蒜山三山下蒜山から中蒜山(手前)と上蒜山

上蒜山(かみひるぜん)への登り口は植林地で、看板が立っていて「マムシ注意」とあった。気持ちが怯みかけるが、5月下旬とはいえやや肌寒い曇り日の朝、まだ爬虫類が活動するには気温が低すぎる。林床も見通しがよく、とぐろを巻いているのも早めに見つけられるだろうと登っていく。小柄な茶色の牧牛が早朝の単独ハイカーをのんびりと見送っている。
尾根道に出れば草原だった。下方には太古に湖底だったという盆地状の蒜山高原が左右に広がっている。ジャージー牛で有名な高原に少なからぬ面積の牧場地を期待していたのは当て外れで、細かく区画分けされた住宅地や畑地のほうがよほど目立つ。一昨日は大山、昨日は烏ヶ山と二日続けて好天で周囲の山もよく見えたが、本日は左手彼方に霞む大山がそれとわかる程度だ。右手すぐの距離にある中蒜山を眺めながら、風通しのよい尾根を登っていく。
上蒜山の山頂は縦走路から外れて10分ほどの天然林の中にひっそりとしていた。木々の合間にわずかばかり切り開かれた草地に腰を下ろしてあたりを見回す。分岐点あたりに茂る背の高い木々が弱い光に総身の葉群をゆらしているだけで、誰かが通るにしてもここまでは来ないだろう。隠れ家にいるような安心感を楽しむ。
足元に目をやると、指先くらいな大きさの墨色をしたひょうたんのようなのが、草のはげた土の上をもそもそ歩いている。気がつかないでいたら踏みつけてしまうようなところだ。この足の長い甲虫もまだ身体が暖まっていないのかもしれない。しばらく眺めていたが、すぐわきにいる人間にはまったく無関心のまま草むらの中に消えていった。


中蒜山は蒜山高原を見渡す好展望台だった。細長い山頂にはベンチもあって、先行者がすでに休んでもいれば、後から若者集団がジーンズ姿で登ってきたりもする。だが三山を縦走する人は少ないらしく、みなここで下ってしまうようだ。徐々に風が強まる中を出発し、草原に囲まれた下蒜山に着いてみると、遮るもののない山頂は強風が吹き越していて寒いくらいだった。眠っている動物の脇腹のように波打つ草原を見渡しながら下山した。
下蒜山から犬挟峠への路
下蒜山から犬挟峠への路
車道に出てから高原の中央を通るバス通りまでのんびり歩いた。右手には似たような三角錐の蒜山三山が手前から奧に等間隔で並んでいる。写真に撮りたい構図だが、三山全ては幅がありすぎてファインダーに納まらないのだった。密集した古墳群の遺跡に立ち寄ったりしてから本日の宿に向かった。
2000/5/26

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