『S−Report』  2/14  印刷・電子メディア融合 PAGE2002  − ユビキタスネットワークの世界へ(1)


 昨年は「紙の本はどうなるのか、電子の本は?そして、本の将来は?」というテーマで「紙の本・電子の本」を連載しました。その連載中も印刷・出版の分野でもいろいろな動きや技術革新がありましたが、今年の「PAGE2002」を見ても今年もその傾向はさらに加速するようです。
 これは単に印刷業界のこととしてでなくあらゆる仕事に共通する課題だと思ってお読みください。

 「PAGE2002」は社団法人日本印刷技術協会(以下JAGAT) が開催している日本唯一のプリプレス専門コンベンションで、今年は2002年2月6日〜8日で開かれました。
 今回のテーマであるデジタルメディアとデジタル印刷での「コミュニケーションの再構築」のもといろいろな講演やセミナーが行われましだが、今回の主なポイントは下記の通りです。

 ・XML- 印刷も含めたメディアの基礎技術としてのXML
 ・電子テキスト - アドビシステムのPDF、基礎研究
 ・デジタルワークフロー - 印刷を電子的に行う一連の仕組み
 ・業務システム - 効率化の諸機器、システム
 ・低コスト - 低コストを実現するシステムや機器
 ・標準化 - 雑誌広告基準カラー対応機器
 ・DTP - 各種新技術、新フォント、OSX関連
 ・技術開発 - 電子の紙ともいえる新媒体「電子ペーパー」

 どれも『S−Report』触れてきた重要なアイテムばかりですが、今回は印刷分野の新動向とクロスメディアのツールとしてのXM
Lについてお話しします。
 
 二十世紀末からの急速な電子デバイスの発達により紙の印刷と電子メディアの応用領域は大きく重なり始め、かつての印刷か電子メディアか、という対立的な捉え方は意味をなさなくなってきました。
 今後、情報の形にとらわれず、コンテンツ主導の分野が拓ける可能性があり、印刷産業もトータルに顧客のコミュニケーション活動を支援するメディア複合サービスに向かう中期ビジョンが必要とされます。
  社団法人日本印刷技術協会 会長 大熊暁三

 このように電子メディアも印刷の一分野となり、紙ではなく携帯できるメディアとして「電子ペーパー」やモバイルツールをターゲットにしています。今後は持ち歩けるメディアということでは紙媒体はこれらのメディアの範囲は同じものになっていきます。

 今回、携帯できるメディアとして発達がめざましいのは紙に近いメディアとしての「電子ペーパー」でした。
 電子ペーパー全般については東海大学面谷(おもだに)研究室による研究動向、今後の方向性などが説明されていました。
 また、凸版印刷がアメリカのイー・インクと提携したEInk電子ペーパーは紙に印刷されたインクと同じようで電子ディスプレーとして表示内容を変化させることができるものがありました。
 富士ゼロックスは画像を瞬間的に記録・表示・再書き込みが可能で、特別な電源を必要としない光書き込み型電子ペーパーなどが解説されていました。
 特に、EInk電子ペーパーについてはPAGE2002に先だって商用品として販売する発表がありました。

 次に、XMLについてですが、インターネットで見られているウェブサイト(ホームページ)はHTMLというツール(プログラムのようなも の)を使ってつくられています。このようにウェブサイトが単なる文字情報の発信・閲覧からマルチメディア情報の発信・閲覧や電子商取引などに活用されるようになりとウェブサイト作成ツールとしてのHTMLの限界がでてきました。この限界を解消するために考えられたのがXML(eXtensible Markup Language)です。現在はこのような使 い方にとどまらずシステムのインフラとして多様な使い方があります。

 XMLの普及がもっとも見込まれているのは、企業間(B to B)の電子商取引においてである。これまで企業は、オンライン(主に専用線)で物品の調達や流通を行なえる仕組みを作ってきたが、電子的な取引情報の交換(EDI:
Electronic Data Interchange)には専用のシステムが必要である。このEDIシステムをXMLで構築すれば、インターネットを利用し、Webブラウザベースで電子商取引を行なう ことが可能になる。これは、システムの大幅なコスト削減につながるだけでなく、共通のフォーマットを利用することで取引に参加できる企業を拡大することができる。
  アスキーデジタル用語辞典 http://yougo.ascii24.com/gh/76/007691.html  

