1999.4.17

Hot Lunch
Asylum Street Spankers
(Cold Spring)

 以前、ピック・オブ・ザ・ウィークでも取り上げたグッド・タイム・ミュージック・バンドの新作。レコード会社を移籍したようだけれど、持ち味はそのまま。以前よりブルース色が撤退して、より親しみやすくなったような感じもあり。相変わらず、出来は5つ星です。前回のスティーヴ・アール同様、ぼくがちゃんとマメにホームページを更新していればピック・オブ・ザ・ウィークだったな、これも……。

 テキサス州サン・マルコスのスタジオで1週間くらいで録っちゃったものだとか。スクァーレル・ナット・ジッパーズあたりよりも音そのものに現われる諧謔性が薄いせいもあって、通常のロック・ファンの興味は惹きそうにないものの、単なるノスタルジアものに終わらないギリギリの線を的確に見据えている感触もあって。その辺の“いい感じ”をぜひ堪能してほしい。ノヴェルティ系のアプローチも楽しい。レオン・レッドボーンとかジム・クエスキンとか好きな人には絶好でしょう。



Mule Variations
Tom Waits
(Anti/Epitaph)
for Music Magazine (revised)

 いいよぉ。この人のアルバムが悪いわけないんだから、今さら強調するまでもないのだけれど。やっぱりいいよぉ。これまた本来ならばピック・オブ・ザ・ウィークものだ。5年半ぶりの新作フル・アルバム。

 ほんの少し先駆けて出た旧友チャック・E・ワイスのアルバムでのプロデュース・ワークもかなりよかったけれど、1曲でデュエットを披露していた本人の歌声を聞いていたら、こちらの新作への期待のほうがむくむく。そんなわけで、思い切り期待をふくらませて接した1枚。にもかかわらず、期待を裏切らなかったばかりか、それ以上の充実した仕上がりだ。

 去年の夏、トム・ウェイツがエピタフと契約したというニュースに面食らったものの、当然彼がパンクになるわけもなく。変わらぬ独自の世界を堂々と聞かせる移籍第一弾となった。奥様、キャスリーンとの共同プロデュース。ここ数作よりルーツ志向というか、“歌”志向が明解になったかも。マーク・リボー、ラリー・テイラー、ジョン・ハモンド、チャーリー・マッスルホワイトら、よき理解者である先輩・後輩に囲まれて、一段と深みを増した音像を構築してみせる。プライマスのメンバーも1曲参加。この辺が唯一エピタフらしいところか。

 本盤に限らず、この人が目指しているのは、今、この時代に、たとえばSPレコードを聞いたりしたときに漂うスプーキーかつハイパーなムードだったりするのだろう。本当は今と変わらぬダイナミック・レンジをもって生演奏されていたはずの往年の音楽が、録音技術の制限からああいったSP音になってしまって。でも、そのある種痩せた音像が、いい音だらけのこの時代に妙に強い存在感をかもしだすのも事実で。そのときに匂い立つやばい雰囲気とか、くすんだ空気感とか、ハイパーかつスペイシーな手触りとか。そういった矛盾と屈折をはらんだもろもろの感触をトム・ウェイツは今この時代、自らの新曲の中に匂い立たせようとしている。そのために、ジャンク・セールで手に入れた安物のマイクを使ったり、屋外で録音したり、不思議なパーカッションを導入したり。

 アサイラム時代には古き佳きジャズ・コンボの味を再現するくらいですませられていたものが、アイランド移籍後はそれはすまなくなって。ぐんぐん求心力を強めつつこの新作に至った、と。そんな感じだ。オーディオ的に言えばひどい音なのに。ピアノもベースも、もちろん歌声も、すべて素晴らしい存在感を放っている。

 この屈折した方向性を弱さと読みとるかどうか。あえて言うなら、そこが評価の分かれ目か。でも、聞き手にそんな突っ込みを入れさせないだけの楽曲ががっちり用意されちゃってるもんだから。問題なし。今回も曲がいいんだ。いちいち。胸に深くしみるメロディと、皮肉や諦観漂う歌詞。見事です。



Echo
Tom Petty &
The Heartbreakers

(Warner Bros.)

