『S−Report』  4/11   川場村の中の世田谷区、世田谷区の中の川場村


 群馬県の川場村と世田谷区と合併が合併する??こんな話が新聞等で話題になっています。
 人口約4000人の群馬県川場村が東京都世田谷区との合併 したいという話が持ち上がっているというのです。川場村は「平成の大合併」で利根郡8町村及び沼田市との合併話が出始めているのですが、一方で20年前から「縁組協定」を結んで交流 を続け世田谷との「20年に及ぶ関係を埋没させていいのか」との論議もあり冒頭のような報道になったようです。
  「平成の大合併」は、市町村をめぐる3度目の大きな動きだ。 市町村数は明治時代に約7万から約1万6000になり、昭和の戦後期には約1万が3分の1になった。今回、政府は市町村合併特例法が切れる2005年3月末までに、約3200市町村を 1000に減らすことを目指している。
 特例法には、さまざまな合併優遇策を盛り込んだ。発行額の7割の償還を国が負担する特例債の発行や、合併後10年間の 地方交付税額の維持などだ。一方で、合併しない小規模な市町村に交付税削減の「圧力」をかける。
 合併はどこまで進むのか。朝日新聞社が2月に調べたところ、 05年3月までの合併が有力なのは全体の2割の692市町村だ った。このままなら約2700までしか減らない。「さらに過疎化が進む」などと慎重な市町村は少なくない。「合併をしない宣言」を した福島県矢祭町のような自治体もある。
 こうした自治意識の高まりや、住民の意向をくまないままに国が合併を求めれば、「平成の大合併」は簡単には進みそうにない。 
「市町村合併」  朝日新聞 3月27日付朝刊    http://www.asahi.com/edu/nie/syasin/kiji83.html

 「現在、内政上最重要課題は何かと問われれば、霞ヶ関、永田町を中心とする中央においては市町村合併であると多数の 方が答えるだろう」(総務庁市町村合併推進室 高島室長)だ そうですが「平成の大合併」と呼ばれるこの市町村合併につい ては各地でその対応に苦慮しています。

 多くの都道府県で市町村合併推進要綱検討委員会が設置され、合併協議会を設置した市町村も多く、また、2005年3月 (合併特例法期限)までに合併することが望ましい市町村に多くの市町村があげられています。
 前記の市町村合併推進室高島室長が雑誌「地方自治」(2001 /10)に発表した「平成の市町村大合併の理念と展望ー自己改革による真の地方分権の実現」などを読むと問題が多いです。 (以下、特に指定が無ければ引用はこの論文からです。)

 市町村大合併の趣旨は地方財政の逼迫の現状を解消し、「住民本位の行政を実現」のために「行政事務効率化」を図ることのようです。
 市町村大合併がなぜ必要なのかということに対して、前出の論文の中の「他の代替え手段の可否」で他の代替え手段がないこと をあげています。

 代替え手段としての「広域行政行政組織」については「合併しても住民にとって実態は変わらないのであるから、広域行政組織が 存在している地域はむしろ合併の条件が整っているということが言える」
 自治体の独自性は行政効率だけの問題ではなく、歴史・文化の継承や地域の一体感などの住民の意識の問題であるはずです。

 代替え手段としての「他の行革手段の存在」については「行政に関するスモールイズビューティフルのような意見」もあるが「しかし、 小さな市町村で出来る努力は大きな市町村でできるはずであり」 とあります。
 自治体でも企業でも大きくてできないこともあります。スモールイズビューティフルかはどうかは別にして小さいからできることも多いですよね。

 代替え手段としての「都道府県事務の肩代わり」については「市町村合併が困難であると言われる地域について都道府県事務の 肩代わりをすることをにより対応できるということもよく出てくる議論だが住民本位の行政を実現することを目的とした基礎自治体の強化が今回の理念なので(中略)(このような)措置は逆行していると思われる。」
 単なる事務だけの問題であれば県どころか民間や地域のNPOへの移管やアウトソーシングを推進するのが現在の常識であり、この考えは逆行していると思われます。

 このようにみてくると市町村大合併を推進するには(「他の代替え手段の可否」ではなく)「他の代替え手段の検討」が足りないようです。

 また、この論文では地方交付税改革との関係では市町村が「今までのように歳出から歳入を差し引いた不足額が地方交付税として配分され、なんとなく予算を組めるようなことはなくなってくると思われる。」とあります。
 バブル期ならともかく、今、なんとなく予算を編成できる自治体はどこにあるんでしょうか。
 これに付随して合併したら地方税収入が増えるといった安易な論 理を展開してますが、場合によっては負担も増える場合も多いということには触れられていません。

 そして、「地方交付税改革との関係ー市町村合併の推進のムチか」 という章では地方交付税改革は市町村合併の推進のムチではないとわざわざことわっていますが、前出の朝日新聞の記事には「特例法には、さまざまな合併優遇策を盛り込んだ。発行額の7割の償還を国が負担する特例債の発行や、合併後10年間の地方交付税額 の維持などだ。一方で、合併しない小規模な市町村に交付税削減の 『圧力』をかける。」とあります。

 ここまで来ると、市町村大合併は「住民本位の行政を実現」を口実に「行政事務効率化」を盾にとって自分たちに都合の良い行政を行いたいという「霞ヶ関、永田町を中心とする中央」の意向のようにも思 えてしまいます。

 ここでは決して市町村大合併を否定しているのではなく、必要があり住民が望む市町村が合併することには反対しません。

 ただ、今求められているのはこのような市町村大合併ではなく「人口や面積が拡大していくことが、都市の成功であるという考え方を全 く違う方向に転換させること」(「コンパクトシティ」3/21号「コンパクトシティとコミュニティ型商業」)ではないでしょうか。

 群馬県川場村と世田谷区との合併のお話ですが、世田谷区区民 健康村・ふるさと交流課菊池課長によると報道とは少し違って「今の所は住民の要望レベル」(3/27)ということのようです。
 しかし、川場村と世田谷区では区民健康村施設のような単なるハードな事業を展開してきたのではなく、レンタアップルや農業体験、 農産物の販売、小学生の移動教室などの幅広いソフトな事業の実績を積み上げてきました。
 さらに両者の締結した「友好の森事業に関する相互協力協定」によると世田谷区民が川場村の自然環境を一方的に享受するだけで なく、川場村の自然を保全育成していく環境問題の新しい取組み方にまで成長しています。
 この交流の実績が群馬県川場村が東京都世田谷区との合併したいという要望の背景にあります。

 「川場村の中の世田谷区、世田谷区の中の川場村」のような各地で長く行われている市町村の相互的な地域交流関には「行政事務 効率化のための平成の大合併」とは違った新しい時代の市町村のあり方があるのではないでしょうか。

   健康村


  この川場村と世田谷区の活動についてはこのサイトをご覧ください。

    「健康村」     http://www.furusatokousha.co.jp/



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