Reviews   Music


Harmacy
Sebadoh (Sub Pop)

 『キッズ』のサントラ盤で一気にメジャー感を強めたフォーク・インプロージョンにも関わっているルー・バーロウの、もうひとつの(いや、あといくつあるのか、本当のところは知らないけど)プロジェクトが、こいつら。セバドーってゆーのかな? 以前、えーと、一昨年だかなんだか、フォーク・インプロージョンがマイ・ブームになったことがあって、そのころにこいつらのアルバムも手に入れて聞いたりしていたものだけれど。

 なんつーか、インディーズ大王みたいな。4トラックの王者みたいな。むちゃくちゃ気合いの入っていないような、スキだらけのサウンドを作る連中で。でも、そのスキだらけのところがまたなんとも不思議な吸引力を持っているというか。以前のアルバムには、そんな印象を、ぼくは抱いていたわけです。

 で、この新作。フォーク・インプロージョンのカレッジ・シーンでの本格ブレイクを経て、セバドーのほうもちょっと変わってきたのかな、という感じだ。変わったといっても、あいかわらずエッジはきいてるんだけど。曲によっては、以前にくらべてよりなめらかに。あるいは、よりタイトに。あるいは、よりキャッチーに。けっこうまともに音楽として仕上げようとしているみたい。昔からの支持者からは、“なんだかわかりやすくなっちゃってよー。つまんねーよ”とか文句言われそうな展開ですが。

 でも、これはたぶん、セバドーが小さく閉じこもっていた予定調和に満ちた箱庭みたいな世界から一歩、外の世界に足を踏み出し、より緊張感あふれる活動を目指そうとしている証拠なんだと思う。これからが彼らのパンク・スピリットの本当の見せ場なんだろう。かつてのソニック・ユースあたりと同じ境遇かな。

 とはいえ、歌詞のほうは存分に皮肉で、自虐的で、ねじれてて。いまだ、一筋縄にはいかない。歌詞カード見ててもよくわかんないとこが多いんだけど。様々なパラドクスを内包する彼らの歌詞のイメージは、やっぱり魅力的だ。

 けっこうお気に入りっ。




Jason Falkner Presents Author Unknown
Jason Falkner (Elektra)

 今回最大の拾いものが本盤かな。これはすっげえいいです。

 どっかで見た名前だなぁと思ったら、ジェリーフィッシュの初期メンバー。かつてぼくが書いたジェリーフィッシュのファースト・アルバムのライナーノーツによればですね(自分で参照するなって)、“なんでもジェイソンは、ジェリーフィッシュに加入する以前、なんと、現在、全世界のティーンエイジャーを巻き込んで大当たりをとっているニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックの6人目のメンバーとして目をつけられていたのだとか。 が、ジェイソンが楽器をきちんと演奏できることが判明して、それを理由にニュー・キッズからは締め出されてしまったとのこと。真偽のほどは定かでない”だってさ。

 スピーディでラウドでキャッチーなロックンロールから、フォーク・ロック調の曲、ジェリーフィッシュを思わせるひねくれポップ、渋いフォーク曲、ランディ・ニューマンあたりを思わせるノスタルジックなものまで。曲作りのセンスはかなりです。パフォーマーとしても魅力あるし。

 売れちゃえ!





New Adventures In Hi-Fi
R.E.M.(Warner Bros.)

 すでにパーソナル・チャートのほうでもとりあげてます。ミュージックマガジン誌に寄稿したレビューもそっちにのせてあるので、参照してください。

 でね。これ、通常のスタンダード盤CD以外に、2枚組のアナログ盤と、あと、けっこう分厚いアート・ブック形式の限定特殊仕様盤が出ていて。この豪華アート・ブックがいいんだ。アートな写真がたくさん掲載されていて。メンバーを織り込みながら作られた架空のロード・ムーヴィーのスティル集、みたいな感じ。ちょっと値段が高くなるけど、絶対にこっちを買ったほうがいい。去年の長い長いモンスター・ツアーの中でレコーディングされた本盤の意味合いみたいなものが、よりリアルに伝わってくる気がする。

 ぼくが買ったのはアメリカ盤だったけど。日本盤でもこのアート・ブック仕様のものは出るのかな? 調べてないのでわかりません(笑)。





No Code
Pearl Jam (Epic)

 なんか、出てひと月くらい経ってしまって。今さらのレビューなので、くどくど書くのもナンですが。パール・ジャムもやってくれましたなぁ。すげえ、いいアルバムだと、ぼくは思う。4枚目にして最高傑作って感じ。

 評価は分かれると思う。ただ、ポイントは、いわゆるグランジ・ロックってやつがもう終わろうとしている昨今、やはりそんな一連のムーヴメントの中から台頭してきたパール・ジャムが、こんなふうに“グランジは死んだ”と宣言するかのような力作を発表し、それがすんげえ切実な傑作としてぼくの耳に届いたってこと。

 一時は、ある特定の世代の怒りとか、いらだちとか、そういったものを象徴する文化として隆盛をきわめたグランジ・ロックも、その世代が年齢を重ねるのと歩みを同じくしながら徐々に行き場を失っていって。持ち前の攻撃性をメタルのフォーマットにシフトチェンジしていったサウンドガーデンとか、ぐっとポップな方向に向かったフー・ファイターズとか。やり口はいろいろあるけれど、それぞれがそれぞれのやり方で脱・グランジしていっているわけで。パール・ジャムもまさに今、その瞬間を見事にやってのけてみせてくれたって感じ。

 まあ、いいや。もう、あちこちにレビューも載ってるし、けっこう売れてるみたいだし。とにかく、シャープな曲作りとタフな演奏にまいりました。歌詞も、んー、相変わらずむずかしいけど、深い……みたいです。





Nine Objects of Desire
Suzanne Vega (A&M)

 またまた旦那サマのミッチェル・フルームのプロデュースによる新作。ジャケットのブックレットに載っている写真とか見ていると、ちょっとっつ、えー、こう、ぷくぷくしてきてるみたいで。奥様っぽくなったってことかな。でも、曲作りのほうは、今なお鋭いっす。

 ミッチェル・フルーム&チャド・ブレイクらしい、喧噪と静寂とを同時にたたえたようなきわどいサウンドにのって、内なるホットなポエティック・エモーションをクールに歌うって感じ(なんだ、そりゃ)。ただ、こっちがフルーム&ブレイクのサウンドの刺激に慣れちゃったせいか、音とかメロディのほうのインパクトが、もしかすると今いちかも。

 聞いているときは、やっぱすげえなぁ……と思いつつも、実は一回聞いたっきり、まだもう一度CDプレーヤーに本盤を乗せる瞬間はやってきておりません。次に聞いたら、また印象が変わるかなぁ。

 とりあえず今はそんな感じです。