Kenta's ... Nothing But Pop
..Reviews (Contemporary): 5/17/1997

Reviews   Music


Helioself
Papas Fritas
(Minty Fresh)

 ブライアン・ウィルソンズ・チルドレン、パパス・フリータスのセカンド・アルバムだ。ファンならもう知ってると思うけど、“Papas Fritas=Pop has freed us”なんだそうで。ポップ・ミュージックに対する敬愛の念をきっちり表明したうえで、壊すところはちゃんと壊して今の“ポップ”へと昇華させる手腕は好感度ばっちし。

 ボストン郊外に作った自分たちのスタジオでのレコーディングだそうで。楽曲そのものの魅力は前作のほうがほんのちょっと上みたいだけれど、多くの他のバンドとの対バンやツアー経験がモノを言ったか、サウンドの躍動感がぐんとグレードアップ。何度も何度も聞き返したくなる、後をひく一枚に仕上がっている。

 なんだかんだ言っても、いい曲、多いです。ブライアン〜ヴァン・ダイク・パークス〜ニルソンのラインが好きなら、とりあえずマークしてほしい若者たちですよ。あ、デニス・ウィルソンの味もあるよ。

Dare To Be Surprise
The Folk Implosion
(Communion)

 去年、キャッチーな『Kids』のサントラでそこそこ当てたんだから。そういうので押したっていいのにさ。やっぱりルー・バーロウとジョン・デイヴィス、まっすぐなことはしません。これまで同様、二人で自分たちの世界にしっかり閉じこもり、“普通だったらこっちに行けば気持ちよくなるのに”的な部分をすべてはずしまくった鉄壁のフォーク・インプロージョン・ワールドを構築してくれた。いいねー、やっぱり、こいつらは。

 けっしてカタルシスに達することがないポップ・コラージュというか。こういう音もポップなものとして多くの人が容認する時代になったとはいえ、そんな中でもこいつらだけはどこか突き抜けて“ヘン”。セバドーを含むルー・バーロウのソロ活動とも、ジョン・デイヴィスのソロ活動ともまた違った、フォーク・インプロージョンならではの妙にクールでとぼけたたたずまいは、やけに魅力的だ。

 ちなみに、マブダチの奥田が教えてくれたジョン・デイヴィスの最新ソロ・アルバム『Blue Mountains』もすっごくよいです。聞こう。

Flaming Pie
Paul McCartney
(MPL)

(for MUSIC MAGAZINE, June 1997)

 4年半ぶりのフル・アルバムだ。その間、ビートルズのアンソロジーものが連発されていたし、ポール単独でもオノ・ヨーコや10CCらと共演したり、チャリティ・アルバムに参加したり、変名プロジェクト“ファイアーマン”のアルバムをリリースしたり。名前を聞かなくなっていたわけじゃないけれど。やはり、ファンとして待っていたのはこれ。ソロ名義でのフツーのフル・アルバム。前作『オフ・ザ・グラウンド』はヘイミッシュ・スチュワートらを含むツアー・バンドでレコーディングされたものだったが、今回は数曲にジェフ・リン、スティーヴ・ミラー、リンゴ・スターらが参加した程度。ほとんどポールひとりで作り上げたものだそうだ。近年はエリック・スチュワートやエルヴィス・コステロと組むなど、新たな曲作りパートナーを求めていたようにも見えるポールだが、今回はそっちの面でもほぼひとりの作業。

 で、仕上がりはというと。これが、いいのだ。かなりいい。近作『フラワーズ・イン・ザ・ダート』『オフ・ザ・グラウンド』あたりでは“とてつもなくいい曲もあるけど、どうでもいい曲も多くて…”といった手触りをぬぐい切れなかったぼくも、今回は納得。楽曲的に粒ぞろい。中でもアメリカでのシングル2、その他の国でのシングル5はやはり特にポップな仕上がりだ。5なんてマージー・ビート華やかなりしころを思わせるメロディ・ラインに思わず涙なみだ。その他も、ポールらしい雄大なワルツ1を筆頭に、お得意のアコースティック・ギター弾き語りの味を堪能できる6や14、「レディ・マドンナ」などで披露されていたルーズなピアノ・ロックンロール感覚満載のアルバム・タイトル曲7、スティーヴ・ミラーとの共演によるタイトなブルース9、いきなり歌い出しからポールらしいスピード感に満ちたコード進行にやられるハチロク系バラード10、初期ニルソンあたりにも通じる牧歌的な11、サビでの堂々たる転調が胸をうつバラード13などなど。ポールのいいところが全開だ。もちろん新しい発見などは何ひとつないが、新参者には絶対出せっこないポールならではの持ち味が充満した一枚に仕上がっている。古くからのポール愛好家にはたまらないはず。それ以外の人にはどうなのかな。今から新たにポールを好きになることの意義とか、よくわからないので、保留。

