1999.7.3

Bleeker Street:
Greenwich Village In The 60's
Various Artists
(Astor Place)

 トリビュート・アルバムの類が近頃多すぎて、正直、食傷ぎみなわけですが。ちょうどブライアンのコンサートを見るためにニューヨークへ行っていたとき、レコード屋さんの店頭にずらーっと並んでいたのがこれで。地元意識がわいて、つい買ってしまいました。地元じゃないのに(笑)。

 60年代フォーク・ムーヴメントの発火点となったグリニッジ・ヴィレッジへのトリビュート・アルバム。参加メンバーも、選曲も、興味深いです。ジョナサ・ブルックスがサイモン&ガーファンクルの「ブリーカー・ストリート」、マーシャル・クレンショーがディランの「マイ・バック・ペイジズ」、クリッシー・ハインドがティム・バックリーの「モーニング・グローリー」、ロン・セクスミスがティム・ハーディンの「リーズン・トゥ・ビリーヴ」、ジュールズ・シアがジョン・セバスチャンの「ダーリン・ビー・ホーム・スーン」、パティ・ラーキンがフレッド・ニール/ニルソンの「エヴリバディーズ・トーキン」などなど、全16曲。

 みんないいです。オリジナルに対するリスペクトもあり、自らの個性も殺さず。今なおブリーカー・ストリート沿いのフォーク・クラブとかが現役感漂わせながら生きながらえている理由もわかるね。プロデュースはピーター・ゴールウェイ。



Marvin Is 60:
A Tribute Album
Various Artists
(Motown)

 で、こちらはマーヴィン・ゲイ生誕60周年を祝したトリビュート盤。以前もマーヴィンへの素晴らしいトリビュート盤は出ていて。95年くらいに。『インナー・シティ・ブルース』だっけ? いい仕上がりの曲も多かったけれど、中にはちょっとだけ散漫なものもあって。あれに比べると、こちらのほうが全曲平均点の仕上がりかも。

 エリカ・バドゥ&ディアンジェロの「ユア・プレシャス・ラヴ」、ブライアン・マクナイトの「ディスタント・ラヴァー」、モンテル・ジョーダンの「アイ・ウォント・ユー」、ジェラルド・リヴァートの「レッツ・ゲット・イット・オン」、エル・デバージの「セクシュアル・ヒーリング」、ジョン・Bの「マーシー・マーシー・ミー」などなど、どっちかっていうと、スムース&メロウなシンガーとしてのマーヴィン・ゲイをリスペクトしたかのような構成。“第2のマーヴィン・ゲイ”とか言われてシーンに登場した連中が勢揃い(笑)。

 でも、ここで前言を翻しますが、イノヴェイティヴなサウンド・クリエイターとしてのマーヴィンに対する目配りがあったぶん、散漫だったとはいえ前トリビュート盤の勝ちなんじゃないかとぼくは思うわけです。前のやつはいわゆる“第2のマーヴィン”は一切登場せず、表層的な類似ではなく根底に流れる思想の類似、みたいな、そっち方面に気配りしたと思われる顔ぶれで固められていたし。

 平均点ものがお好きな方はこっちのほうがいいかも。とりあえず曲のよさとかは十分に伝わってくるから。でも、ぼくは1枚ものを買ったのだけど、なんでも同じ選曲でマーヴィン・ゲイのオリジナルを詰め込んだ盤を加えた2枚組もあるそうで。曲のよさを楽しむなら、むしろそっちのオリジナル曲集だけがあればOKな感、なきにしもあらずかな。

 そういや、日本盤には、最近なりをひそめている某日本人アーティストによるカヴァーが1曲追加されるって噂も耳にした。やめといたほうがいいのに。冒涜度高くなる可能性大だから。



Bad Love
Randy Newman
(Dreamworks)

for What's In? Magazine

 実に11年ぶり。このところ映画音楽の分野で鉄壁の才能を発揮していたランディ・ニューマンが、ようやく自らの歌声を満載したオリジナル・フル・アルバムを制作してくれた。コープランドやガーシュインなどアメリカのクラシック作曲家たちの持ち味と交錯するニューマンの映画音楽群も素晴らしいのだけれど、やはりぼくたちが待っていたのはこれ。彼自身の渋く、深く、皮肉っぽい歌声で綴られる様々な物語だ。ミッチェル・フルーム&チャド・ブレイクをプロデュースに迎え、彼ら独特のリズム・セクションの質感/空気感を取り入れたりはしているものの、そこに表現されている世界は、ノスタルジックで、しかし鋭い毒を孕んだニューマンならではのもの。どうにもランディ・ニューマン。うれしい。

