横手山の「のぞき」から眺める笠ヶ岳笠ヶ岳(志賀高原)

笠ヶ岳は志賀高原ではおそらく最も目を惹く山だろう。山名は姿通りなので覚えやすい。この笠ヶ岳、山頂直下の峠を舗装された車道が越えていて、車で上がれば歩くのは30分もかからず頂上に着いてしまう。
あまりに簡単すぎる山は軽視してしまう。何度か志賀を訪れながら、しかもこの峠道を車で越えたことさえありながら、眺めるだけの山で終わっていた。久しぶりに夏の志賀を車で連れと訪れた初日、明るいうちに高原に着いたので投宿までの時間の使い道を考え、連れも賛同したのでやっと登る機会が巡ってきた。


峠には茶屋があり、その前に車を停めた。メニューのコーヒーに惹かれ、登る前にいただくことにする。峠に水がないため麓から持ち上げてきたので淹れたコーヒーは、味が引き立っていた。谷を隔ててみる山々の眺めは大きい。「目の前の大きいのが御飯岳、あの尖ったのが老ノ倉山ですよ」。もう夕方近くなので通りかかる車の数もほとんどなく、静かな山上のひとときを味わえた。
笠ヶ岳を背負った峠の茶屋
笠ヶ岳を背負った峠の茶屋。この日の閉店直前に到着。
ガスに隠れる御飯岳、頭を出した老ノ倉岳を眺めながら、美味いコーヒーを
ガスに隠れる御飯岳、頭を出した老ノ倉岳を眺めながら、美味いコーヒーを。
他のメニューに「ひんのべ」というのも。高山村の食べ物で、すいとんを引き延ばしたものを主たる具にした汁物。
茶屋脇から始まるのは整備された幅広の道で、このまま山頂に着くのかと思ったものの、急勾配の階段を登ると密に茂った森のなかを行くようになる。足下は不確かになり岩も出てくる。左右にシダの茂る急で細い道が明るくなってくると山頂だった。
山頂直下のシダの道
山頂直下のシダの道。
峠からの登高は予想より山の雰囲気を味わえたが、やはり短いことに変わりはない。山と渓谷社『日本の山1000』での笠ヶ岳の紹介によると、かつては北に延びる尾根を直登するルートもあったらしい。改めて2万5千分1地形図を眺めてみるとそれらしい山道が波線表示されているが、峠越えの車道にぶつかって途切れている。笠ヶ岳が遙かなる頃はいまよりも畏敬と憧憬の念をもって仰がれたことだろう。
山頂からガスに霞む鉢山(左)と横手山
山頂からガスに霞む鉢山(左)と横手山。連れが登ってくる。
山頂からの展望は午後のガスがあちこちに漂っていてすっきりしなかったが、一角を占める巨石に登ると志賀山、横手山が眺められた。峠でと同様に谷を隔てた御飯岳の山体も大きく、いつかあれの稜線を歩いてみたいと思わせられる。まわりを眺めているうちに汗も引いた。高原の山は涼しい。今朝までの都会の炎暑はもはや記憶から薄れつつある。すぐに立ち去るには惜しく、バーナーを出して湯を沸かし熱い飲み物をつくった。もう夕方なので誰も来ず、ガスの流れるのを眺めながら長いこと呆けていた。


山を下ったときは5時過ぎで、すでに茶屋は閉まっていた。
オーナーのご夫婦はもともと柏崎にお住まいだったが、前のオーナーからやってみないかと言われて引き継ぐことにしたらしい。お二人とも気さくなかたで、山を登る前にいろいろと話をうかがった。雪があるため峠の車道が開通する6月1日からしか峠に上がれないこと、まだ改装中でやっと厨房にめどがついたこと、一日の営業時間帯は車が通らなくなったら終わりにしていることなど。
明日また来て食事しますと約束していたので、翌日に本白根山を登って3時くらいに再訪するとたいへん喜ばれた。このたびは二人してラーメンをいただいたが、2,000メートル近い山の肩なのでひときわおいしかった。見送りを受けて山を下りながら、ぜひまたいつか訪れて今回食べ損なったお汁粉を食べなくてはと話し合った。
下山後に泊まった旅館の売店に『志賀高原の自然観察ガイド』というものがあった。これによると笠ヶ岳は志賀高原では唯一の鐘状火山らしい。横手山あたりから眺める富士山似の姿からは思いつかなかったが、北側から見ると丸みを帯びた形で、トロイデ型と言われればなるほどと思う。
木戸池北方の田ノ原湿原より南に笠ヶ岳を望む
木戸池北方の田ノ原湿原より南に笠ヶ岳を望む。右隣にある溶岩台地のような山は”神池”というらしいが、じっさいには池はない模様。 
このガイドは信州大学教育学部志賀自然教育研究施設所が志賀高原全般の自然について解説しているもので、とくに地形の成り立ちについて詳しい。B6版くらいのサイズの52頁に豊富な記述がありながら160円くらいだった。売店で「ほんとうにこの値段なんですか?」と確認したほど買い得だった。
志賀高原の自然観察ガイド
在庫限りではないかと。
2008/08/06

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