解説2 図形の繰り返し

 

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 先のシミュレーションで分かるように,一見,かなり複雑そうな図形であっても,ある程度時間がたつと,すでに通過済み(描き済み)のルートを再び通るという経過を経ているように思われます。それぞれの条件で定まる一定のコースを行ったり来たりするとか,あるいは閉曲線ならばグルグル回り続けている・・・といった具合です。
 つまり,リサジュー図形では,図形が単純か複雑かに関わらず,ある時間の後には同じ図形が繰り返し描かれ続けていく・・・?。
 本当にそうなのでしょうか?
 もしそうだとしたら,それは数学的・物理的にどのようなことを意味するのでしょうか?

 以下に,このことを検証してみましょう。


図形の繰り返しを決める要因:
 前項のリサジュー図において,$x$ 方向,$y$ 方向の単振動の振動数をそれぞれ $f_x$ , $f_y$ とすると, \[x = A_x \cdot \cos \omega_x \, t \\ \kern0.5em = A_x \cdot \cos ( 2\pi\, f_x \, t \,) \\ y = A_y \cdot \cos ( \omega_y \, t + \delta ) \\ \kern0.5em = A_y \cdot \cos ( 2\pi\, f_y \, t + \delta \,) \]  単振動では位相が $2\pi$ 変化するごとに同じ位相状態となり,変位の値も同じ値となります。 $2\pi$ の整数倍 変化した場合も同様で,同じ位相状態となります。

 そこでいま, $n_x$ , $n_y$ を 整数 として,上の $x$ ,$y$ の位相にそれぞれ $2\pi$ の整数倍を加えたものと,上の $x$ ,$y$ の値が等しいとおいて,これを式に表してみましょう。
\[ A_x \cdot \cos ( 2\pi\, f_x \, t ) = A_x \cdot \cos ( 2\pi\, f_x \, t + 2\pi\, n_x ) \\ \kern 7em = A_x \cdot \cos \bigg\{ 2\pi\, f_x \bigg( t + \bun{n_x}{f_x}\bigg)\bigg\} \\ A_y \cdot \cos ( 2\pi\, f_y \, t + \delta \,) = A_y \cdot \cos ( 2\pi\, f_y \, t + 2\pi\, n_y + \delta \,) \\ \kern 8em = A_y \cdot \cos \bigg\{ 2\pi\, f_y \bigg( t + \bun{n_y}{f_y}\bigg) + \delta \bigg\} \]  よって,\[T_x = \bun{n_x}{f_x} \\ T_y = \bun{n_y}{f_y} \]とおくと, \[x(t) = x(t+T_x) \\ y(t) = y(t+T_y) \] となります。
 ここで $T_x$ , $T_y$ は時間の次元を持つ量であり,変位 $x$ は時間 $T_x$ 後に,変位 $y$ は時間 $T_y$ 後に,それぞれ時刻 $t$ のときと同じ値になることを意味します。つまり,変位 $x$ ,変位 $y$ は,それぞれ時間 $T_x$ , $T_y$ ごとに同じ値が繰り返されることになります。
( 振動数の逆数は「周期」ですから,整数$\times 1/ f$ は周期の整数倍 を意味します。)

 したがって,もし,\[\underline{ T_x = T_y } \]という条件が成り立っているとすると,$x$ も $y$ も同じ時間 $T_x \,(\,=\, T_y\,)$ 後には時刻 $t$ のときと同じ位相状態となり,その後はともに時刻 $t$ 以降と同じ変化を辿ることになります。よって,描かれる軌跡も同じになる・・・というわけです。この場合,もちろんその後も,時間 $T_x = T_y$ ごとに同じことが繰り返し現れることになります。
 つまり, $ T_x = T_y $ の条件が満たされているとき,必ず図形の繰り返しが起きる・・・ということになります。

 では, $T_x = T_y$ が成り立つ条件とは何でしょうか。\[ \quad T_x = T_y \\ \kern-1em \therefore \bun{n_x}{f_x} = \bun{n_y}{f_y} \\ \kern-1em \therefore \bun{f_y}{f_x} = \bun{n_y}{n_x} \]  ここで $n_x$ も $n_y$ も整数でしたから,\[\bun{f_y}{f_x} = \bun{n_y}{n_x} = \color{red}{ 整数比 } \]  これが,直角な2方向の単振動によって同じ図形が繰り返し描かれていく条件です。
 振動数の比 $f_y/f_x$ というある量(実数)が2つの整数の比(既約分数)として表すことができるということですから,この量はまさに「有理数」ということにほかならないことになります。
 すなわち,直角な2方向の単振動の振動数の比が有理数であれば,軌跡はある時間の経過後に必ず,以前に描いた図形上を再び辿ることになるのです。(振動数比は「角振動数比」,「周期比」に言い換えることができます。)
 これに対して振動数比が2つの整数比として表し得ない,つまり無理数の場合,時間がたっても $x$ , $y$ の位相状態が同時に以前のある時刻と同じになる(それぞれに $2\pi$ の整数倍が加算された形になる)ことはなく,したがって以前と同じ軌跡を描くことはないことを意味します。

 ちなみに一例として, $f_x = \bun{13}{3} \mathrm{[ Hz ]}$, $f_y = 1.7 \mathrm{[ Hz ]}$ という例で考えてみましょう。\[ \bun{n_y}{n_x} = \bun{f_y}{f_x} \\ \kern 1.5em = \bun{\,1.7\,}{\bun{13}{3}} \\ \kern1.5em = \bun{17\times 3}{130} = \bun{51}{130} \\ \kern-1em \therefore T_x = \bun{n_x}{f_x} = \bun {130}{\bun{13}{3}}=\bun{390}{13} = 30 \mathrm{[\, s \,]} \\ T_y = \bun{n_y}{f_y} = \bun {51}{1.7} = 30 \mathrm{[\, s \,]}\]  すなわち, $ 30 \mathrm{[\, s \,]}$ 後から,同じ図形が繰り返されることになります。この間に $x$ 方向に $n_x = 130$ 回, $y$ 方向に $n_y = 51$ 回ずつ振動していることになります。