 この人の場合も、まあ、分類としてはシンガー・ソングライターという大枠にくくられるわけだけれど。シンガー・ソングライターにもいろいろあって。自分の心の揺らめきをそのまま自分のドラマとして表出するタイプと、曲ごとに物語の主人公を作り上げて、その人物を演じるタイプと。ニューマンは後者の代表格。今回も典型的な南部の家族の一員になってみたり、若い女を追いかけるダメ親父になってみたり、年老いた音楽家になってみたり、日常のささいな不満をぼやく中年男になってみたり……。そのうちのいくつかはニューマン自身であり、いくつかはニューマン自身ではない。けれども、すべてが様々な形の“病んだ愛”というテーマに貫かれて1枚のCDの中に共存している。


Little Mystery
Todd Thibaud
(Doolittle/Mercury)

 ニューヨークで見ました。この人と、Vロイズと、ダムネーションズTXのジョイント・ライヴ。でね、メインはたぶんVロイズで。そのときはとてつもなくたくさんの客がクラブに詰めかけていたんだけど。ライヴのトップ・バッターとしてこの人が出てきたときには、ほんと、客がぱらぱら状態。あー、たいしたことないのかなぁ…と思ったんだけど。

 ところが、ぼくにはこの人がいちばんよかった。元クーレイジ・ブラザーズのトッド・ティボー。“ニューヨークは5年ぶり”とかMCしていたから、ソロになってからは初だったのかも。サン・ヴォルトあたりと共通する、ダスティかつ葛藤に満ちたシンガー・ソングライター・ロックって感じで。あまりにも良かったもんで、奥さんらしき人が即売していたこのセカンド・ソロCD、買ってきちゃいました。

 クーレイジ・ブラザーズ時代のソングライティング・パートナー、ジム・スコットのプロデュースのもと、いい曲いっぱい詰め込んでます。ニール・カサルやグレッグ・レイズも客演。



See What You
Want To See

Radney Foster
(Arista Austin)

 ビル・ロイドさんとともにフォスター&ロイドを組んでいたラドニーさんのソロ第3作(かな?)。

 前のアルバムが、フォスター&ロイド時代に獲得したコンテンポラリー・カントリー・マーケットでの支持をそのまま受け継ぐような仕上がりだったのに対し、こちらは完璧に通常のカントリー・マーケットを脱却して、トリプルAマーケットへと足を踏み出したような感じ。より個的に、より深く。ソングライターとしても成長。いい出来です。

 エミルー・ハリスも客演。



50-Odd Dollars
Fred Eaglesmith
(Razor & Tie)

 前作には、まじ、やられた。胸にきた。カナダ人のくせして、アメリカ人以上にアメリカン・ルーツ・ロックへの洞察力を感じさせるところなんか、ザ・バンドとかニール・ヤングなみだなとまで思った。

 そんなイーグルスミスさんの新作。ちょうどニューヨークにいたとき、ライヴやってたんだけど、もろもろ折り合わず見に行けませんでした。本盤の発売日、ピア17で無料ランチタイム・ライヴもあったみたいなんだけど。あー、くやしい。くやしかったので、ニューヨークのタワー・レコードで盤だけ買ってきましたよ。

 相変わらず、スティーヴ・アールというか、ジョー・イーライというか、ガイ・クラークというか、そういうアウトロー・カントリー・アーティストに一脈通じるを炸裂させている。ただ、前よりドラマチック度というか、深刻度(笑)が増したみたい。エルヴィス・コステロ度高し…ってところでしょうか。ちょっと重め。でもいい盤。淡々とした「クレイジアー」と「カーター」、ロス・ロボスやケイクにも通じるハイパー・テックス・メックス曲「スティール・ギター」あたりが個人的お気に入りです。



Buzz Me In
Jack Logan
(Capricorn)

 今もジョージア州アセンズを本拠にしているのかな。確か、自動車の整備工とかしながら歌ってるシンガー・ソングライターだったと思うんだけど。違ったかな。最近記憶があいまいです(笑)。

 インディーズ盤5枚を経ていよいよメジャー・デビュー。5年くらい前に出た初のインディーズ盤『バルク』のデモ・テープっぽい印象が今も強く残っているのだけれど、そのころと比べて、ずいぶんと音楽的な幅を広げた感じ。シニカルな手触りはそのままながら、曲によってはストリングスなども導入して、楽曲を効果的に聞かせている。トワンギーな感触と内省的な感触を見事に融合した1枚って感じです。



Fight Songs
Old 97's
(Elektra)

 前のアルバムの1曲目に入っていた「タイム・ボム」って曲が最近話題の映画『クレイ・ピジョンズ(邦題忘れちゃった。パンフレットに寄稿したのに。なんだっけ…ムーンライト・ドライブだっけ?)』の主題歌に起用されたオールド97ズ。4枚目の登場だ。

 オルタナティヴ・カントリー勢の中ではわりとハードな音像を聞かせる連中で、その辺のサウンド作りの手触りは変わらないものの、全体的な印象はずいぶんと内向きというか、ダウナーというか、そんな感じになってきた。歌詞も暗いよー。思うところがあったのでしょうか。