 これだけでなくE-Japan構想で電子政府を目指す官公庁・自治体でも同じように情報共有・効率化のためにXMLを基本とし、また、放送・通信融合が起こっている放送分野・通信分野などでもXMLを使ってシステム構築を考えています。

 同じように印刷分野でもXMLはデジタル・ワークフロー(「印刷とデジタルワークフロー」8/16号 )や業務の基本システムとしても考えられていますが、一番の利点はクロスメディアのツールとしての XMLです。
 現在、ウェブサイトはさきほどのようにHTMLというツール(プログラムのようなもの)でつくられています。また、印刷物はDTPや組版システム、印刷システムなどいろいろなシステムの多様なツールでつくられています。従って、印刷物の原稿をそのままウェブサイトにすることは簡単にはできません。
 しかし、印刷システムの基盤・インフラをXMLにすれば情報やドキュメントがウェブサイト・デシタルコンテンツと共有できることになります。つまり、印刷物として作ったものがそのままウエブサイト・ デシタルコンテンツになり、ウエブサイト・デシタルコンテンツとして作ったものが印刷物になります。

 このように紙メディア(印刷)でも、電子メディア(ウエブサイト・デシタルコンテンツ)でも両方のメディアをひとつのツールで作り、管理できるのが「クロスメディアのツール」です。その上にXMLであれば上記の制作だけでなく電子的な取引情報からデータベースシステムなどもすべて管理することができます。
 このように印刷分野でも印刷・電子メディア融合が起こり、それに合わせて電子ペーパーやXMLを基盤技術としたクロスメディアのツールの開発が行われています。

 また、このような印刷分野の電子ペーパーなどの新動向とクロスメディアのツールとしてのXMLはユビキタスネットワークとも密接に関連しています。
 
  ユビキタスネットワークとは簡単に言うとモバイル(モバイルコンピューティング)と言われるものをさらに進めたもので、具体的には家電や電話やAVなどがネットワークで結ばれ(中略)歩きながらでも車や電車の中からでも「どこからでもネットにアクセスできるシステム」のことです。
 「WORLD PC EXPO 2001 −ユビキタスネットワーク−」9/27号  

  ユビキタスネットワークはこのような印刷・電子メディア融合の技術を包摂し単にモバイルやネットワークの問題にとどまらず多様な広がりをもちます。
 例えば、電子メディアの世界から見れば電子ペーパーよりモバイル機器がメインですし、XMLもネットワークシステムの基盤ということに重点がおかれています。しかし、このように印刷・電子メディア融合の世界ではそのメディアに合った新しい使われ方をしています。
 電子ペーパーやコンテンツ制作のクロスメディアのツールは単に印刷物の代替えや紙メディアに近いものを再現するものではなく、今の紙メディアも含む新しいメディアの使われ方としてのユビキタスネットワークの世界を形づくる重要なものとなります。

     ユビキタスネットワークの世界へ(2)へ


  Cyber Lab Site


 今回より2002年度のコンセプト「バラダイムシフト−仕事の再定義−」の情報分野のテーマに基づいて「ユビキタスネットワーク の世界へ」の連載を開始しました。
 また、これと関連して2002年度の情報分野テーマ「情報計画 −ユビキタスネットワークとコミュニティネットワーク」のプロジェク トが開始しています。
 詳細はCyber Lab Siteのコーナーや『S−Report』の連載「ユビキタスネットワークの世界へ」でお知らせします。
 また、ご関心のある方はメール等にてご連絡ください。

 

 サイトの紹介 


 PAGE2002の公式サイトです。いろいろと非常に参考になります。

 PAGE2002(JAGAT)  http://www.jagat.or.jp/page

 

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