Kenta's ... Nothing But Pop
..Reviews (Contemporary): 6/19/1997

Reviews   Music


Mag Earwhig!
Guided By Voices
(Matador)

 もう12枚目のアルバムなんだね、これ。

 とんでもない創作ペースで駆け続けるガイデッド・バイ・ヴォイシズの新作。中心メンバーのボブ・ポラードは今回、レーベル・メイトでもあるクリーヴランドのバンド、コブラ・ヴェルデのメンバーをバックに配して、さらなるサウンドのアップデートを展開している。

 往年のブリティッシュ・ポップにも通じるセンスと昨今のインディー系オルタナ・ギター・ポップのスタイルを絶妙に合体させながら、屈折と混沌に満ちた叫びをぶちまける……というポラードの持ち味は変わらないのだけれど、バンドが変わったことで、サウンドがよりハードになって。そこんとこがさらに気持ちいい。ロウ・ファイの王者って感じだったガイデッド・バイ・ヴォイシズだけど、今回はミッド・ファイくらいになったかな。

 今回も長短入り乱れての全21曲。どの曲もじっくり付き合っていけそうな素晴らしい出来だ。なにやらロック・オペラ的なストーリーがアルバム全編に流れているようだけれど、そこんとこはまだよくわかりません(笑)。

Hanna Cranna
Hanna Cranna
(Big Deal)

 元バッドフィンガーのジョーイ・モーランドがプロデュース。ニュー・ヘヴンを本拠にしているバンドだそうで。RCAに移籍した70年ごろのキンクスの感じとか、初期のニール・ヤングの感じとかが交錯する、実になごむ一枚だ。

 ビッグ・ディール・レーベルからのリリースということもあり、あちらの音楽雑誌とかでは近ごろ盛り上がっているネオ・パワー・ポップ系の仲間としてカテゴライズされているようだけれど、アルバムを聞く限り、バンドとはいえ、シンガー・ソングライター的なニュアンスを強く持った連中って感じ。メロディもしっかりしているし、ルーズなバンド・サウンドも魅力的。ジャケットによるとAOLにホームページがあるらしいんだけど、行ってみたら“Not Found”でした。くそーっ。

Ultrasound
Splitsville
(Big Deal)

 もう一枚、ビッグ・ディールからのリリース。グリーンベリー・ウッズのメンバーをフィーチャーしたおばかなパワー・ポップ・トリオのアルバムだ。

 こいつらの場合も曲がいい。3人でぶわーっとぶちかます音圧たっぷりのハードなサウンドと裏腹に、甘く切ないフックを持ったメロディ。70年代の終わりごろ、ブラム・チャイコフスキーとかレコーズとかニック・ロウとかが活躍していた当時のワクワクした気分を思い出してしまった。

 こいつらもホームページ持ってて、重いながらもとりあえずつながったんだけど、数週間のうちにもっと充実させます……とか書いてあって。これも空振りだぜ。くそっ。

Year Of The Horse
Neil Young and Crazy Horse
(Reprise)

 もしかして、今、唯一正統にグランジしているのはこの人たちだけかもしれない。ニール・ヤング&クレイジー・ホース。1996年のツアーで回った各地の音源を集めた2枚組ライヴ・アルバムの登場だ。2枚組なのにたったの全12曲。長いよー、演奏が。アリーナ・ロックとガレージ・ロックを自由に行き来する彼らならではの世界がたっぷり詰まっている。

 ディスク1の冒頭でいきなりニール・ヤングが「They all sound same. It's all one song.」って叫んでいて。そのわりにはディスク1のほうは、サウンドにそれなりのバリエーションがあるのだけれど。5曲収録のディスク2に入ると、ニール・ヤングの宣言どおりの展開に突入。精神的/肉体的なタフさを存分に思い知らせてくれる。すごい人たちです、まったく。

 最近めっきり体力も落ちたぼくとしては、ディスク1の「When Your Lonely Hearts Breaks」の哀愁とか、「Mr.Soul」のフォーク・アレンジとかが気に入ってます。

The Lonesome Death Of Buck McCoy
The Minus 5
(Malt/Hollywood)

 ヤング・フレッシュ・フェローズのスコット・マッコーイー、REMのピーター・バック、ポウジーズのケン・ストリングフェローとジョン・オウアーらによるサイド・プロジェクト。まさかのセカンド・アルバムが登場した。

 今回は、プレジデント・オヴ・USA、パール・ジャム、スクリーミング・トゥリーズなどのメンバーも交え、どうやらタイトルにもあるバック・マッコイなる男の物語を描いた1枚らしい。歌詞がよくわかってないので確かなことは言えないすけど。

 音のほうはフォーク・ロック・ベースのバラエティ・ポップ。ここにも70年代キンクスの味があり、おやー、ロック・オペラ時代のキンクス〜レイ・デイヴィスがまた旬になりそうな感じ?

