1998.11.24

Up
R.E.M.
(Warner Bros.)
from Music Magazine (revised)

 結成以来のドラマー、ビル・ベリー脱退後の初アルバム。6月のチベタン・フリー・コンサートでは、ビルの代わりにベックんちのドラマー、ジョーイ・ワロンカーをサポートに従えて3曲ばかり新曲を披露して盛り上がっていたが、その3曲ともすべて本盤に収録されている。もちろん、ジョーイ・ワロンカーもゲスト参加。他にも、前作に引き続きのキーボード奏者、スコット・マッコーイーと、スクリーミング・ツリーズのドラマーでもあるバレット・マーティンあたりがサポート・メンバーとしてラインアップされている。スコットとバレットはREM&パール・ジャムの混成プロジェクトとして話題になった“Tuatara”や、ピーター・バックがプロデュースしたマーク・アイツェルのアルバムなどにも参加していた顔ぶれ。ビル脱退の穴を気心知れた連中で埋めたという感じか。

 とはいえ、ゲスト・ドラマーが参加した曲以外にも、曲によってはドラムなしだったり、あるいはドラム・マシーンを使っていたり、判別不可能な不思議な音色でリズムを刻んでみたり。様々趣向を凝らしつつ乗り切った楽曲も目立つ。おー、『ペット・サウンズ』! みたいな曲もある。いわば、あの手この手。やはり17年間連れ添った屋台骨を失った後遺症は大きいのだろう。

 もちろん激しい試行錯誤があったのだと思う。去年、ハワイで新作の曲作りに入ったというニュースを耳にして以降、バンド全体の大きな動きとしては前述したチベタン・コンサートに出演したことくらい。ほとんど彼らの表立った活動状況は伝わってこなかった。えんえんとここに収められた14曲(+1曲)のレコーディングに没頭していたのだろう。去年の秋に突如ビルが脱退し否応なく訪れた転換期、残された3人のメンバーで長年のアンサンブルをいかに作り替え、いかにこの時期を乗り越えていくか…。

 が、成果はあがった。まだ歌詞をきちんと把握していないので断言はできないが、耳に届く印象から言えば、生のドラムによるグルーヴが減ったせいか、以前よりも内省的な感触が強まっている。曲調もメロウなものが増えた。まるでソロのシンガー・ソングライターのアルバムを聞いているかのよう。にもかかわらず、楽曲そのもの、ひいてはアルバム全体のイメージはより雄大になっている。サウンド的にはともあれ、伝わってくるイメージはまったくこぢんまりしていない。やはりREMの底力はすごい。思い知らせてくれる。そんな新作だ。ベックの新作のアプローチともなにやら共通する肌触りを感じるのだけれど。彼らのルーツィな旅はより精神的な段階へと足を踏み入れ始めたのか。

 ちなみに、アメリカで出た袋入りスペシャル・パッケージ。買ったけれど、いまだにもったいなくて開けられない……。



The Story Of
The Ghost

Phish
(Elektra)

 新世代のグレートフル・デッドと評され、多くの“フィッシュヘッド”を引き連れつつ各地で長尺インプロヴィゼーションまみれのジャムを繰り広げてきたフィッシュだけど。

 95年の2枚組ライヴでいったんその持ち味を総括。96年の『ビリー・ブリーズ』ではカントリー、フォークなどルーツ方面に大きく傾倒した音作りでフィッシュヘッド以外のリスナーの心をつかんでみせた。と思ったら、またまたライヴをはさんでリリースされた本作で、屈強のジャム・バンドとしての新たなアイデンティティを強く主張しているようだ。

 40時間超のジャム・テープを吟味しつつ、そこに記録されたかっこいいフレーズとかリフとかをもとに作り上げられた楽曲ばかり。スリリングな仕上がりだ。これで日本でも人気出るかな?



Jubilation
The Band
(Platinum/River North)

 なんだかんだ言って、再結成後のザ・バンドの新作群も、ぼくはかなり好きだ。ロビー・ロバートソンのいないザ・バンドなんて……というファンもいるようだけれど、ぼくは基本的にリヴォン・ヘルムの声がしていてくれればザ・バンドだと思えるタイプの人間なので。今回もばっちり。ちょっとレヴォンの声がじじいになっちゃったなとは思うものの、聞きながら、“ああ、この感じこの感じ”と思える1枚。

 だから、けっして若い世代にはおすすめしません。これをザ・バンドだと思われちゃたまらんという気持ちと、これがザ・バンドなんだよなぁという気持ちとが、おぢさんの中で楽しく渦巻いてるから(笑)。

 リヴォン・ヘルム、リック・ダンコ、ガース・ハドソン。どうしようもない親父たちだけど、いいです。ラストのガースのインスト曲も胸にきます。エリック・クラプトン、ジョン・ハイアット、トム・パチェコ、ボビー・チャールズらがゲスト参加。



S.D.Q. '98
Doug Sahm
(Watermelon)

 S.D.Q.ってのは、もちろんサー・ダグラス・クインテットのこと。なわけで、オーギー・メイヤーズを含め、そういうメンバーにバックアップされてはいるのだけれど、それだけじゃなく、近ごろバリバリに活躍している若手テックス・メックス・バンド、 The Gourds もバックに従えた新作。

 アンクル・テュペロがカヴァーしたことでもおなじみの「ギヴ・バック・ザ・キー・トゥ・マイ・ハート」の再演とか、テックス・メックス・ファンの胸を切なく切り裂くキラー・バラード、ボビー・チャールズの「オン・ベンデッド・ニー」とか、たまんないですよ。コズミック・カウボーイ健在!




Sounds From Home
Delaney Bramlett
(Zane)

 10年ぶりか? ちょっと前にインディからリリースされたデラニー・ブラムレットの新作。現在の奥様であるキム・カーメル・ブラムレットをはじめ、ジェリー・マギー、スプーナー・オールダム、チャック・フィンドリーらがつどった、変わらぬスワンプ・ワールドだ。

 クラプトンのファースト・ソロでおなじみの「レット・イット・レイン」のセルフ・カヴァーもあり。しぶとくて、うれしい。




Fool's Parade
Peter Wolf
(Mercury)

 まだ“元J・ガイルズ・バンド”とか言わないとダメなのかな。

 とにかくピーター・ウルフの新作。前作から2年半ぶりか。やっぱりすごいヴォーカリストだってことを再認識する。J・ガイルズ時代の炸裂するソウル・スピリットってやつともまた違う、ぐっと抑えた歌声の中で表現するこの人ならではのブルー・アイド・ソウル感覚ってのがこの新作には蔓延していて。もうピーター・ウルフも、間違いなく白黒なんてことを超えた、“彼ならではのソウル”の境地へと到達してるんだろうなと思う。アメリカ音楽愛好歴の長い人になら絶対泣ける1枚だ。

 ウォール・オヴ・ザ・サウンドかなんかのレビューでこの人のことを“ホワイト・ボーイR&Bのルー・リード”って形容していたけど。なるほど。悪くないキャッチコピーかも。ちなみに、J・ガイルズ・バンドへの熱い思いは、以前ここに書き連ねました。3年近く前に、だけど(笑)。




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