 なんでもポールは、ビートルズのアンソロジーを編纂する作業の中でビートルズの偉大さを再認識したのだとか。んー、うれしいような、情けないような話だが。そうした作業を経て、ふと忘れかけていた自らの味を思い出し、自信をもってその再構築に取りかかったということだろうか。ぼくはこれでいいと思う。無理して時流に与しなければ存在感を主張できないような小さいアーティストじゃないんだから。まだまだイケます。

Blurring The Edges
Meredith Brooks
(Capitol)

 もろにアラニス以降のガール・ロックンロール・シンガーって感じ。オレゴン出身のメレディス・ブルックス。ギターの腕前もなかなか。タフでしなやかにロックしてみせる。そこそこR&Bっぽいアプローチも見え隠れするので、そっちのほうも好きなのかも。全曲とも曲作りに絡んでいるけど、すべて共作になっているので、作詞だけしてるのかもしれない。

 歌詞はけっこうかっこいい。歌詞カードがついてないのでよくはわからないけど、アルバムのオープニング・チューンの「I Need」って曲では、重めのビートに乗って文字通り欲しいものをあれこれ並べてる。“信じられるストレンジャー、私を愛してくれる父親、強いコーヒー、シアトル、日焼け、たくさんのトッド・ラングレン、クールな友達、週末、あなたのためになら死ねると思える誰か……”とかたたみかけてきて。なかなかやるじゃんね。本人が弾いているらしいエキゾチックなギターも面白い。

 シングル・カットされたらしい「Bitch」って曲もけっこうキャッチー。でも、平気で「Bitch」とか歌っちゃうんだから。確実にアラニス以降ですわ。

 シェリル・クロウを輩出した“チューズデイ・ナイト・ミュージック・クラブ”の仲間だったデイヴィッド・リケッツがプロデュース。リケッツはトニ・チャイルズとかとも仕事しているし、こいつ、女性シンガー好き?

Dig Me Out
Sleater-Kinney
(Kill Rock Stars)

 アメリカの少年ナイフ(すまん)、スリーター・キニーの3枚目。去年出た『Call the Doctor』に入っていた「I Wanna Be Your Joey Ramone」にはけっこうハマったものです。ベースなしのギター、ギター、ドラムという編成がやけにスリリングでいい。今回もいい味出してます。ソニック・ユース、ラモーンズ、ゴーゴーズ、ディーヴォあたりをごっしゃごしゃにひっかきまわして、それを女の子ならではの踏ん切りのよさで発散するみたいな音が爽快だ。

 近ごろはアラニス系の女の子の活躍もあるし、ジュエルみたいなシンガー・ソングライターの新星も元気だし、スパイス・ガールズ系のポップものもあるし。“ガール・パワー”って言葉がシーンで取りざたされてるけど。モノホンのガール・パワーっていうのは、こっちって感じがするな。スリーター・キニー。あなどれません。

Shaming of the Sun
Indigo Girls
(Epic)

 一方、こちらはちょいとお古いタイプの女流ロックってことになるのかな。ちょっぴりタフなフォーク/カントリー・ロック・サウンドでおなじみ、インディゴ・ガールズ。この人たち、ライヴ盤とかも多いので正確なところは自信ないけど。たぶん6枚目のスタジオ・アルバムだ。

 ミシェル・マローンとか、ビッグ・フィッシュ・アンサンブルの連中とか、ロッカティーンズとか、アトランタ周辺のミュージシャンをバックに従えて、相変わらず元気のいいところを聞かせてくれる。うまいこといってる曲もいくつかあって、シングルになったらしいオープニング・ナンバーの「Shame On You」とか、バンジョーやコンガを絶妙に配したごきげんなテックス・メックス風味入りカントリー・ロックに仕上がっている。スティングを思わせる「Everything in Its Own Time」での深い音世界も魅力的だし。

 曲だけ聞いているぶんにはけっこう気持ちいいのだけれど。歌詞がね。相変わらずまじめすぎるくらいまじめ。いや、まじめなのが悪いわけじゃないけど。不謹慎なぼくとしては少し息苦しさを覚えたりしちゃうわけです。すまん。俺の落ち度だ。




Copyright © 1997 Kenta Hagiwara
kenta@st.rim.or.jp