1999.10.20

Live At
The Britt Festival

Michael Nesmith
(Cooking Vinyl)

 確か数年前にビデオで出たライヴの模様をフルで収めた2枚組。オレゴン州ジャクソンヴィルで行なわれたブリット・フェスティヴァル30周年記念ライヴの模様だ。レッド・ローズがスティール、ジョン・ヨルゲンスンがギター、ジョン・ホブズがキーボード……など、長年の仲間を従えてのパフォーマンスだけに、なんともリラックスした中にも、年輪を感じさせる歌声が聞かれて、いやー、マイク・ネスミスはいいなぁと改めて思い知る。

 「ジョアンナ」とか「リオ」とか「シルヴァー・ムーン」とか「シェリーのブルース」とか、おなじみの曲もまた違う味わいで聞けるのがうれしい。このライヴの直後、レッド・ローズが亡くなってしまったため、マイクとレッド、これが最後の共演……ってのも泣けます。



NRBQ
NRBQ
(Rounder)

 バンドの30周年を言祝ぐ新作。堂々とバンド名をタイトルに冠しての登場だ。デビュー盤と同じ趣向ってことやね。

 ブルース・ロックもの、ビートルズっぽいポップもの、カントリー・トワングもの、ランディ・ニューマンみたいなもの…などなど、相変わらずの幅の広がりと、それをとっちらかったイメージにはしないバンド・サウンドとが渦巻く1枚。ジョーイ・スパンピナート派のぼくにとっては、彼のペンによるいい曲がいっぱい入っていて、なんだかうれしい。もちろん、テリー・アダムスのジャズ色も効果的。

 全曲スタジオ録音のフル・アルバムというのは、94年以来だとか。てことは、アル・アンダーソンとジョニー・スパンピナートが入れ替わってから初ってことか。



#447
Marshall Crenshaw
(Razor & Tie)

 またまたいい出来です。今回も前作同様、ニューヨークとナッシュヴィルを行ったり来たりしつつの1枚。ブラッド・ジョーンズももちろんからんでます。

 相変わらず曲もいいし、歌も切ないし。でも、今回はギタリストとしてのマーシャルさんの変化がいちばんの聞き物か。ジャズっぽいアプローチがちょっとだけ増えたみたい。とはいえ、この人のことだから、ポップな切り口で聞かせてくれるのでOK。メロディはオールディーズ〜パワー・ポップふう、楽器はカントリー・ロック調、でもアレンジのセンスはごった煮&ハイパー、で時々ジャジーなやつが挟まって…という、なんとも楽しい仕上がりです。



Falling Into Place
Mike Viola &
The Candy Butchers

(RPM/Columbia)

 ボストン生まれのヴィオラさん。これがデビュー盤だけれど、実際には映画『すべてをあなたに』(トム・ハンクスが監督したごきげんな音楽映画。デイヴ・クラーク・ファイヴ好きというハンクスならではの作品だった)のサントラで歌を披露していたのがこの人だそうで。声はおなじみってわけ。

 初期のコステロとか、グレアム・パーカーとかが好きだったのかなと思わせるパワー・ポップ。『すべてをあなたに』のサントラ同様、ボブ・クリアマウンテンがミックスを手がけているのが面白いです。何曲か、ガース・ハドソンがキーボードで参加しているのも妙な人脈。変なシンセとか、聞かせてます(笑)。



Zygote
John Popper
(A&M)

 ヤッピーさんたちが大好き、ブルース・トラヴェラーのフロントメンであるポッパーさんがソロ・アルバムをリリースした。

 まあ、けっしてブルース・トラヴェラーのいい聞き手ではないぼくの耳には、バンドの作品とさほど大幅に変化しては聞こえないのだけれど、こっちのほうがよりこの人なりにレイドバックした仕上がりかも。ソウル寄りのメロウなセンスも目立つ。得意のハーモニカ・プレイも炸裂。歌詞の面では、バンドものよりも当然ながら内省的。

 けっこうリキが入った作りなんだけど、ブルース・トラヴェラーのほうはどうなっちゃうの? ソロ独立とか、そういうことじゃないよね、きっと。



Broken Things
Julie Miller
(Hightone)

 エミルー・ハリスのスパイボーイのメンバーとしても活躍する超絶ギタリスト、バディ・ミラーの奥方、新作の登場だ。もちろんバディさんも全面参加。上の NRBQ のジョーイ・スパンピナートやスティーヴ・アール、ヴィクトリア・ウィリアムス、マーク・オルソン、エミルー・ハリスなど、ゲストの顔ぶれも興味深い。

 ほぼ1曲ごとにアコースティカルなものと、どかーんとしたカントリー・トワングもととが代わる代わる…って感じの構成。亡くなってしまった知人への想いを心の底からストレートに歌う曲もいくつか。さらに、南北戦争時代の悲劇に思いをはせる曲とか、川の流れの行方や空が悲しんでいる理由を歌う曲とか。この人の曲に共通して感じられる“遠いまなざし”は、なんとも魅力的だ。

 エミルー・ハリスが取り上げている「オール・マイ・ティアーズ」、ウィリアムズ・ブラザーズが歌った「ブロークン・シングズ」などの作者ヴァージョンも収録。



Wild, Free & Reckless
Wayne Hancock
(Ark 21)

 これが3枚目。ぼくが監修した『アメリカン・ルーツ・ロック』ってCDガイドブックでも前作を紹介してますが、強烈なヒルビリー〜カントリーのリヴァイヴァリストって感じで。今回もカール・パーキンスとかアーネスト・タブのカヴァーもやってます。

