HOME | 屋根の上 | ペンギンのせっけん | 怪盗夢之介2 | 怪盗夢之介3 | Profile |
![]() |
怪盗夢之介は、夢を盗む大泥棒です。彼は、世界中を 盗んだ夢でいっぱいにしたいという、大きな夢を持ってい ました。 さて今夜も楽しい夢を盗みに行くことにしましょう。 怪盗夢之介は、黒いぶかぶかのシルクハットに、だぶ だぶの黒いマントが とてもお気に入りで、自分では、とて もかっこいいと思っていました。でも、笑い上戸の目覚し 時計は、その姿を見ると、いつも同じ時間に 「ジヒヒヒ ヒ‥‥。」 と、笑い出してしまいます。 夢之介は少し怒って、目覚し時計の頭をコツンとたたき ました。 「きょうは、笑ってなどいられないんだぞ。」 と、夢之介は 言いました。 というのは、二・三日前から夢たちがどうも変なのです。 元気がなくなったかと思えば、今度はピョンピョンと飛び 回ったりするのです。これでは、おちおち夢を盗んでもい られません。 夢之介は、屋根の上から変な形の眼鏡をかけて、街の ようすをうかがいました。 この眼鏡をかけると、夢がキラ キラと虹色に輝いて見えるのです。 特に月夜の晩には、 いっそう輝きを増して、それはそれはきれいなのです。 でも、今夜は夢たちに輝きはありません。 「あれっ!」 と、夢之介は叫びました。 「夢たちが、入れかわっているぞ。」 そうなのです。街を歩いている人がすれ違うたびに、夢 がぴょんと飛び移り、違う人の夢になってしまうのです。 「こりゃあ、大変だぞ。」と、夢之介は思いました。 なぜって、夢之介が盗もうと思っていた夢が、他の人に 飛び移って、どこかへ行ってしまうかも知れないのです。 ひょっとしたら、自分の夢でさえ、誰かの夢と入れかわっ てしまうかもしれません。 たとえば、夢之介が隣の家のドラ猫 「ルパン」 とすれ 違いでもしたら、きっと夢之介の夢は、『屋根の上で日なた ぼっこをしながら、大好きなお魚を食べること』 なんてこと になってしまうかもしれないのです。 夢之介は、夢の研究をしているバク先生に相談するこ とにしました。 バク先生は、いろんな夢を調べていて、棚には いつも 夢の入った小びんがぎっしりと並んでいました。 「これは、夢の王国で何か大変なことが起こっているのか もしれんぞ。」 と、バク先生は、言いました。 「わかりました。僕が夢の王国へ行って、きっと原因をつ きとめてきます。」 夢之介はさっそく夢の王国へ旅立つことにしました。 夢の王国は、夢の中の夢の中の、そのまた夢の中に あるのです。だから、夢之介が夢の王国へ行くためには、 三度続けて眠らなければならないのです。 はじめの夢は、すぐに見られました。それはぐうぜん、 夜の夢だったので、すぐにベットにもぐりこんで、次の眠り につくことができました。でも、その次の夢は大変でした。 なにしろ、太陽の照りつける、真っ昼間の海辺です。近く に日かげのできそうな場所なども、まったくありません。 「こんな所に寝たら、日焼けで真っ黒になってしまうぞ。」 夢之介は、こまってしまいました。 顕微鏡で夢之介の夢を調べていたバク先生は、棚から 夢の入った小びんをひとつ選び出し、その夢を夢之介の 夢の中に流し込みました。 するとどうでしょう、夢之介の前に、ピンク色をした潜水 艦が浮上して来たではありませんか。 じつは、バク先生の流し込んだ夢は、潜水艦で海の中 を探検している、子供の夢だったのです。 夢之介は、さっそくその潜水艦に乗り込みました。 「こりゃあ、すずしくて気持ちいいぞ。」 夢之介は、ゆらゆらと揺れるピンク色の潜水艦の中で、 気持ちよく夢を見ることができました。 気がつくと夢之介は、花畑の中にいました。でも、花は みんな枯れて、しおれています。空はどんよりして、いまに も泣き出しそうです。 「ここは、どこなんだろう。」 まわりは、見渡す限り枯れた花畑です。よく見ると、花 畑の真ん中に 『夢の王国、あっち』 と書かれた、立て札が 立っていました。 夢之介は、その 『あっち』 の方向に歩いていくことにし ました。 少し歩いて行くと、りっぱな門が見えてきました。 門の前では、いかつい顔をした門番が立っています。 でも、そこはポツンとひとつ門があるだけで、ほかには な んにもありません。 「どこへ行く。これより先は夢の王国のりょうないだぞ」 門番は、大きな声で言いました。 どうやら 夢之介は、夢の王国に着いたようです。 「お城はどこにあるのですか。」 と、夢之介は、たずね ました。 「女王さまのお城ならば、ここをまっすぐ行ったところだ。」 門番は、ぶかぶかハットと だぶだぶマントの、変なやつ が来たものだと思いながら言いました。 「だが、だれもこの門を通してはならないという女王さまの ご命令だ。」 門番は、大好きな昼寝もせずに命令を守っていたので、 きげんが悪かったのです。でなければ、黒いぶかぶかの シルクハットに、 だぶだぶの黒いマント姿の夢之介を見た ら、きっと笑いだしていたに決まっています。 「通ってはいけないと言われても、ここで引き返すわけに はいかないんだ。」 