まだ回転がばらつくぞ

 点火時期を調整してあの忌まわしい振動はかなり改善されたが、私は納得できなかった。どこかおかしい。前にも述べたが90度バンクのV8エンジンはそうそう振動の出る物ではない。私のエンジンはダダッダダッスダダダダダッというかんじでばらつくのだった。
 今度はキャブ周りをいじってみることにした。では、キャブの何処をいじればよいだろうか?アイドリングが不安定なのだからそれを牛耳っているスロー系をいじれば良い。キャブセッティングですぐメインジェットをいじる人がいるが、メインジェットは全開時のセッティングを決める物でありスロー系にはほとんど影響を及ぼさない。現在私のコルベットにはホーリーの750cfmD/Pが付いているが、ここでは当時の模様を再現する。と言うことでノーマルのロチェスターのセッティングについて報告する。
 '81年式コルベットには前年のカリフォルニアモデルに使われた”クローズドループ”という排ガスコントロールシステムが搭載されている。簡単に説明するとキャブに内蔵されたソレノイドで空燃比をコントロールしてCO、HCの排出をコントロールするシステムである。ソレノイドには毎秒10回常にコントロール信号がコンピュータから送られてくる。コンピュータはエキパイに取り付けられたO2センサーの発する電圧から空燃比が濃いか薄いか判断し、排ガス中のO2濃度が低いつまり空燃比が濃い場合はガスを薄くする信号を、O2濃度が高いつまり空燃比が薄い場合は濃くするようにソレノイドに信号を送っているのだ。ソレノイドはメインメータリングニードルとアイドルエアブリードが連動していて薄くする場合はニードルを下げ燃料の通路を狭くすると同時にスロー系のエア流量を増加させる、濃くする場合はこの逆だ。このニードルは毎秒10回上下しているが、コンピューターは適正な空燃比を保つようにニードルが上に停滞している時間と下に停滞している時間をコントロールしている。この様にネガティブなフィードバックループが存在することから”クローズドループ”と呼ばれている(図参照)。

クローズドループ

 このノーマルキャブはクローズドループとは別にスロー系のセッティングニードルを併せ持つ。しかし、ノーマル状態ではこのニードルはいじれないようにサイトプラグが打ち込んである。いじくるためにはこれを外さないといけないのだが、私のは前オーナー(むろんアメリカ人)がいじくり回したらしく、プラグは入っていなかった(写真参照)。

アイドルミクスチャースクリュー

 おまけに適当なセッティングがしてあった。基本セッティングはシートポジションから3+1/3回転戻したところだ。ところが5回転近く戻してあった。これではガスが濃すぎて、クローズドループのコントロール範囲外の空燃比になっていたに違いない。
 アイドルニードルを規定値に戻してエンジンを掛けるが、ばらつきはさほど改善されなかった。どうやらO2センサーが怪しそうである。当時で12年落ちだったので、O2センサーのへたりでクローズドループが正常に機能していないと考えた。このO2センサーと言う物はジルコニアの表面にプラチナをコーティングしたもので、300度C以上に加熱したこの金属板の表と裏で酸素濃度が異なると0〜1V程度の範囲で起電力が発生する。その電圧をコンピュータが判断している。センサーの表面がカーボン、硫黄等で汚れたり、プラチナのコーティングが焼損してくると発生電圧が怪しくなってくる。結果コンピュータが誤動作を始めるのだ。部品の寿命か汚損か不明だが、とにかく機能していないように思われた。
 そこで、キャブに繋がっているソレノイドのコネクターを抜いてエアブリードスクリューで調整してみた(写真参照)。

ソレノイドコネクターエアブリードスクリュー

 驚くべき事にエアブリードスクリューを徐々に回していく内に、あれだけ悩まされた振動が”ハタ”と止んだのである。大発見だった。しかし、喜んでばかりはいられない。前述のクローズドループは実はスロットルポジションセンサー(TPS)にも連動していて、スロットル開度に応じても空燃比をコントロールしているのだ。ソレノイドの回路をカットしただけでは全開時の空燃比が薄くなってしまう。そこでメインメータリングニードルを一番持ち上げた状態、つまりスロットル全開時のニードルのポジションに固定しスロットル全開に対応させ、スロー系はエアブリードスクリューでセッティングすることにした。
 結果は大正解だった。これ以後キャブ交換に至るまで実に快適に過ごすのだった。
 最後にもう一つ問題がある。ソレノイドのコネクタを抜いたことでコンピュータはソレノイドの回路がオープンだと思い、”チェックエンジン”ランプが点灯してしまうのだ。これに対処するには、抜いたコネクターにソレノイドと等しい抵抗値の抵抗をダミーで挿入すれば良い。私は33Ωの抵抗を用いた。ソレノイドには1A近い電流が流れるので抵抗は10W以上の物を用いよう。

ソレノイドダミー抵抗

 または、コンソールからチェックエンジンの電球を外してしまってもかまわない。ただこの場合ソレノイド異常のエラーコードが常にコンピュータに記録される、ダイアグノーシスが使えないといった副作用もあるが実害はない。
 この先、私の車のコンピュータはミッションのロックアップ制御(ロックアップを手動で参照)のみ行うことになり、ダイアグノーシスは必要なくなるので、後者の電球取り外しで対応している。

 このキャブを調整するためのSSTを紹介しよう。スナップオンからGM車用に発売されている物だ。ソレノイドの位置決め、エアブリードスクリューの位置決めが正確にできる。これ無しでロチェスターキャブのO/H及びセッティングは正しく出来ない。

キャブSST

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