 ただ、この人の場合、昔の音楽にアプローチするミュージシャンにありがちなアカデミックな手触りというのがまるでなくて。そうしたサウンドをまさに今の音楽として演奏しているような、なんとも痛快なエネルギーに満ちている。ジミー・ロジャースやハンク・ウィリアムスのようなカントリーの先達はもちろん、ジャンプ・ブルース、スウィング・ジャズなどの影響もたたえながら展開する90年代のホンキー・トンキン・ロカビリー。聞き手を選びそうだけど、ごきげんです。



In Spite Of Ourselves
John Prine
(Oh Boy)

 元ボーダーラインのジム・ルーニーのプロデュースのもと様々なゲストを迎えて、カントリーの重要なフォーマットであるデュエットを聞かせまくる1枚。基本的にはカヴァーばかりだけど、唯一アルバム・タイトル・チューンだけは本人のオリジナルで。これはマーティ・スチュワートがプロデュースしている。

 ジョージ・ジョーンズのデュエット・パートナーとしてぶいぶい言わせていたメルバ・モンゴメリーを筆頭に、ルシンダ・ウィリアムス、パティ・ラヴレス、コニー・スミス、トリーシャ・ヤーウッドなどが参加。

 ジャケットも含めて、しゃれているような、でも、どことなく“ツイン・ピークス的な”アメリカの病巣を示唆している感じもあって。アルバム全体、そういう仕上がりです。穏やかなようでいて、どこか病んでいる、みたいな。深いデュエット盤。



Beyond The Pale
Bruce Henderson
(OMAD/Paradigm)

 こいつに続くセカンド・アルバム。

 ディランが大好きなフォーク系シンガー・ソングライターによるトワンギーなカントリー・ロック・アルバムみたいな…、まどろっこしい説明だけど、要するにそんな感じ。前のアルバムよりも作品的には聞かせどころが多くなった。曲作りの面ではジェイコブ・ディラン(ウォールフラワーズ)と共通する部分も感じ取れるんだけど。お父さんはどう言うかな。



Come On Now Social
Indigo Girls
(Epic)

 シェリル・クロウ、ジョーン・オズボーン、ミシェル・ンデゲオチェロ、ナターシャ・アトラス、リック・ダンコ、ガース・ハドソン、ルシャス・ジャクソンのケイト、シニード・オコナーんとこのゴーストランドなどをゲストに迎えた新作。2年ぶりです。

 これまでよりバラエティ豊かかな。お得意のフォーク・ロック・スタイルの曲は少なくなって、より直球のロックンロールものとか、古いタイプのフォークとか、カントリーものとか。シングルになった「ピース・トゥナイト」なんか、曲自体はカントリー・ロック/フォー・ロック調なれど、サウンドはホーン入りのポップ・ソウル系っすよ。前作よりも取っつきやすいかも。



Burn To Shine
Ben Harper &
The Innocent Criminals

(Virgin)

 師匠筋のタジ・マハールはもちろん、ライ・クーダー、カーティス・メイフィールド、ニール・ヤング、キャット・スティーヴンスなどの要素が、今回もまた見事に交錯。この人は本当にすごいね。デイヴィッド・リンドレーなどを迎えて、ニューオリンズ的なずぶずぶのグルーヴから、シンガー・ソングライター的な端正な息づかいから、クールなファンク感覚から、ヘヴィー・ロック的な快感まで、すべてを統合してみせてくれる。

 まあ、いつも思うことだけど、ちょっと真面目すぎるのが玉に瑕だな。かっこよすぎて思わず笑っちゃうみたいな瞬間がまったくないというか。それが物足りないところ。言いがかりみたいに思えるかもしれないけど、やっぱりね、笑えないかっこよさってのは本物のかっこよさではないんじゃないか、と、ぼくはそうまじに思ってますから。

 って、3作目をレビューしたころとあんまり変わらないこと言ってるね、俺(笑)。



Tall Tales
The Hot Club Of
Cowtown

(Hightone)

 今年のアタマに前作をレビューしたんだけど。早くも新作。まあ、一発録りふうの人たちだから、曲さえあればすぐアルバムなんかできちゃうのかな。うれしい。

 ギター、バイオリン、アップライト・ベースという基本編成は変わらず。曲によってコルネット、ピアノなどを配しながら、ウェスタン・スウィングから、ジャンゴ・ラインハルト系のオールド・タイム・ジャズ、カントリーなどを気分よく聞かせてくれる。裏ジャケに、なんつーか、メンフィスの古着屋系のおしゃれーな服を着たメンバー三人の姿が映っているんだけど、こういう方向性、日本の若いコに受けたりしないもんでしょうかね。



Short Trip Home
Joshua Bell &
Edgar Meyer

(Sony Classical)

 ちょっと毛色が違うけど、ソニー・クラシックからの1枚。

 ヨーヨー・マやマーク・オコナーたちと『アパラチア・ワルツ』って名作を作ったベース奏者/作曲家のエドガー・メイヤーが、注目の若手バイオリニスト、ジョシュア・ベルと組んで、さらにサム・ブッシュとマイク・マーシャルという二人のフラット・マンドリン奏者を迎え、作り上げた新作です。

 ポップスも含めたアメリカン・ミュージックの背景に必ず潜んでいるアメリカン・ノスタルジアの正体のようなものに思いを馳せさせてくれるような仕上がり。ランディ・ニューマンとかヴァン・ダイク・パークスとかが好きな人ならアルバム・タイトル・チューンにはきっとハマると思うんだけど。




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