巻機山  巻機山避難小屋付近より割引岳方面を望む

越後湯沢の駅を出ると、晴れていれば上越線の車窓右手に越後の珠玉のような山々が見えてくる。八海山の鋸歯状の稜線に目を奪われていると、その右手に図体は大きいものの頂稜部がなだらかで茫洋とした巻機山がいつのまにか姿を現している。控えめなその登場の仕方に似つかわしく、山頂部は草原の優しげな光景が展開していた。


登りにとったヌクビ沢コースは沢コースとは言え雨が降っていなければ軽登山靴で十分だった。その前々日に「日本中で強い雨が降っています」と天気予報で言われていたので少々危惧していたのだが、水量は多くなく、不安なところは全て巻道があるので通常の登山道と同じ感じで歩ける。とはいえ途中はかなりガレているところもあり、このあと目にする稜線の景色とは対照的に躍動的な雰囲気がある。
こちらのコースを歩く人は多くなく、いても単独行の人なので話し声も少なく静かなものだ。休んでいるとお互い声を掛け合う。「けっこうきついコースですね」。「ええ、かなり急ですね」。
山頂の稜線は草原のため見晴らしがよく,八海山越後駒ヶ岳が間近に見える。ただ本日は稜線にあがったとたんに台風なみの風に吹かれてまっすぐ立っていられず、風上に向くと呼吸さえできなかった。しばらくたつと風はややおさまったが、7月下旬だというのに山上の気温は少々寒いくらいだ。越後三山方面の谷から切れ切れのガスが這い上がって来ては稜線で宙に消えていく。稜線はみずみずしい緑の草原が続き、風が吹くたびに干している広いシーツのようにあちこちが波打つ。その合間に点在する池だけが静かに佇み、ガスの切れ目に見える青空を映している。
宿では某旅行会社主催の団体と一緒になった。巻機山を登って宿に戻ってきたところ、この団体客は明け方3時半に出発して12時半に帰ってきたと宿の人に聞かされた。こういう団体の性格から考えてできるだけ危険な道を採らないようにするだろうから、おそらく井戸尾根を往復するというコースをとったのだろう。
自分も山頂からの下りはこのコースをとった。前巻機(ニセ巻機)直下は踏み壊しによって登山道が広がり,丹沢の大倉尾根のような状態だった。そこからはときおり樹林越しに眺めがあるものの林間の道が続く。登りにとったヌクビ沢が右手にかなり急な角度で落ちている。あんなところを登ったのか、と我ながら驚くほどの斜度だった。


この近辺には頂稜に岩峰を持つ金城山や国指定史跡の坂戸城跡がある坂戸山がある。六日町駅前には温泉も湧いているし、日帰りでも一泊二日でも再訪するに楽しいところと思う。
1998/7/26

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