1997.12.1

Superfly
Curtis Mayfield
(Rhino)


 カーティス・メイフィールドが残した名作が、ライノ・レコードの手で生まれ変わった。『スーパーフライ』。1972年発表。その年の8月に全米アルバムズ・チャートにチャートインし、以後、4週にわたってナンバーワンの座に輝いたのを含め、46週間ランクし続けた。カーティスの長い音楽生活の中で最大のヒット・アルバムだ。内容的にもこのアルバムをカーティスの最高傑作に推す人は多い。

 そんな名作が、今回、CD2枚組へと大変身。1枚はオリジナル・アナログ盤をそのまま詰め込んだもの。もう1枚は未発表のデモ、ラジオ・スポット、映画のみで使用されたインスト・トラックを収めた貴重なボーナス・ディスクだ。

 そういえば、72年に本盤が大ヒットして、カーティスはアカデミー賞を確実に獲得するだろうと噂されたことがあった。が、結果的にはオスカーはとれずじまい。理由は「アルバムで歌われている歌詞が映画で歌われていないため」だった。確かに映画で使われていたのはインストゥルメンタル・トラックのみ。アルバムではヴォーカル入りで収録されている曲も、映画ではバックの演奏のみが使用されていた。なんとも不鮮明な理由で審査からはずされてしまったわけだけど。その問題のインスト・トラックがここで初CD化されたってわけだ。

 70年代、カーティスは映画音楽の世界に精力的に関わっていた。74年には映画『Claudine』のスコアを手掛け、ここからグラディス・ナイト&ザ・ピップスの「オン・アンド・オン」がヒット。ゴールデン・グローブ賞やアカデミー賞にもノミネートされた。75年に手掛けた『Let's Do It Again』のサウンドトラックからはステイプル・シンガーズによるタイトル曲が話題に。さらに、76年にはアレサ・フランクリンを起用して『Sparkle』、78年にも同じコンビで『Almighty Fire』の映画音楽を担当。また、77年の映画『Short Eyes』では映画音楽とともに役者としても関わっている。しかし、最も注目すべきカーティスの映画音楽といえば、やはりこのアルバム。ゴードン・パークス・ジュニア監督をはじめとする黒人スタッフが、ロン・オニールら黒人の役者を起用して、黒人の観客のために作ったはじめての映画として、当時大いに話題を集めた『スーパーフライ』のサウンドトラックだろう。

 カーティスといえば、いわゆる“ブラック・パワー”を支援する姿勢を一貫して取り続けてきた男。黒人音楽の世界に大きな足跡を残したシカゴのソウル・グループ、インプレッションズを率いて活躍していた1960年代から、「ピープル・ゲット・レディ」「ウィー・アー・ア・ウィナー」「ジス・イズ・マイ・カントリー」「チョイス・オヴ・カラーズ」などなど、黒人としての自覚をうながすような名曲を次々と生み出してきた。この姿勢はインプレッションズを脱退してソロになってからも変わらず。そうした流れが結実したひとつの形が、この『スーパーフライ』のサウンドトラック・アルバムだった。

 映画の内容は、麻薬のプッシャーマンをめぐるアクションもの。ストーリーだけを追えば実に他愛ないB級映画だ。けれども、これが黒人による黒人のための作品だったということにこそ意味がある。時代的にも、ちょうど“ニュー・ソウル運動”が華やかなりしころだ。人種差別問題と闘い続け、公民権運動推進の中心的存在となっていた黒人牧師、マーティン・ルーサー・キングが暗殺されたのが1968年の4月。その前後、70年代初頭にかけて、アメリカン・ブラックのミュージシャンたちも黒人としての自覚をもった作品を数多くリリースしていた。ウィルソン・ピケットの「ピープル・メイク・ザ・ワールド」、ジェームス・ブラウンの「セイ・イット・ラウド・アイム・ブラック・アンド・アイム・プラウド」、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの「スタンド!」、ダニー・ハザウェイの「ザ・ゲットー」や「トゥ・ビー・ヤング・ギフテッド・ブラック」、マーヴィン・ゲイの「ホワッツ・ゴーイン・オン」、ビリー・プレストンの「ユー・アー・ソー・ビューティフル」など。『スーパーフライ』も、そんな時代の気分を大きく盛り上げるのに一役買った象徴的な作品だった。

 ラテン・パーカッションと、ワウワウをかけた細かいギター・カッティングとがクールでファンキーなグルーヴをつむぎ上げる中、カーティス独特の太いファルセットが舞う。ストリングスやフルート、ホーンの使い方など、今聞いても実に新鮮。このアルバムでカーティスが完成させたサウンド・スタイルは、黒人音楽シーンばかりでなく、ロック/ポップ・フィールドも巻き込みつつ大きな影響を残している。この再発をきっかけに、さらなる再評価の声が高まることを願います。


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