本日,東京高等裁判所第4民事部(門口正人裁判長)は,日中戦争中に日本軍によって731部隊の人体実験の対象(「マルタ」)とされた被害者遺族、南京虐
殺事件に際し、強姦未遂の末瀕死の重傷を負わされた被害者及び無防備地区の無差別爆撃による被害者の3事件の被害者・遺族10名の控訴人が,日本政府に対
し各2000万円の損害賠償を請求していた事件の控訴審で,控訴人らの請求を棄却する不当な判決を下した。
原判決は、「(1937年)11月末から事実上開始された進軍から南京陥落後約6週間までの間に数万人ないし30万人の中国国民が殺害された。……『南京
虐殺』というべき行為があったことはほぼ間違いない」とし、また「731部隊(は)……細菌兵器の大量生産、実戦での使用を目的としたものであり、そのた
め、『丸太』と称する捕虜による人体実験もなされた。その存在と人体実験等がなされていたことについては、疑う余地がない」として、被害事実を明確に認め
ながらも、原告らの請求を棄却した。
本判決は、これらの事実認定を否定し得なかったがゆえに事実について全く触れていない。しかし、本判決は,残虐非道な被害を受けた原告らの声を無視したば
かりか、この間なされた一連の戦後補償裁判の判決の潮流に反し,現在の法理論の水準を一切踏まえることなく,論証を欠いた旧来の形式的理論のまま国際公法
及び国際私法の適用を否定し、かつ、国家無答責の法理の適用,除斥期間の適用を認めることにより,控訴人らの請求を棄却したものであり,きわめて不当な判
決である。
日本と中華人民共和国は、1972年の共同声明において、「日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任
を痛感し、深く反省する。」と宣言したが、その後今日に至るまで日本は、首相の靖国神社の参拝や、歴史教科書をめぐる態度、政治家による侵略戦争を否定す
る発言などが相次ぎ、共同声明の謝罪の言葉に矛盾する態度をとってきている。
このことが、今次の中国、韓国での反日行動をもたらす根本的な原因の一つとなっており、控訴人らの請求権を認めなかった本判決もこのような日本政府の態度と相通ずるものである。
今次の暴力的な反日活動は容認できないが、これら反日行動の根底に、残虐非道な戦争犯罪による被害を受けた被害者を未だその傷を癒さないまま放置している日本政府に対する強い抗議の念がこめられていることを忘れてはならない。
原判決は、日中戦争について「その当時においてすら見るべき大義名分なく、かつ、十分な将来展望もないまま、独断的かつ場当たり的に展開拡大推進されたも
ので、中国及び中国国民に対する弁解の余地のない帝国主義的、植民地主義的意図に基づく侵略行為にほかならず」「我が国の侵略占領行為及びこれに派生する
各種の非人道的な行為が長期間にわたって続くことになり、これによって多数の中国国民に甚大な戦争被害を及ぼしたことは、疑う余地のない歴史的事実という
べきであり……」「この点について、我が国が真摯に中国国民に対して謝罪すべきであること、国家観ないし民族間における現在及び将来にわたる友好関係と平
和を維持発展させるにつき、国民感情ないし民族感情の宥和が基本となることは明らかというべきであって……日中間の現在及び将来にわたる友好関係と平和を
維持発展させるに際して、相互の国民感情ないし民族感情の宥和を図るべく、我が国が更に最大限の配慮をすべきことはいうまでもないところである。」と判示
していた。
日本政府は原判決の上記判示を真摯に受け止め,直ちに控訴人らを含む中国人戦争被害者たちに対し,誠意ある謝罪を行い政治的解決をはかるべきである。
弁護団は,本件につき直ちに上告するとともに,本日の判決を契機にして,一連の戦後補償裁判での早期の全面解決をこれまで以上に強く求め,内外の世論と運
動を力にしつつ,一日も早く日本国がこれら被害者に対して,謝罪と賠償を行うべく,最後まで戦い抜く所存であることを表明し,本判決に対する声明とする。
2005年4月19日
中国人戦争被害賠償請求事件弁護団長
731・南京虐殺等損害賠償請求事件弁護団長 尾山 宏
731・南京虐殺等損害賠償請求事件弁護団事務局長 渡辺 春己