 スコットとピーターによる楽曲は、サイド・プロジェクトといえどかなりのクオリティです。

Resigned
Michael Penn
(57/Epic)

 ハリウッドの乱暴者、ショーン・ペンの兄弟。たぶん5年ぶりの新作。ブレンダン・オブライエンがエピック傘下に設立した“57レコード”に移籍しての心機一転盤だ。

 名曲「No Myth」を含むデビュー・アルバム『March』が売れまくったのは、まだ彼がマドンナの義理の兄弟だった89年。92年のセカンド・アルバムは今ひとつパッとしなかった印象しか残っていないけれど、今回のはさすがブレンダン・オブライエンのプロデュースがよかったのか、ぐっとシマった仕上がりだ。

 全体にビートルズっぽさ全開。サウンド面でもメロディ面でも、『リボルバー』から『ホワイト・アルバム』くらいのビートルズの味が充満している。好きなものは好きなんだから、いいでしょ……という開き直りかな。そこにブレンダン・オブライエンの乱暴なプロデュースが加わって、好感度ばっちりです。

Other Songs
Ron Sexsmith
(Interscope)

 すでに日本でも“名盤”の評価が定まりつつあるロン・セクスミスのセカンド・アルバム。

 前作同様、プロデュースはミッチェル・フルーム&チャド・ブレイク。とはいえ、ミッチェル&チャドの他のプロデュース作品ほどにわかりやすくハイパーな音作りがなされているわけではなく、表面的な手触りはあくまでも素朴で、アコースティック。もちろんよく耳をすませば、音と音の隙間に不思議な奥行きを感じさせる音処理がなされ、一筋縄にはいかない手腕を発揮してはいるのだけれど。とにもかくにも、ロン・セクスミスの紡ぎ出す素晴らしいメロディを大事にした仕上がり。デビュー盤以上に今回は名曲ぞろいなので、こりゃ、文句のつけようがないです。

 自分の視線の範囲をじっくり、しっかり見据えることから生まれる歌詞の世界にも胸が震える。シェリル・クロウがゲスト参加してます。

The Will To Live
Ben Harper
(Virgin)

 3枚目。以前よりもぐっとエレクトリック色を強く打ち出した仕上がりだ。デビュー盤をはじめて聞いたとき、やー、ずいぶんと真面目な人だなぁ……と思ったものだけど。その印象はそのまま、実に真摯な姿勢を保ちつつ、きっちりと音楽的にグレードアップしてきている感じ。サウンドはホント、かっこいいです。すっげえ。

 ただ、ひたすらアコースティックな手触りが印象的だったファーストのころからひっかかっている、なんというか、こう、歌声さえもが器楽的に響く感触というのは本作でも変わらず。その辺が評価の分かれ目になるんじゃないかなぁ。そこがいいんだというファンもいることとは思うけれど、ぼくにとっては、そこんとこがどうにも物足りないです。

 あと、歌詞。抽象的/観念的すぎて、ぐっとこない。ついシンガー・ソングライター的な側面からこの人を評価しようとしてしまうぼくが間違っているのかもしれないけど。

Have A Ball
Me First and the Gimmie Gimmies
(Fat Wreck Chords)

 バカなアルバム。アン・マレーノ「ダニーズ・ソング」、PPMの「悲しみのジェット・プレーン」、ポール・サイモンの「僕とフリオと校庭で」、ビリー・ジョエルの「アップタウン・ガール」、ニール・ダイアモンドの「スウィート・キャロライン」、テリー・ジャックスの「シーズンズ・イン・ザ・サン」、ジェームス・テイラーの「ファイアー・アンド・レイン」、バリー・マニロウの「マンディー」、エルトン・ジョンの「ロケット・マン」などなど、おなじみのメロディをハードコア・パンク・サウントに乗せてカヴァーした、まあ、それだけの1枚だ。

 日本でのアニメタルとかナツメタルとか、そういうのと構造的には変わらないのかもしれないけど、でも、もともとのロックンロール・センスが違うというか、素養があるというか。だから、聞いていて笑えるばかりか、ノレちゃったりして。楽しかったです。

Blue Moon Swamp
John Fogerty
(Warner)

(for Music Magazine, July 1997)

