仙元山から三浦アルプス南尾根葉山市街地から見上げる仙元山

地図で三浦半島の地形をよく見ると、二子山を中心とするあたりの山地がもっとも人の手の入っていなさそうなところとわかる。三浦アルプスとも呼ばれ、低山でありながら地形は複雑で、稜線通しの行程は高さのわりに歩きでもありそうだ。葉山の町を見下ろす仙元山から始めて東逗子に抜けるコースを考え、湿度の高くない季節にでかけてみた。分岐が多く、現在地を確認しながら進んだせいか、単に運動不足だったせいか、予定より時間のかかる山行になった。


逗子駅からのバスを風早橋で降りる。爽快な五月の陽光が溢れ、ジャスミンの香りがあたり一帯に漂っている。ここは三浦半島の葉山。海は近く、洒落た店もある。雰囲気は随分と明るく、これから一人で山あいに分け入ろうかという身には場違いにも思えるほどだ。
停留所の前に見えるトンネル手前のT字路を右へ、海側に折れ、次の交差点で左手、葉山教会に向かう急な坂道に入る。正面奥の山頂部に人工物が目につくところが仙元山のようだ。高みから振り返れば海の向こうに江ノ島が浮かぶ。教会の前で車道は行き止まりとなり、左手脇から山道が始まる。常緑樹のトンネルを抜けると無人販売がありタマネギが二つ一袋で売られている。今朝取りたてだそうだ。土産に一袋買っておく。ここでちょうど午だった。
登りだして15分ほどで山頂だった。トイレにベンチ、テーブルもある。タンポポがたくさん咲いている。桜の木々が多く花の季節は賑やかだろうが、今日は土曜の昼だというのに誰もいない。相模湾が眺め渡され、セーリングの帆がいくつも波間に浮かぶ。空気が澄んでいれば箱根や丹沢も見えることだろう。
仙元山山頂
仙元山山頂。奥に江ノ島
仙元山からは幅広の山道が続き、神奈川の美林50選にも選ばれたという森を眺めながら快適に歩く。とはいえアップダウンがないわけではなく、とくに山頂から15分ほどで出くわす急傾斜の階段登りは息が上がりもする。ようやく平坦になるとどうぞお疲れでしょうとばかりにベンチが出てくる。さらに少し登ると分岐となり、標識が立っていて山火事防止12番と記載がある。
右手のよく踏まれたものに入っていくと、雑木林だったのが檜らしき植林となり、頭上にはどこに引かれていくのか電線まで延びている。右手下から葉山中学校の生徒たちの声が上がってくる。どうやらサッカーの練習をしているらしい。まばらな枝越しに相模湾が望める程度で開けた眺めはないが、平坦な道のりが続くせいもあって気楽な里山歩きの風情だ。


ベンチが現れ、続いて立派な標識が出てきて、右にクリーンセンターへの道を分ける。さらにすぐで枝から木の看板が下がっており、真下の細い踏み跡を示して三浦アルプス南尾根はこちら、と教えている。踏み跡に入るといきなり両側からヤブが迫り、山の度合いが上がる。すぐ分岐があり、左手に森戸林道に至る踏み跡を分ける。次いで右手のコブに上がるものと左手の下り気味の山道との分岐があり、左手の下り気味の道を辿る。
道ばたのガマズミ
道ばたのガマズミ
三浦アルプスは低山のためか分岐が多い。標識は頻繁にあるが、行き先表示が統一されていないようにも見受けられるので自分が進むべき方向になにがあるか把握していないと道を間違える可能性がある。三浦アルプスを仙元山から稜線通しに行くのであれば、畠山や田浦を示す方向に向かえばよいが、常に畠山や田浦が表記されているわけでもないようだ。また畠山と田浦は終盤で行程が分かれるので、当然ながらガイドマップを持参し、必要に応じて参照するようにすべきだろう。今回持ってきたのは京浜急行がWebで公開していたもの(*1)で、ずいぶんと役に立った。(なお、葉山・山楽会作成の『葉山の山歩きコース』も大いに参考になる)
観音塚山頂
観音塚山頂
左手に森戸川の渓谷を隔てて二子山が窺えるようになってくると観音塚と呼ばれるピークは近い。明瞭な踏み跡をたどっていくと登り気味となって大木が中心に立つ山頂に着く。木の根元には千手観音像と石碑が南を向いて立つ。かつて葉山の人々が救済を願って担ぎ上げたものだろう。眺めはないが石仏の存在のためか安心できる場所で、ちょうど来合わせた田浦梅林からの4人組パーティーもここで休憩を取っていた。山は高さは関係ないですねなどと語り合う。


