主翼と尾翼を2本のブームで繋ぎ、発動機をそのブームから吊り下げた空を飛ぶための構造体を、複葉の下翼にアウトリガーを兼ねさせたカヌー型の艇体の上に、飛沫がかからないように高く捧げ持たせたせいか、いかにもクラッシックなスタイルの私好みの飛行艇である。 最大の特徴は、離着水時や水面航行中には、この画のように艇体側方に引き揚げ可能な車輪をつけ、陸上からも離発着できる水陸両用機とした当時としては画期的なアイデアだった。 この車輪は水上でのタキシングにおいて、片側を下ろすと期待はクルッと小回りが出来る、こんな使い方もあったようだ。
シコルスキー社が最初に作った飛行艇は1927年のS-36である。 このS-36は、たった1機作られただけであったが、パンナム社に貸し出され、カリブ海で試用され好評を得ていたが、性能には不満で、翌年その改良版として大型化したS-38を登場させたところ、パンナムは一気に39機も購入し、カリブ海からブラジルのサントス、チリのサンチャゴまで航路を拡大し、その後大西洋・太平洋路線に覇権を獲得する一大航空会社となる基礎を担った。
S-38は約100機が量産され、パンアメリカン航空だけでなく、この画のウエスタン航空などで多数使用されたが、空飛ぶクルージング・ヨットとして富豪の自家用機や社有機に、また探検家のツールとしても利用されるなど、個人向けにも、多くの機体が供給された。
このS-38Aの実機がなお現存しており、2005年に封切られた映画「アヴィエーター」に登場した。 映画はアメリカ屈指の富豪であり、ハリウッドや航空界に常に旋風を捲き起した強烈な飛行機フリーク:ハワード・ヒューズの生涯を描いたものである。 レオ・デカプリオが扮するハワード・ヒューズが、キャサリン・ヘップバーン(ケイト・ブランシェット)がプレイしているゴルフ場に着陸して、彼女を誘ってロスアンゼルスの夜景を空から満喫させる場面に使われている。 この部分のストーリーはフィクションであるらしいが、ヒューズが実際にこS-38Aを購入し、世界一周飛行に使用したのは事実である。
この機体のメーカーであるシコルスキー社は、帝政ロシアから亡命した I.シコルスキーが創業したものであり、現在では、シコルスキーと言えば中・大型ヘリコプターの代名詞にもなっている。 しかし戦前はイギリスのショート社と覇を競うアメリカの大型飛行艇のリーディングカンパニーであった。 その代表傑作機が、富士重工業の名機カレンダーのシリーズにすでに登場している大洋横断4発飛行艇S-42アメリカン・クリッパー、そして双発の飛行艇がS-43ベイビークリッパーだった。 そして、そのルーツがこのS-38であり、シコルスキー社がFAA(米国連邦航空局)の型式証明を取得した最初の機体であった。
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