/11/05(下記の本に収録)
 森永砒素ミルク事件の被害者遺族家庭を訪問して。
 行政が、森永を守ろうと「ヒ素ミルク中毒に後遺症はない」と表明したため、「自分の病気をいつまでも森永のせいにして」「金欲しさだろう」などと 被害家庭への差別が助長されていた。


   本の紹介 


 「金ではなく鉄として」 中坊公平  

 この本には決してきれいごとは書いてありません。著者は自分の誤りや 愚かさも隠さず語っています。
 骨太に生きていくために必要な鉄分とカルシウムを補給するためにもぜひお読みください。

 「金ではなく鉄として」   中坊公平  岩波書店  

 本体  1,400円  発行  2002年2月25日
 ISBN  4-00-022516-2 C0095

 大好評を博した話題の新聞連載がいよいよ1冊の本に!
 虚弱で,人付き合いも下手で,劣等生であった中坊少年は,どのようにし て,弱きを助け,強きを挫く「弁護士・中坊公平」になっていったのか.幼少期の思い出から,森永ヒ素ミルク中毒事件を担当するまでの,いわば「人 間・中坊の原型」を豊富なエピソードで辿る.待望の決定版・自叙伝.  (聞き手・構成=武居克明)
 http://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?isbn=ISBN4-00-022516-2 


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