証明:行列の積の結合則
[『岩波数学辞典』83行列B(pp.219-220);永田『理系のための線形代数の基礎』1.4(p.25);
斎藤『線形代数入門』2章§1(p.34);藤原『線形代数』2.1(p.26);『高等学校代数幾何』(p.83;86)]
(舞台設定)
K:体(例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C)
A, B, C :体K上の行列
(定理の確認)
体K上の行列の積は、結合則を満たす。
すなわち、
任意の体K上の(m,n)型行列A、体K上の(n,l)型行列B、体K上の(l,k)型行列Cに対して、
「『AとBの積』とCとの積」は、「Aと『BとCとの積』との積」と等しい。
(AB)C=A(BC)
(証明)
行列における等号の定義にたちかえれば、
(AB)C=A(BC)とは、
1. (AB)CとA(BC)の型が一致し、
2. 全ての対応する成分が等しい
という主張である。
以下1.,2.に分けて、この主張が成り立つことを示す。
1. (AB)CとA(BC)の型は一致する。
・任意の体K上の(m,n)型行列Aと、体K上の(n,l)型行列Bとの積は定義可能であり、
ABは、体K上の(m,l)型行列となる。 ∵行列の積の定義
・体K上の(m,l)型行列(AB)と、体K上の(l,k)型行列Cとの積は定義可能であり、
(AB)Cは、体K上の(m,k)型行列となる。 ∵行列の積の定義
・任意の体K上の(n,l)型行列Bと、体K上の(l,k)型行列Cとの積は定義可能であり、
BCは、体K上の(n,k)型行列となる。 ∵行列の積の定義
・任意の体K上の(m,n)型行列Aと、体K上の(n,k)型行列(BC)との積は定義可能であり、
A(BC)は、体K上の(m,k)型行列となる。 ∵行列の積の定義
以上から、(AB)Cも、A(BC)も、体K上の(m,k)型行列となって、型が一致する。
2. (AB)CとA(BC)の全ての対応する成分は等しい
A=(aij), B=(bij), C=(cij)とする。
・ABのi行j列成分(AB)ij (i=1,2,…,m, j=1,2,…,l ) は、行列の積の定義によって、
(AB)ij=ai1b1j+ai2b2j+ai 3b3 j+…+ain bnj
…(1)
・(AB)Cの i行j列成分((AB)C)ij (i=1,2,…,m, j=1,2,…,k ) は、
((AB)C)ij=(AB)i1c1j+(AB)i2c2j+(AB)i 3c3 j+…+(AB)il clj
…(2)
・(1)を(2)に代入すると、
((AB)C)ij
=(ai1b11+ai2b21+ai 3b31+…+ain bn1)c1j
+(ai1b12+ai2b22+ai 3b32+…+ain bn2)c2j
+(ai1b13+ai2b23+ai 3b33+…+ain bn3)c3 j+…
…+(ai1b1l+ai2b2l+ai 3b3l+…+ain bnl) clj
=(ai1b11c1j+ai2b21c1j+ai 3b31c1j+…+ain bn1c1j)
+(ai1b12c2j+ai2b22c2j+ai 3b32c2j+…+ain bn2c2j)
+(ai1b13c3 j+ai2b23c3 j+ai 3b33c3 j+…+ain bn3c3 j)+…
…+(ai1b1lclj+ai2b2lclj+ai 3b3lclj+…+ain bnlclj) ∵体における加法乗法の分配則
…(3)
・BCの i行j列成分(BC)ij (i=1,2,…,n, j=1,2,…,k ) は、行列の積の定義によって、
(BC)ij=bi1c1j+bi2c2j+bi 3c3 j+…+bil clj
…(4)
・A(BC)の i行j列成分((AB)C)ij (i=1,2,…,m, j=1,2,…,k ) は、
(A(BC))ij=ai1(BC)1j+ai2(BC)2j+ai 3(BC)3 j+…+ain (BC)nj
…(5)
・(4)を(5)に代入すると、
(A(BC))ij
=ai1(b11c1j+b12c2j+b1 3c3 j+…+b1l clj)
+ai2(b21c1j+b22c2j+b2 3c3 j+…+b2l clj)
+ai 3(b31c1j+b32c2j+b3 3c3 j+…+b3l clj)+…
…+ain(bn1c1j+bn2c2j+bn 3c3 j+…+bnl clj)
=(ai1b11c1j+ai1b12c2j+ai1b1 3c3 j+…+ai1b1l clj)
+(ai2b21c1j+ai2b22c2j+ai2b2 3c3 j+…+ai2b2l clj)
+(ai 3b31c1j+ai 3b32c2j+ai 3b3 3c3 j+…+ai 3b3l clj)+…
…+(ainbn1c1j+ainbn2c2j+ainbn 3c3 j+…+ainbnl clj) ∵体における加法乗法の分配則
…(6)
・(3)(6)より、
((AB)C)ij=(A(BC))ij
なぜなら、
と
は、
足す順番が違うだけだから。(∵2重和の性質、体における加法の可換則)
つまり、
は、下表の、各行内を足し合わせてから、すべての行和を足し合わしたものであるのに対して、
は、下表の各列内を足し合わせてから、全ての列和を足し合わせたもの
と言うだけであって、
どちらも、下表すべての合計であることに変わらない。
|
aiv bvwcwjで
v=1 |
aiv bvwcwjで
v=2 |
aiv bvwcwjで
v=3 |
… |
aiv bvwcwjで
v=n |
aiv bvwcwjでw=1 |
ai1b11c1j |
ai2b21c1j |
ai 3b31c1j |
… |
ain bn1c1j |
aiv bvwcwjでw=2 |
ai1b12c2j |
ai2b22c2j |
ai 3b32c2j |
… |
ain bn2c2j |
aiv bvwcwjでw=3 |
ai1b13c3 j |
ai2b23c3 j |
ai 3b33c3 j |
… |
ain bn3c3 j |
: |
: |
: |
: |
|
: |
aiv bvwcwjでw=l |
ai1b1lclj |
ai2b2lclj |
ai 3b3lclj |
… |
ain bnlclj |