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遺棄毒ガス・砲弾第2次訴訟 東京高裁 判決要旨

東京高等裁判所平成15年(ネ)第3248号損害賠償請求控訴事件
(平成19年3月13日判決言渡)

判決要旨

主文

  1. 本伴控訴をいずも棄却する。
  2. 控訴費用は控訴人らの負担とする。
  3. この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

事案の撃要

1,本件は、中華人民共和国の公民(国民)である控訴人ら5名(うち1名は控訴審の審理中に死亡し、相続人らが訴訟を継承した。)が、中国国内に遺棄,放 置された日本軍の毒ガス兵器あるい通常砲弾による事故によって傷害を負ったとして,国を被告として,各自100万円又は2000万円の損害賠償を請求した 事案である。
本件事故は,4件であり,(1)昭和25年(1950年)8月24日,ドラム缶に充填されていた液体の毒ガスを手の甲に塗布して傷害を生じた事件(第1事 件)、、(2)昭和51年(1976年)5月10日頃、砲弾を切断したとこち、これに充填されていた液体の毒ガスが付着して傷害が生じた事件(第2事 件),(3)昭和55年(1980年)4月19日、地面を掘っていたところ,鍬が当たって砲弾が爆発し、その破片で傷害が生じた事件(第3事件),(4) 昭和62年(1987年)10月17日、地中から発見された鉄製缶を開缶したところ、これに充填されていた液体の毒ガスから流失したした煙により傷害が生 じた事件(第4事件。受傷者2名)であり,事故現場は、いずれも中華人民共和国黒竜江省内である。

 

2,控訴人らは,1審でば,請求の根拠(請求原因)として次の主張をした。
(1)国際法に基づく請求
(2)中国法(中華民国民法,中華人民共和国民法通則あるいはこれを内容とする条理)
(3)日本法(国家賠償法,日本民法)
1審は,原告らの請求をすべて棄却レた(東京地裁平成15年5月15日判決)。

 

3 控訴人らは、控訴審では,請求の根拠の鯉(請求原因)として,1審で主張したうち、(1)国際法に基づく請求の訴え、(2)中華民国民法あるいはこれを内容とする条理こ基づく訴え、(3)日本民法に基づく請求のうち憲法施行前の遺棄行為に基づく訴えを取り下げた。
したがって、控訴審における控訴人らの請求の根拠(請求原因)は次のとおりである。
(1)中華人民共和国民法通則あるいはこれを内容とする条理
(2)日本法(国家賠償法,日本民法)

 

4 控訴審判決の理由の要旨
(1)本件事故の原因であるドラム缶等が白本軍のものであるかどうかについて第1事件のドラム缶,第2事件の砲弾,第4事件の鉄製缶は,日本軍の毒ガス兵器であると推認することができる。
しかし,第3'事件の砲弾は,通常砲弾であり,日本軍に特有の形状等を備えていたとはいえず,その現場付近で終戦直後日本軍とソ連軍が交戦した等の事情が あるので,第3事件の砲弾は日本軍のものと認めるには合理的な疑問がある。したがって,第3事件の控訴人の請求は理由がない。

(2)中華人民共和国民法通則あるいはこれを内容とする条理を根拠とする請求について
本件には法例11条1項は適用されないから,中華人民共和国民法通則あるいはこれを内容とする条理は,本件請求の根拠となり得ない(1審の判断と同様)。

(3)国率賠償法1条1項に基づく請求について
ア作為義務の存否について
第1事件,第2事件,第4事件のドラム缶等は,日本軍が放置した毒ガス兵器であると認められるところ、毒ガス兵器の回収等を国に義務づける具体的な法規は ないが,毒ガス兵器は国際法上その使用が禁止されている兵器であり,これによる人の生命・身体への被害は重大であり得ることからすると,(1)違法な先行 行為の存在、(2)危険性・切迫性の存在,(3)予見可能性の存在,(4)結果回避可能性の存在との4要件が充されるときは,被控諒人は、条理に基づき, このような危険状態を解消すべき作為義務を負うものと解するのが相当である(最高裁昭和59年3月23日判決,同平成3年4月26日判決参照)。

(1)違法な先行行為の存否について
毒ガス兵器は人の生命・身体に重大な危害を加え得るから,これを遺棄することは違法と解される。

(2)危険性・切迫性の存否について
本件各毒ガス兵器は、いずれも人の生活圏内に存在しており,これを開缶するなどにより直ちに生命・身体に対する危険をもたらしたから,危険性及び切追性があった。

(3)予見可能性の存否について
被控訴人において,中国国内の,日本軍のもと駐屯地付近に毒ガス兵器が遺棄され,その付近に存在していることを推測し及びその危険性を予見することは可能であった。

(4)結果回避可能性の存否について一
(ア)回収措置について
我が国が中国で毒ガス兵器の回収措置をとることは,我が国の主権の行使に当たるから,中国の同意がなかった段階で回収措置をとることはできなかった。
中国政府に毒ガス兵器の回収・保管を依頼するとすれば,その具体的な所在場所,種類,数量等を特定して通知しなければ,依頼を受けた中国政府としても具体 的に回収を行うことはできないところ,被控訴人は,毒ガス兵器の所在場所等を具体的に把握していなかったから,被控訴人が中国政府に毒ガス兵器の回収二保 管を依頼するには,その前提条件が欠けていた。

(イ)中国政府に対する情報提供等について
我が国が中国で毒ガス兵器の調査をすることは,我が国の主権の行使に当たるから,中国の同意がない段階で調査を行うことはできなかつた。
第1事件のドラム缶が発見された場所は,日本軍の駐屯地等とは別の場所であり,第2事件の砲弾がもとあった場所は明らかでなく,第1事件のドラム缶及び第 4事件の鉄製缶は地下から発見されたものであるから、稗控訴人が中国政府に対し日本軍の駐屯地等の所在地を通知するだけでは,中国政府において,日本軍の 毒ガス兵器を発見しこれを回収等することができたとはいえない。
被控訴人が中国政府に対し,その把握した日本軍の毒ガス兵器の形状,大きさ,危険性,対処方法等を通知したとしても,このような情報だけでは,第1事件,第2事件,第4事件を回避するために有効であったとはいえない。

イ したがつて,被控訴人に結果厨避の可能性があったといえないので,被控訴人に作為義務が発生したと認めることはできないから,控訴人らの国家賠償法1条1項に基づく請求は理由がない。

(4)国家賠償法2条1号に基づく請求ついて
本件の毒ガス兵器は「公の営造物に当たらず,国家賠償法施行後における「設置」「管理」を認めることもできないから、国家賠償法2条1号に基づく理由がない、(1審の判断と同様)。

(5)日本民法709条,715条1項,717条1項に基づく請求について
国家賠償法施行前の行為については,国家無答責の法理が適用され,同法施行後は国家賠償法が適用されて民法は適用されないから、上記民法の規定に基づく請求は理由がない(1審の判断と同様)。

 

5 結論
以上により、本件控訴を棄却する。

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