夕べ寝る前、母親が部屋にやってきて、「明日は別々に行動にしよう」ともちかけられた。ガイドに徹する僕に、1日ぐらい自由に好きな所に行って来ればとの配慮だったが、今回の旅行は元々、両親に色んなところを見せることが目的だったので、最後の日も一緒に夜景など見に行くつもりにしていた。しかし、両親も疲れがたまってきているらしく、最後の日はゆっくりと過ごしたいようだ。そこで、今日は一人で出かけることにする。
まずは、ホテルから比較的近くにあるサクレ・クール寺院。モンマルトルの丘の上に立つこの寺院は前回訪れたのだが、初日タクシーで移動する際にも目に付いていた。メトロの一日券を買い、近くの駅で降りてから坂道を上る。道中には、「TATI」という、衣料品がものすごく安い店がある。今回は買う物はなく素通りしたが、前回はいろいろここで買ったものだ。
土産物屋の並ぶ通りを過ぎ、目を上げると、もう近くにあの特徴的な建物が見える。白くて綺麗な、サクレ・クール。今日は朝から雨だったが、それでもその白さは際だって見えた。メトロのチケットで乗れるケーブルカーで近くまで登り、まずは展望台に立った。ここからは、パリ市内の全貌を見渡すことができる。雨で大変だったが、傘を差しながらビデオとカメラで撮影をする。ほどよい寒さが心地よく感じられ、景色を味わう。
寺院の中に入ると、ちょうどミサか何かをやっていて、パイプオルガンの音が厳かに流れていた。しばらく椅子に座り、その光景に眺め入る。やがてパイプオルガンは終わり、歌が始まった。延々と続く儀式をあとに、途中で外に出た。
メトロの駅まで引き返す途中、サティやリヴィエールの通ったカフェ「黒猫」をモチーフにしたグッズを売っている店で足を止めた。黒猫の絵が入ったしおりなど、いくつかの買い物をし、また歩き始める。駅までたどり着き、さてここからどうしようかといったん立ち止まり、ガイドブックを開いて考えていると、いい匂いがしてきた。振り返ると、昨日コンコルド広場で買った焼き栗を、またここでも売っていた。ちょうど昼も近かったので、これを食べながら歩こうと、大きいサイズのものを買う。やっぱり美味しい。
次に降りたのは、「Opera」駅。そう、オペラ座のあるところだ。前回来た時は、泊まっているホテルからメトロ一本で来ることができ、乗り換えの拠点にもなっていたため、何回もここを通ったものだった。地上に上がるとすぐ、あのでーんと大きな建物のそばに出る。今回は初めてだ。雨の中、その周囲を一周する。近くで事故か何かがあったらしく、パトカーのサイレンがいつまでも鳴り響いていた。
オペラ座では中には入らず、外部を撮影しただけで、次の目的地へ向かった。今度はエッフェル塔だ。陸軍士官学校そばの駅で降り、シャン・ド・マルス公園に入る。もう、すぐ近くにエッフェル塔が見える。公園のベンチに座り、焼き栗をほおばっていると、雨が激しくなってきた。傘をさし、エッフェル塔に向かって歩くことにする。公園は、写真で見るほどは綺麗ではなく、おまけに工事もやっていて、それほど趣はなかった。また、前回写真にも撮って印象の強い、エッフェル塔のふもとから士官学校を見た風景も、工事現場に阻まれ、感動はなかった。
エッフェル塔の足下を通り過ぎ、セーヌ川のほとりを、自由の女神像まで歩く。結構な距離を歩いた末やっとたどり着いたが、これもさほど大したことはなく、自分にはハズレだった。ニューヨークのよりちょっと小さい程度かと思っていたが、半分にも満たないサイズで、迫力は感じられなかった。
これで見たいと思っていた所はほぼ完了、次なる目的は買い物だ。自分の趣味の一つであるボードゲームを探しに、パリのおもちゃ屋を回る。まずは、レ・アール地区にあるショッピングセンター。メトロの駅から続きで入れる大きなところだが、インターネットで調べて2軒あるはずの店はどちらも見つからなかった。案内図でアルファベット順になっている店名索引にも見当たらず、あきらめて次を当たることにする。
ふと、地上に出るとすぐサン・トゥスタッシュ教会があることに気付き、上がってみることにする。この教会、前回初日に偶然通りかかって写真を撮り、最後の日にまた偶然通りかかって、しかも初日に写真を撮ったのを忘れてまた撮ってしまったという、因縁のある場所だ。そのでっぷりとした姿が大好きなのだが、今回見てまた惚れ直してしまった。メトロから地上に出るとすぐに建物が目に入る。威厳たっぷりで、その迫力は言葉にできないほど。いいわ、ここは。なんかよくわからない、顔と手の大きなオブジェもあったりして、それもまた良い。雨で人が誰もおらず、一人で傘を差しながら撮影にいそしむ。立ち去る時も、何度も振り向いて別れを惜しんだ。
レ・アールの駅からコンコルド広場へ向かおうとメトロの駅構内に入り、電車が来るのを待っていると、アナウンスが入る。フランス語なのでよくわからないのだが、乗ろうとしている路線名、方面名、それから「アクシデント」などという言葉が聞こえてくる。周りに立っていた人々がざわめき、やがて皆ホームから去って行く。来るのが遅いなとは思っていたが、事故かなにかが発生し、電車が来ないのは確実なようだ。歩いて一つ次の駅まで行ってみることにする。
少し迷ったすえ駅にたどり着き、そこからメトロに乗ってコンコルド広場で降りる。もうかなり暗くなっていた。目当てはフォーブル・サントノレ通りにあるおもちゃ屋さんだが、出るといきなり目に飛び込んできたのは、ライトアップされた観覧車の姿。そして、同じくライトアップされたエッフェル塔、シャンゼリゼ大通りなどなど。しかしとりあえずはおもちゃ屋さんに出向き、ゲームを物色する。
ゲームはそこそこ数はあったが、欲しいと思う物は見当たらなかった。店を出て、コンコルド広場へと戻る。シャンゼリゼは、写真で見る通り、凱旋門まで続くイルミネーションが見事だった。時間があまりなかったのだが、写真とビデオを撮りながら、シャンゼリゼをメトロの駅一つ分歩くことにする。昨日の昼間歩いた時とは別の場所のようだ。
グラン・パレの近くにメトロの駅はあった。振り返ると、観覧車も綺麗だ。惜しみつつも、メトロに乗ることにする。7時にホテルに戻り、両親と夕食に出かける約束になっていたのだ。帰ると、二人は部屋にいた。雨が降っていたので、ホテルの周りを少し歩き、早々に戻ってきたようだった。最後の食事に出かける。パリに来てから三日連続で通い続けた日本料理屋があったのだが、今日ぐらいは別のところにしようと、両親が昼間見つけた中華料理屋に入る。主人は中国系と思われる東洋人で、暖かく僕らを迎えてくれた。