観音塚から下るとすぐ丁字路がある。標識は無いようで、ややおっかなびっくりで左手への道に入る。これは正解で、右手に入ると南の一色住宅地なる場所に下るらしい。すぐまた分岐があり、左手に上がっていくのと右手に下っていくのにわかれている。傍らには山火事防止17番の標識が立っているだけだ。ここは地形を観察して右手のに入る。これも正解だった。左手のは森戸林道に達するもので、ガイドマップに倒木が多いと記載されているものだろう。
急な登りを越えると右手に眺めが開け、正面に葉山国際、左手奥に大楠山らしきが見通せる。観音塚で先行された単独行のかたが休んでおり、話を伺うと三浦アルプスは大きな山に登る前のトレーニングで何度もトレースされているとのことだった。不安な分岐が続いたのでここでようやく安心する。山火事防止26番の標識から下りとなり、再び両側からヤブが迫るようになってきた。合間からは白紫に輝くものが見える。山フジが透明感のある花を陽光に輝かせているのだった。まだ里の音は響いてくるが山深い感触は強まってくる。
山菜取りへ?
山菜取りへ?
山フジ
山フジ
観音塚以降はしばらくのあいだ顕著な目標がなくなるため、山火事防止の標識が確認ポイントとなっていく。27番の標識が立つところは分岐で、古びた行き先表示も立っている。それによれば左手へが乳頭山とある。目指すべき方向だ。右手は新沢バス停、夏は難路、とあった。あいかわらず周囲は常緑の樹林で、山道にしてもヤブが被るところがある。夏は長袖を着ていないと腕が傷だらけになりそうだ。
たぶんマルバウツギ
たぶんマルバウツギ
歩きやすいとは言いがたく展望も乏しい道のりなのだが、意外なことに20〜30代の、10人くらい、ほとんどが女性という団体とすれ違う。近ごろ流行という"山ガール"だろうか。ここ三浦アルプスも最近出たその手の雑誌にガイドが出ていたので驚くことではないのだろう。疲れ気味のようだったが皆よい顔をしていた。山火事防止29番付近では江ノ島遠望ポイントがあり、30番では分岐があって右を選ぶ(標識があり、左手への道はただ"×"が付いている)。