夢之介は少し考えて、「門を通してくれないのなら、門の となりを通っていくよ。」 そう言って、門の横を通りぬけて行きました。なにしろ、 そこは門だけで、かべやへいなどないのですから、どこを 通っても同じなのです。 門番も、門を通らないのですから、それ以上何も言うこ とはできませんでした。 夢之介は、門番に教えられた通り、まっすぐ歩いて行く と、小さなお城が見えてきました。 お城の入口では、白いひげをはやしたひとが、何かひ とりごとを言いながらうろうろしていました。 「こまった、こまった。女王様はきっと ご病気なんだ。」 夢の王国の女王は、夢を作ったり、直したりという、大 事なお仕事をしている人なのです。 「ここが夢の王国のお城ですか。」と、夢之介はたずねま した。 突然声をかけられて、白いひげのひとは、びっくりして あやうく腰を抜かしそうになりました。 「おお、やっと来てくれましたか。お待ちしておりました。」 白いひげのひとは、そう言って、夢之介をお城の中に 連れていきました。 白いひげのひとは、女王の世話をする侍従という仕事 をする人で、お医者さまを待っていたのです。 夢之介は、 お医者さまと間違われてしまったようです。 お城の中は、いろんな色や形の夢で飾られていて、夢を 見るめがねをかけている夢之介は、まぶしすぎて、ときど き目を細めなければなりませんでした。 「女王様。お医者さまを連れてまいりました。」 白いひげの侍従は、夢之介を女王の前に連れて行き ました。 女王を見て、夢之介は少し驚きました。女王は、りっぱ な王冠に、真っ赤な それも夢之介のように、だぶだぶの マントで着飾っていたのですが、まだほんの小さな女の子 だったのです。 女王は、とても元気がなく、ぐったりといすに腰かけてい ました。 「女王様が お元気になられないと、世界は大混乱してしま います。」 白いひげの侍従は女王をなだめるように言いました。 「いったい、どうしたのですか。」と、夢之介はたずねまし た。 「女王様は自分の夢が欲しいと、だだをこねていらっしゃる のです。」と、白いひげの侍従は答えました。 「だだをこねているだなんて、ひどいわ。」 女王は、今にも泣き出しそうな声で、言いました。 夢を支配する女王が泣くと、夢たちは勝手なことをしは じめてしまうのです。 「私はいままで、たくさんの夢を作ったけれど、みんなひと の夢ばかり。自分の夢は作れないの。私は自分の夢がほ しいだけなのよ。」 女王は、ほとんど泣く寸前です。 「ひとを幸せにする夢を作れるなんて、そんなすてきなこ とはないと思うけど・・・。」 夢之介は、自分にもそんな力があったなら、世界中を 夢でいっぱいにできるのにと、うらやましく思っていたので す。 「はじめは、私もすてきなことだと思っていたわ。でも自分 の夢を持てないなんて、こんな寂しいことはないわ。」 女王はそう言って、とうとう泣き出してしまいました。 夢之介には、女王の気持ちが、わかるような気がしまし た。でも、それどころではありません。早く泣きやませなけ れば、世界中は大騒ぎです。 夢之介は、どうしたらいいかいろいろ考えているうちに、 『あれっ?』 と、思いました。 「女王さまは、夢をもっているじゃないか。」 夢之介の言葉に、女王や白いひげの侍従は、驚いてし まいました。 「だって、夢を持っていない人なんか、いるはずがないも の。たとえ夢の国の女王だろうと・・・。」 と、夢之介は言 いました。 「女王さまは、自分の夢が欲しい、自分の夢を作りたいと いう、そんなすてきな夢を持っているじゃありませんか。」 「あっ!」 女王はそう叫んで、しばらくの間、声がでませんでした 女王は、泣くことすら忘れてしまうほど、驚いたのです。 「私は、夢を持っていたのね。ずっとずっと 知らずにいた なんて・・・。」 そう気づくやいなや、女王はみるみるうちに元気をとり もどしていきました。もう さっきまでの女王とは、まるで別 人のようです。 「女王さまが笑った。女王さまが笑った。」 白いひげの侍従は大喜びで、嬉しさのあまり、今度は 自分が泣き出してしまいました。 「ありがとう。私はもうだいじょうぶ、心配はいらないわ。 夢たちにも もとにもどるように命令を出します。」 女王が元気になると、どんよりしていた空は、明るくなり、 枯れていた花畑も、もとどおりきれいな花を咲かせはじめ ました。 門番も、いかつい顔をやめ、夢之介の変なかっ こうに、ついつい思い出し笑いをしながら、大好きな昼寝を しはじめました。 女王や、白いひげの侍従たちは、夢之介のことを医者と かん違いしたままでしたが、いまさら 夢どろぼうの怪盗夢 之介だなどと名乗るわけにもいかず、夢之介は黙ってお城 を抜け出しました。でも、お城でとりわけきれいに輝いてい た夢を盗んでくることを忘れませんでした。 夢之介は、夢から覚めました。そしてもう一度、目を覚ま し、さらにもう一度、目を覚ましました。 夢たちはすでにも との場所へ帰っていて、とんだりはねたりしている夢は、も うどこにもありませんでした。 「これでやっと安心して夢を盗みに行くことができるぞ。」 怪盗夢之介は、そう思いました。 (おわり) |