朝8時50分、HISから指定された場所に行ってみると、既にチェックインまで終わった状態で搭乗券を渡される。手間が省けるのはいいが、席の指定とマイレージの加算ができなかった。その後の航空券、ホテルやユーロスターのチケットなどを受け取り、荷物を預けるためKLMオランダ航空のカウンターへ行く。後から考えると、ここでマイレージの加算ができたはずだ。事後加算は可能ではあるが、手続きがやっかいなのだ。カナダへ行った時には、航空券の残りを捨ててしまっていて、事後加算ができなかった。
搭乗まではまだまだ時間があるので、出発カウンターのフロアの隅にある喫茶コーナーで軽い食事をとる。これから嫌というほど出される機内食に備え、量は控えめだ。特に、胃腸の弱い母親は飲み物だけにしていた。僕も似たような程度で済ませる。
国際線は初めての両親に、搭乗までの手続きを一通り説明する。聞き終わって母親が一言。
「まあ、あんたの後についていくから」
こういうので結構がっくしきたりする。
食べ終わり、3人分の出国カードを書き終えると、まだまだ早いが、搭乗ゲートに向かうことにする。予想通り、金属探知器が父親のところで鳴るが、そういうものだと言っておいたのでパニックになることもなかった。出国手続きに不安はない。問題は、イギリスへの入国だ。
シャトルに乗り、ゲートまで移動する。そんなことでも両親は感心している。関空自体、初めてなのだ。
しばらく歩くと、青い機体が見えてきた。今回初めて利用するKLMオランダ航空、事前に調べた限りではなかなか評判が良ろしい。機体のデザインも特徴的だ。
ゲートの周りは閑散としていて、客も数えるほどしかいない。それまでの人の多さから一気に解き放たれ、どこか拍子抜けしてしまった。
空には雲が少しかかっていたがよく晴れていて、旅の始まりとしては最高だった。気分も高揚してくる。待ち時間、僕と父親はその辺りをビデオで撮影して回った。僕はそれ以外に一眼レフとデジカメも持っている。一眼レフは普通の写真用、デジカメは現地からサイトに載せる写真を撮るためだ。KLMの機体を収める。水色と紺のツートンカラーが目映いほど陽に映えて、美しい。
アナウンスが聞こえ、搭乗が始まった。「いよいよか」と3人、席を立つ。笑顔があふれる。
エコノミーなので席の狭さは仕方がないが、ほどほどに空いていたので、ゆったり座ることができた。全員、持ってきたスリッパに履き替えたり、僕は読む本を用意したりと、これから機内で過ごす長い時間に備える。両親も、ガイドブックやなんかで、その辺りの情報を仕入れており、準備は万端だ。
やがて出される機内食。これがまた美味しい。全体的なサービスもそこそこで気に入ってしまった。ただし、一つ、大きな難点があった。寒いのだ。足下からすーすーと吹き上げる気流があって、足を普通におろしているとそこが寒くってしょうがない。毛布2枚で腰から下を包み、さらにコートまで着込んで、しのいでいた。降りる直前の毛布の回収で、3人して大量の毛布を返却すると、キャビンアテンダントの女性はあきれていた。
皆あまり眠れない顔のまま、アムステルダムに到着。整然としていてバンクーバーを思い出すような綺麗なスキポール空港の中を、乗り換え口まで延々歩く。両親には初めての体験となる異国の地だったが、疲れていて感慨を味わう余裕もなさそうだ。搭乗口にたどり着き、腰を下ろすともうすぐに乗り込みが始まる。最後の元気で足を運ぶ。
そして遂に、雨上がりのロンドンに到着。時刻は現地時間の午後4時過ぎ、日本時間で深夜1時だ。今日という日は33時間あるのだ。