水沢山    榛東村桃広付近から見た水沢山

水沢山は榛名山というひとかたまりから離れ、やや超然とした趣でそびえ立っている。1,000メートルを少々超えるほどの高さを思えば堂々たる姿だ。東の麓には水沢観音を抱き、浅間山(あさまやま・せんげんさん)の別名も持つ。昔から崇められた山なのだろう。


地図上からは東西に長い頂稜と南北に急激に落ちる斜面が観察され、魚の背鰭の形を想像させる。実際に近くに行ってみると見る方向によって形がかなり変わり、高崎からのバスの車窓からは両肩を怒らせたような姿に見えるが、水沢観音から見上げると富士山型になり、相馬山側から遠望すると関東平野を背景にして灯台のように突き出した三角形の山に見える。
桜もとうに終わった春に初めて登ったが、水沢観音側から登る道はぜんたいに急だった。実働一時間ほどで山頂に着くもののかなりくたびれる。頂稜からの眺めはすばらしい。平野部を越えたところにある赤城山は春霞のせいで黒檜山らしき稜線しか見えなかったが、子持山の上には上州武尊山が、その左には十二ヶ岳を下にして谷川連峰が延びている。これらの山は四月でもまだ雪をかぶっている。さらに視線を左手に向けると目の前にサボテンのコブのような榛名寄生火山群が並んでいる。相馬山二ツ岳などの奇妙な形の山々である。こちらはすっかり春山で一片の雪も見えない。その足下から榛名山全体の裾野がゆるやかに落ち込んでいき、関東平野の端に呑み込まれていく。
同じ年の大晦日、一年の登り納めに冬日の眺めの良さを期待して再訪した。このときは連れと一緒に西登山口まで車で上がり、山頂を往復した。その日は周囲に靄が満ち、期待に反して春には見えた赤城山でさえまったく見えなかった。ちょうど昼時で、連れが山頂でTシャツ一枚になるくらいの陽気である。とても冬とは思えないが、暖かく風もないので山頂でのティータイムをのんびり過ごしてから下山した。わずか二時間弱の行程だが、年末の慌ただしいときにはこういう短い歩きの方がかえって落ち着くようだ。
山頂を背に西登山口方面に下る
山頂を背に西登山口方面に下る(12月)
1999/4/21,12/31

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