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遺棄毒ガス・チチハル訴訟 東京高裁 判決に対する弁護団声明

声   明

 

1 本日、東京高等裁判所第2民事部(大橋寛明裁判長)は、中国チチハル遺棄化学兵器被害訴訟につき、控訴人ら(被害者とその遺族・合計50名)の請求を否定した一審・東京地裁判決を追認し、控訴棄却の判決を言い渡した。

 

2 本件は、200384日、中国黒竜江省チチハル市のマンション工事現場から掘り起こされた5本のドラム缶(後に、旧日本軍が遺棄した毒ガス兵器と判明)から漏れ出た毒ガス(イペリット・ルイサイト混合液)によって44名が死傷した事故について、十分な被害防止措置をとらなかった日本政府の責任を問うものである。

 

3 本日の判決は、一審判決と同様に、旧日本軍の毒ガス遺棄という違法な先行行為によって生命・身体という重要な法益に対する危険性が切迫した状態にあり、国の担当者はチチハル市内でかかる毒ガスが付近住民に危害を及ぼすことを予見することは可能であったと認めた。しかしながら、チチハル市内には多数の軍事関連施設が存在していたから、そのどこかに毒ガスが遺棄されていることが予見されるというだけでは、予見可能性として十分とはいえないとしたうえで、具体的な遺棄場所に関わる情報を日本政府が入手して中国政府に提供できなければ本件事故を回避する措置を執り得ず、旧日本軍の関係者から事情聴取をしたとしてもそのような情報を得ることはできなかったとして、国の責任を否定した。

しかし、このような判断によって被害防止のための調査を全く行っていない国を免責すれば、今なお中国の大地に眠る多くの遺棄毒ガスによって今後も生じるかもしれない被害についても悉く国を免責することになり、法の拠って立つべき正義・公平の理念に反するものであることは言うまでもない。このような論理によって現に今も苦しんでいる被害者を放置することになれば、法および司法への信頼は地に堕ちることになる。

われわれは直ちに上告して、最高裁の判断を求める所存である。

 

4 被害は甚大である。毒ガスをほぼ全身に浴びた1名(李貴珍)は18日間に及ぶ苦闘の末に全身化学熱傷で命を落とした。命をつなぎとめた43名も、いまだ、呼吸器、眼、皮膚などの症状、免疫機能の低下、神経障害などの重篤な後遺症に苦しんでいる。ほとんどの被害者は働くことができなくなっており、家族関係の破綻、伝染するとの風評による差別などもあり、子どもたちは将来の夢を失った。

  失われた命・健康はもう元に戻せない、でもせめて、安心して医療を受け、生活できるようにしてほしい。その思いから、被害者たちは日本政府に生活・医療保障を求め続けてきた。本件訴訟は、そのような被害者支援政策の実現のための契機とするために提起された。

 

5 本日の判決は、一審判決同様、事故発生の予見可能性を認めたうえ、本件事故により控訴人らが受けた生命、身体への被害は甚大であり、その精神的苦痛、肉体的苦痛は極めて大きいものであったことは明らかであることも認めている。2つの判決が揃って認定したこれらの被害を直視すれば、日本政府の責任は明確と言わなければならない。

  控訴審に入ってからもすでに被害者2人が亡くなっており、そのうち肝臓がんにより死亡した1名(曲忠成)については、がんの進行の速さなどから、毒ガス被害の影響が指摘されている。生き残った被害者たちも、そのほとんどが進行性の被害に苦しみ、稼働能力を失っている。生活と医療に対する保障の必要性は今なお高まる一方である。

  政府は、これらの判決の認定を真摯に受け止め、被害実態を直視し、全ての遺棄化学兵器被害者に対する医療支援・生活支援の政策を実現すべきである。われわれは、今後とも法廷内外において、この政策形成を実現するために全力を尽くすことを表明するものである。

 

2012921

中国チチハル遺棄毒ガス訴訟弁護団

 

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