31番を越えると10分も経たずに標識があり、左手に休み場ありとある。そこは小広い平地で、腰を下ろして休むにはよいところだ。その先は急坂でロープが張ってある。ロープ末端には大きなイバラが生えていて、左手でロープを持ちながら下っていったらそのトゲに手のひらを文字通り裂かれてしまった。浅かったからよいものの、出血込みの3センチほどの傷が付いた。
踏み跡が二股に分かれるところがあり、結局は合流するところが山火事防止番号32番。植林が見えなくなり、サクラの大木が目に付くようになる。33番になると再び江ノ島遠望ポイントがあり、上二子の左後ろに下二子を並べ、その先に逆光になりつつある島を望む。さすがにそろそろ疲れてきたころ、送電線鉄塔(東京南線3・4号線No.34)の足下に着いた。周囲が開けて気分が変わってよい。しばらく腰を下ろして鳥の声を聞いていた。
二子山
二子山
送電線鉄塔から先は、巡視路なのか幅も広くヤブもかぶらない歩きやすいものになった。右手奥に三角形の山が立ち上がっているが、あれが芽塚と呼ばれるピークなのだろう。二万五千分の一地図を眺めると、標高の記載はないが三浦アルプス一帯だと最高点らしく見える。ガイドマップでは212メートルとあって二子山より高い。
上山口分岐は山火事防止番号34番も立つところで、行き先標識もある。畠山、田浦、二子山を指す左へ向かい、シダ植物を足下に眺め過ぎるとまた分岐があり、右手後ろへ登るように続く道がまた上山口小学校へ至るとある。この右手後ろへが芽塚への登路で、5分ほどで山頂に着く。ここもまた送電線鉄塔が立っているが、先ほどのとは異なり眺めはほとんどない。わずかに切り開かれた先に大楠山方面がなんとか望める程度だ。
芽塚山腹の道
芽塚山腹の道乳頭山頂から横浜方面を望む
分岐に戻り、一コブ越えて下っていく。樹林越しにその名の通りに見えてくるのが乳頭山だ。手前で右手に畠山への道を分け、少々急な登りで観音塚以来の山頂らしい山頂だ。中央に立つ大木が天を遮り、周囲の木々が眺望を阻害するが、一ヶ所、東側が開けて横須賀湾がすぐそこに明るい。実際には緑の谷間を貫く横浜横須賀道路がエンジン音を響かせてくるが、延々と閉塞した道のりを歩いてきた身には上下左右に開けた光景が新鮮で、多少の騒音は気にならないのだった。
乳頭山頂から横浜方面を望む
乳頭山頂から横浜方面を望む
乳頭山を越えると左手から中尾根を上がってきた踏み跡が合流してくる。岩場が目立つ山道をなおも下ると右手に急斜面を下っていく踏み跡が分かれる。田浦緑地および田浦梅林へ向かうものだ。すでに4時をまわっているのでこのコースを下ってしまおうかとも思っていたが、分岐口の傾斜に恐れをなして、予定通り東逗子に向かう道のりを進む。再び横須賀湾方面を大きく見渡すところがあって気分がよい。気づけば左手奥に上二子山のアンテナがこちらを覗いてもいる。


稜線通しの道のりはやがて右手へ、掘り割り状の岩盤の道を分ける。足下の標識が教えるところによると、その掘り割りに入れということらしい。正面に続くコースがどこに向かうかは何も説明がない。よく見ると山道入り口には木々が渡されて進入禁止のサインとされている。見上げれば送電線鉄塔が立っているので、おそらく鉄塔の下で踏み跡は途切れるのだろう。
下っていくと暗い植林帯の道となり、傾きつつある日が谷間に弱々しい光を差し込んでいる。私有地につき進入禁止の看板を見送り、送電線鉄塔を過ぎると、東逗子と田浦を分ける分岐だ。まっすぐ行くと田浦で左に行くと二子山、東逗子だ。ここで4時半だったが、5月上旬のありがたさでまだ空は明るい。ガイドマップのコースタイムでも駅まで50分だ。なので東逗子を目指すことにする。
森戸川源頭に下る付近にて
植林の道も新鮮に思える
うってかわって平坦な道のりは歩きやすいものの、昨日の降雨のせいか、もとから水はけの悪い土壌のせいか、あちこちがかなりのぬかるみとなっている。乾いていれば快適に飛ばして歩けるのが減速されることしきりだ。10分ほどで馬頭観音像が目に入る。意外と大きな石像で、昔日は賑やかな交易路であったことが窺われる。さらに同様な道のりを10分で左手に二子山への明瞭なコースを分ける。木の幹に貼り紙があってマムシ注意とあり、なかなか穏やかでない。足下注意で行こう。
馬頭観音像
馬頭観音像
あいかわらず歩きやすい道のりが続き、右手の開けた谷間越しに横須賀の海を望んだりして夕暮れ時の山間の雰囲気を味わえたのもつかの間、左手に民家の屋根がすぐそこに見えてくる。時間帯があえば犬の散歩をしている地元のかたに出会いさえするかもしれない。このあたりから分岐の標識が不足気味となり、出てくる分かれ道を常に右手に採っていったら、沼間南台という団地の上に出てしまった。本当であれば沼間小学校の脇を経て駅前の交差点に出たかったのだが、明るいうちに足下が確実な道に出られたのでよしとした。それでもまだ下るべき高さはあり、坂道を下ってバス通りに出て、左へしばしで東逗子駅だった。
2010/05/08

*1 「三浦アルプストレッキングMAP」は、2011年にはリンク先から削除されていた。 (2011/4/20追記 検索すると、京急でないサイトで見つけることが可能。)

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