【9年ぶりのロンドン】

  無事に出てきたスーツケースを手に、入国審査場まで進む。着いてみると、人が少なくてびっくりした。前来た時は、かなりの人が並んでいたのだ。オフシーズンだと、こんなものなのか。
 到着時に一番心配だったのは、両親の入国審査だった。他のことは助けてあげられるのだが、これだけは各人が一人ずつで行うことになるため、どうしようもない。事前に簡単な会話事例集などを作って渡してはあったが、それだけで切り抜けられるのかどうか。
 所持金を聞かれた時には200ポンドと答えるように、と教えてあった。このため、二人に200ポンドずつ手渡す。お金をやりとりするのを見られたくはないので、最後のアドバイスなどしながら、影でこっそりとやっていた。
 しかしこれらは全て、杞憂に終わった。
 一番に進み出た僕を係員が呼び止め、後ろにいた両親を指さし、
「Family?」
 と聞いてきた。「Yes」と答えると、
「Together!」
 と言いながら、また両親を指さす。これは最近こういうシステムに変わったのか、今日がたまたま人が少なかったから成ったことなのかはわからないが、こうして3人一緒に、僕が代表で受け答えをする形で、難なく入国審査を通過することができた。大きな不安がこれで一つ解決した。

 タクシー乗り場に移動する。外気はやはり寒く、思わず声が出てしまうほど。すぐにやってきたタクシーにホテル名を告げるが、運転手は、そこを知らないらしい。住所を告げ、さらにホテルの資料を見せるとようやく車は発進した。まだ5時前なのに、すでに辺りは暗く、オレンジ色の街灯がよく目立つ。前回来た時、空港から市内へ向かう道の途中にコンコルドのレプリカがあったのだが、今回は見つからなかった。

 タクシーはハマースミス周辺の住宅街に入り、しばらく走った所で止まった。目の前に、「VENCOURT」と書かれた看板が確かに見えた。空港から30分強、ようやく着いたのだ。
 少し休んでから早めの夕食を摂りにでかける。ホテルの外にぶらりと出てみたはいいのだが、あまり良さそうな店は見つからない。ここいらはロンドンの外れにあたり、周りの環境もガイドブックには載っていない。父親のためにビールを飲ませる店を探していると、ホテルからかなり歩いた場所で、食事のできる感じのいいパブが見つかった。ビールのビターとラガー、それに簡単な食事を注文する。ここで、「エール」という、前回訪れた時には好きでよく飲んでいた種類のビールを頼んだのだが、「ないよ」と断られてしまった。発音は正しくできているはずだし、アルファベットで「A・L・E」とも言っているのに、ダメ。そういえば最近のガイドブックにもあんまり載っていない。もう作られていないのか。

ヴィクトリア駅周辺

 その後、僕はただ一人、月曜の夜に見るミュージカル「スターライト・エクスプレス」のチケットを買いに、劇場のあるヴィクトリアに向かった。やはり12時間のフライトはきつかったらしく、両親は、出発時の元気はどこへやら、食事をとったらもう部屋に戻って寝てしまったようだ。
 久しぶりに乗るロンドンの地下鉄は駅が見当たらず、ホテルのフロントで教えられた通りに歩いたのだが、迷ってしまう。前回ロンドンに来た時に泊まったホテル「ノボテル」は、ここの近くにある。ふらふらと歩いていると、その時に入ったパブが目に入った。確信はないが、おそらくここだ。ここは、帰りにもう一度立ち寄り、写真に納めた。

 もう一度人に尋ねてやっとたどり着いた「Ravenscourt Park」駅。そこからヴィクトリアまで一本で行くことができる。そして、懐かしの、アポロ・ヴィクトリア劇場と再会。しかし、喜びいさんで中に入って愕然とする。ボックスオフィスはもう閉まっていたのだ。今は開演中なのでチケット売場も開いていると思ったのは間違いだった。こうなれば当日のあさって、もう一度買いにくるしかない。明日は休演日なのだ。
 やっぱり何かがあるいつもの展開。でもこれぐらいで済んで良かったとも言える。これから何が待ち受けているのか。明日は遅い朝食のあと、市内観光バスに乗るため、ピカデリーサーカスからスタートだ。


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