 この盤に関して、わりとクールなレビューをよく目にするけど。個人的にはバカに盛り上がってます。またまたリック・ルービンと組んでの新作。3年ぶりか? 少なくともハートブレイカーズとやる限り、ジェフ・リンではなく、やっぱりリック・ルービンのほうが相性がいいんだろうな。アメリカの心ってやつでしょうか。

 故カール・ウィルソンに捧げたとトム・ペティが語っている1曲目「ルーム・アット・ザ・トップ」がしみます。この曲を始め、ミディアム以下の楽曲の仕上がりがいい。『ワイルドフラワーズ』同様、シンガー・ソングライターとしてのトム・ペティの良さがじっくり味わえる感じ。



Standing On
The Shoulders
Of Giants

Bill Lloyd
(Koch)

 能地の知り合い(笑)。

 ナッシュヴィルをベースにごきげんなパワー・ポップを着実に追求し続けるビル・ロイド、久々のメジャー・アルバムだ。能地の話によると、アメリカ人のくせして大のロックパイル好きだそうで。2周くらいねじれたロックンロール解釈がここにはあるわけやね。

 かつてフォスター&ロイドというカントリー系のデュオとして人気を博したこともある彼だけれど、そっち方面の持ち味はせいぜい時折エヴァリー・ブラザーズっぽくなるくらいに抑えられ、ポップな胸キュン・メロディを織り交ぜつつの堅実なパワー・ポップ盤に仕上がっている。2曲ほどブラッド・ジョーンズが共同プロデュース。

 骨太なマーシャル・クレンショーみたいな?



Seven More Minutes
The Rentals
(Maverick)

 ウィーザーのマット・シャープのバンド。95年のファーストからかなり間を置いての新作だ。メンバーもだいぶ変わった。そのせいか、ファーストでのムーグ中心の、まあ、ある種“モンド”な音作りから、ちょっとだけギター中心の方向にシフトチェンジ。個人的にはこっちのほうがうれしい。

 音楽性の幅はかなり広いけれど、どの曲も屈折率がマットならでは。そのせいで、アルバムを通しての手触りは、もうまぎれもなくレンタルズだ。イギリス録音ということで、デイモン(ブラー)、ミキ(ラッシュ)、ティム・ホイーラー(アッシュ)などもゲスト参加。



Utopia Parkway
Fountains of Wayne
(Atlantic)

 バーズ、ビートルズ、ビーチ・ボーイズ、バッドフィンガー、ラズベリーズ、カーズ、エルヴィス・コステロなどなど、昔のいろんな音楽が好きなんだろうなぁと好感を持たせてくれるファウンテンズ・オヴ・ウェインのセカンド。

 で、今回もそういう感じのアルバムです。で、そういう感じ以外の何物もないっちゃないので、物足りないと思う人がけっこういそう。ぼくはそういう感じなので好き。ただ、ファーストのほうが焦点が絞り込まれていたかも。洗練はされたみたいだけど。



The Sebadoh
Sebadoh
(Sub Pop/Sire)

 だいぶ前にここでレビューしたセバドーの新作。

 これまで以上に、中心メンバーふたりの個性が分裂している感じの仕上がり。ルー・バーロウの作品はかなりかっちりポップに展開し、ジェイソン・ロウエンスタインの作品はますますぶっこわれ……。

 この2極性を楽しめるかどうかが本盤評価のキーポイントかなと思う。ぼくはまだよく整理できてません。



Buckcherry
Buckcherry
(Dreamworks)

 第二のガンズ・ン・ロージズとか、AC/DCとか、いろいろ評判の高いLAのニュー・バンド。まあ、確かにそういう音なんだけど。

 ただ、そこにブラック・クロウズというか、ジョージア・サテライツというか、そういう南部ロックの伝統みたいなものが漂っているのが気になる。西海岸から憧れをこめて南部の本質を射抜くというのは、かつてのCCRとかと同じやり口なわけだ。そう思うとすごいね。どうなんでしょ。

 けっこう痛快。



The Gram Parsons
Tribute Concert

The Coal Porters
(Prima Records)

 元ロング・ライダース。グラム・パーソンズやジーン・クラークの功績を今に伝える素晴らしい伝承者、シド・グリフィンが率いるコール・ポーターズのライヴ盤だ。タイトル通り、去年の9月、ロンドンで行なわれたグラム・パーソンズへのトリビュート・コンサートの模様を収めている。

 ひとりCRTというか(笑)。

 インターナショナル・サブマリン・バンド時代のレパートリーから、バーズ時代、ブリトーズ時代、ソロ時代などなど、なかなかにツボを押さえた選曲。メル・ティリスの「スウィート・メンタル・リヴェンジ」を69年ごろブリトーズがライヴで聞かせていたアレンジでやってみたり、シークレット・トラックとしてパーソンズがついにレコーディングせずに終わってしまった「アップル・トゥリー」を取り上げていたり。シド・グリフィンならでは。マニアってのはここまでいかないとね。



I Am...
Nas
(Columbia)

 前作で見事、ポップ・スターと言ってもいいくらいの座を獲得したナス。またまた久々となった新作は、大傑作だったファーストで見せてくれたドープな若きヒップホップ・ヒーローとしての感触と、セカンドでの豊潤とさえ形容したくなるアプローチとをうまい具合に融合した仕上がりになっている。