 とはいえ、この人たちのドライヴ感に満ちたフォーク・ロック〜カントリー・ロックはやっぱり魅力的だ。パワー・ポップ色も濃厚だし。この人たちなりの外向き/内向きのバランスが徐々に整い始めているってことかも。



After The Party
The Push Stars
(Capitol)

 ボストンの3人組のメジャー・デビュー作。REMとかカウンティング・クロウズみたいだったりする瞬間があるかと思えば、若き日のブルース・スプさんみたいに聞こえる瞬間があったり、いろいろですが。

 でも、中心メンバーらしきクリス・トラッパーって人の曲作りのセンスはかなりのもの。いい曲多しです。オルタナ・カントリー組に入れちゃおうかとも思ったけど(笑)、かなりポップな切り口も持っていて。グレッグ・レイズのラップ・スティールを実にポップに使った「バック・トゥ・ザ・パーティ」って曲とか、素晴らしいっす。 "Boy and girl, you're not the same anymore..." って歌詞とか、往年のホワイト・ドゥワップ風味も感じられるメロディとか、青春の甘酸っぱい匂いまで漂っちゃって。胸キュンものです。



The 3 Way
Lilys
(Sire)

 もう何枚だ? ベテランの風格すら漂ってきた屈折ナゲッツ野郎たち。キンクスっぽいチープなディストーション・ギターに、ゾンビーズみたいなオルガンが絡んで、ビーチ・ボーイズを薄くしたみたいなコーラスをバックにビートルズみたいなメロディが…という、もう、なんつーか、どうにも変わらないスタイルで押し通す新作。

 今回もいきなり「ダーティ・ウォーター」みたいなギター・リフでスタートしますよ。そこにバンジョーが絡んじゃったりして。ワケわかんなくて楽しいです。



Cowboy's Inn
The Riptones
(Bloodshot)

 3人組ロカビリー/オルタナ・カントリーのセカンド。ロカビリー・トリオ編成を核に、ゲスト・ミュージシャンを迎え入れて、ハードコアなホンキー・トンク・ロックンロールを聞かせてくれる。

 まあ、それだけなんですけどね(笑)。それ以外何もなし。でも、それだけで十分、ぼくは楽しめましたよ。安くてよいです。



Californication
Red Hot Chilli Peppers
(Warner)

for Music Magazine

 アンソニー・キーディスとチャド・スミスの相次ぐ事故騒ぎとか、デイヴ・ナヴァロの脱退騒ぎとか…。ここ数年、何かとわさわさしていたレッチリだが。ナヴァロと入れ替わりになんとジョン・フルシアンテが復帰するというドラマチックな展開を経て、一転、またまたがぜんホットな存在としてシーンに急浮上してきた。

 そんな彼らの最新作。4年ぶり。もちろんフルシアンテ復帰後、初のニュー・アルバムにあたる。88〜92年、レッチリ最強時代のラインアップがここにめでたく復活したわけだ。が、ことアルバムに関して言えば、結果的にナヴァロ入りのものは前作『ワン・ホット・ミニット』のみ。あのアルバム、ナヴァロのせいなのかどうなのか、メタル方面への比重ばかりが目立ち、レッチリならではの斬新かつ猥雑なミクスチャー感覚が思い切り後退してしまった感もあり。一連のレッチリ作品の中でもっとも躍動感が薄い1枚だった気がする。これ、なかったことにしちゃえば、ずっと最強ラインアップでアルバムを出し続けていたことになるんだけど…そういうわけにはいかないか(笑)。

 レコーディング開始のニュースは去年の夏ぐらいだったと思う。まず、フリーの家のガレージでジャム・セッションがスタート。30曲近くの新曲を書き上げ、そこから練り上げられたという1枚だ。プロデュースは引き続きリック・ルービン。フルシアンテ脱退直前の傑作『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』を思わせる成り立ちに、まず胸が躍る。とはいえ、あれからすでに8年。メンバー4人ともかつてのままではあり得ない。アルバム全体の肌触りは、ずいぶんと落ち着いたものになった。もちろんハードでファンキーな楽曲もあるが、それ以上に存在感を放っているのはメロディックだったりクールだったりする楽曲群だ。が、いずれにせよ、どの曲にもレッチリならではのコンビネーションが生きている。スミスとフリーが繰り出す鉄壁のグルーヴをバックに、キーディスの歌とフルシアンテのギターがイマジネイティヴに掛け合う。その構造はとてつもなく魅力的だ。詞曲自体の仕上がりも悪くない。往年の傑作曲と肩を並べる、とまではさすがにいかないようだが、少なくとも『ワン・ホット・ミニット』のときほど散漫ではない。

 それにしても、時にはノイジーに、時にはメランコリックに、時にはファンキーに、時にはアヴァンギャルドに切り込んでくるフルシアンテのギターはすごい。実にスリリングだ。かといってとっちらかった印象もなく、すべてがどうにもフルシアンテ。やはりレッチリにとってこのギターはかけがえのないものなのだなと思い知る。



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