 かなりハマってます。ごきげんなスワンプ/カントリー・ロック・バンド、CCRを解散後、75年に「ロッキン・オール・オーヴァー・ザ・ワールド」のヒットをかっとばしてからしばらく音沙汰なくなって。しかし、85年にアルバム『センターフィールド』を全米ナンバーワンに送り込んで見事復活。と思ったらその後、今ひとつパッとしない活動をちょびっと展開しただけでまたもやシーン最前線から姿を消してしまっていたジョン・フォガティ。去年出たロックンロール・ホール・オヴ・フェイムの記念ライヴ盤では数曲、CCR時代のレパートリーを元気に再演してくれたりしていたけれど。それを呼び水に、本当に久々の新作をリリースしてくれた。うれしい。だいいちアルバム・タイトルがいいもの。こりゃ気合いが入ってる。というわけで、輸入盤屋さんにいち早く並んだヨーロッパ盤を即ゲット。以来、けっこう頻繁に本盤をCDプレーヤーに乗せて楽しんでいる。

 ただ、正直な話、97年のロック・アルバムとして出来がいいのかというと、んー、そんなによくないかも。アルバム・タイトルが予感させるほどわかりやすく泥臭いわけでもなく。CCR全盛期ほどの切れ味もなく。これからフォガティ/CCR入門を目論む人がいたとしたら、ぼくは確実に本盤をすすめはしない。CCRの『グリーン・リヴァー』や『コスモス・ファクトリー』からの入門をすすめる。この97年に聞く音楽として、絶対にそっちのほうが迫力を持っているから。そういう仕上がりです。『センターフィールド』に比べればだんぜんタイトかつブルージーではあるけれど、CCR時代の圧倒的なオーラが残念ながらここにはない。まあ、CCRと比べられちゃ、いかにフォガティ自身とはいえ、かなうわけもないか。

 ただし。CCRが大好きで、フォガティの過去のソロ作も含めて愛聴し続けてきた人になら絶対おすすめの1枚だ。この上なくうれしい贈り物。歌声のほうはちょっとだけ衰えたかなと思うものの、相変わらずディープなフォガティのギター・プレイにはゾクゾクさせられる。ジェームス・バートン流のスワンプ・ギターやデュアン・エディのトゥワンギー・ギターのフレーズを引用したりしながらぐいぐい聞かせるロカビリー〜カントリー調の1から、クールなハイウェイ疾走ものの2、「キープ・オン・チューグリン」あたりのCCRサウンドを想起させるギター・リフで幕を開ける3を経て、ヴォーカル・グループ、フェアフィールド・フォーをバックに配しブルージーにきめたゴスペルふうの4へと至る流れとか。絶品。ボブ・グローブ、チェスター・トンプソン、フィル・チェン、ウォーターズといった参加メンバーの顔ぶれも泣ける。『センターフィールド』が出たときのように“12年ぶりの完全復活”とはいかないだろうけど、いいんだ、そんなこと。

Wu-Tang Forever
Wu-Tang Clan
(Loud)

(for What's In? Magazine, July 1997)

 今年のヒップホップ・シーン最大の注目盤、ウータン・クラン名義による4年ぶりのセカンド・アルバムはなんと2枚組、しかも仕掛け満載のエンハンストCDとしての登場だ。近ごろヒップホップのアルバムを買ってくると、西の連中はみんなドレみたいで、東の連中はみんなウータンみたい。4年前にリリースされた彼らのファースト・アルバムは、そんな具合にじわりじわりとシーン全体に浸透し、もはや神格化されてしまった印象さえある。そういう意味でも待望の新作。確かにこの4年の間、メソッド・マン、オール・ダーティ・バスタードらメンバーそれぞれが次々とソロ作をリリースしていた。それらをぼくたちはほとんどウータンのアルバムとして受け止めていたような気もするけれど。でも、やっぱり待っていたのは、これ。グループ名義での新作だ。

 2枚組ということもあって、まだぼくは消化不足ぎみ。歌詞もあまりわかっていないし。全体像をはっきりつかみきれずにいる。ただ、ウータン・サウンドを真似している連中がいまだウータンのファーストで聞かれたグルーミーな音の周辺をうろうろしているのに対し、本家はぐんとスピード感や切れ味を増しているのが面白いところ。2パック、ビギーが立て続けに逝き迷走するシーンにあって、しかしRZA率いるウータン軍団に迷いはなさそうだ。ただ、ファーストに充満していた“やばい圧力”のようなものは減退しているかな。まあ、今やシングル・カット曲1−13のビデオに1億円近くかけたというビッグ・グループなんだから。当たり前かもしれないけど。何はともあれ注目盤!




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