 音は今のポップスとしてのヒップホップの役割を全うするような、むちゃくちゃかっこいいツクリだけれど。それより何より、相変わらず詩が深い。近ごろ個人的には今ひとつ触手が動かない盤が多くなってきたヒップホップ・シーンにあって、しかしぼくがナスの新作をいつも楽しみにしている理由は、ほぼここにある。詩、ね。けど、まあ、意識的なヒップホップ・ヒーローたちがみなそうであるように、彼もどんどん彼ならではというか、クイーンズに生まれ育ったアフロ・アメリカンでないとわかり得ない世界へと踏み込みつつあって。

 日本で聞くヒップホップって、むずかしいねぇ。



Gospel
Curtis Mayfield
(Rhino)

 インプレッションズ期、ソロ期ひっくるめて、カーティスが作ったゴスペル・タッチの曲ばかり集めたコンピレーション。ポップ・ミュージックであるはずなのに、あらゆる俗世の欲みたいなものから遠いところで、穏やかに、優しく、はるか彼方を見つめているかのように思えるこの人ならではの聖なるファルセットが存分に楽しめる仕上がりだ。

 「イッツ・オールライト」と「エーメン」のメドレーの未発表ライヴも収録。

 このコンピレーション以外に、オリジナル・アルバム『ルーツ』にボーナス・トラックを多数詰め込んだ盤もライノから出た。以前の『スーパーフライ』の再発に続く第2弾。このまま、他のオリジナル・アルバムもぜひライノから出し直してほしいものです。



Live At
Winterland Ballroom

Paul Butterfield's
Better Days

(Bearsville/Victor)

 73年の未発表ライヴ音源、必殺の世界初CD化だ。

 60年代にポール・バターフィールド・ブルース・バンドを率いて白人ブルース/R&Bを一躍広めた立役者が70年代に結成したポール・バターフィールズ・ベター・デイズの全盛期の勢いをたっぷり追体験できる。

 ロニー・バロン、エイモス・ギャレット、ジェフ・マルダー、ビリー・リッチ、クリス・パーカーというベスト・ラインアップで、主に傑作ファースト・アルバム『ベター・デイズ』からのナンバーを中心に見事なドライヴ感と豊かなアンサンブルを披露。バターフィールドのブルージーなハーモニカはもちろん、ロニー・バロンのファンキーなキーボード、エイモス・ギャレットのリリカルなギターなど、すべてのプレイがスタジオ盤以上の臨場感をもって迫ってくる。

 「センド・ミー・サムワン・トゥ・ラヴ」でのエイモス必殺のギター・ソロも泣けます。ほぼアルバム・ヴァージョンのまんまなんだけど、やっぱりこの人一世一代の名フレーズ。エイモスはじっくりじっくり、時には1週間くらいかけてソロを練り上げるって話を聞いたことがあるけれど、なるほど、この人の場合はギター・ソロすなわちアドリブではないってことだ。完成された、いわば作曲みたいなもの。それだけに、このソロ、かつてコピーした人、多いでしょ。ぼくもしました。

 この人たち、見たかったなぁ。



Band On The Run:
25th Anniversary Edition
Paul McCartney & Wings
(Capitol)

 もう25年ですか。

 ビートルズ解散後、軟弱だのヒヨってるだのナンクセつけられてばかりだったポールが勇躍逆襲を開始したのが1973年。5月に必殺のラヴ・バラード「マイ・ラヴ」を含む『レッド・ローズ・スピードウェイ』で全米1位に返り咲いたのに続いて、暮れにリリースされたのがこの『バンド・オン・ザ・ラン』。ノリノリの内容だっただけに、翌年にかけて当然こいつも全米1位。ポール・ファンにとっては胸のすくような一撃だった。

 で、25周年を記念して、見事なリマスタリングでオリジナル・アルバム(「愛しのヘレン」を含むアメリカ仕様)を甦らせて、プラス、“メイキング・オヴ・バンド・オン・ザ・ラン”とも言うべき、ドキュメンタリー・ラジオ番組のようなCDが1枚。

 このメイキング編もなかなか面白い。ポールはもちろん、ジェフ・エメリック、トニー・ヴィスコンティら制作スタッフ、ジェームス・コバーンやクリストファー・リーらジャケットに登場した有名人たち、「ピカソズ・ラスト・ワーズ」の誕生に一役買ったダスティン・ホフマン……など、興味深いコメントがざくざく。さらに80年代末から90年代アタマにかけてのワールド・ツアーの音源から『バンド・オン・ザ・ラン』の収録曲の未発表ライヴ・ヴァージョンを何曲か。

 「レット・ミー・ロール・イット」についてポールが、これはジョンみたいな曲かもね、俺たち同じような音楽を聞いてきたし、いつも一緒にハモってたし……みたいなことを話すところが、いちばん好きかも。




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