40.第三幕.その2
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■両親への贈り物
 ペンギンが退場したあとも、僕ら二人はステージに残った。
(司会) 『さあ、二人にちょっと感想をうかがってみましょう。お二人の出会いのきっかけとなったペンギンに、素晴らしい今日のお祝いをいただきまして、今の感想をHARUNAさん、いかがですか?』
(HARUNA)『えー、ここがですね、今回の式のメインだったわけです。実際のペンギンを使って結婚式をしたいというのが一番の願いだったものですから、実現できて、本当に嬉しいです。ありがとうございます!』

 会場から大きな拍手。
(司会) 『あでりーさん、いかがですか?』
(あでりー)『本当に、ペンギンがいなければ出会うことはありませんでしたので、ペンギンに登場してもらって、すごく嬉しいです』

 ふたたび、会場から大拍手。
(司会) 『そうですよね。そしてそんなにお二人から思って頂けるペンギンも、とても幸せだと思います。

 そして幸せ一杯のお二人を、誰よりもあたたかいまなざしで見つめていらっしゃいましたのは、ご両家のお父様、お母様です。
 ここでお二人より、感謝の言葉がございます』
 両家の両親はスタッフに導かれ、すでにステージに並んで立っていた。結婚式でのこうしたやりとりは普通、入り口近くの末席でおこなわれる。お客様に対する敬意を表すためのへりくだりであるが、僕らはそうした慣習にとらわれることなく、堂々とメインステージでこのセレモニーをおこなうことにした。

(HARUNA)『まずは、僕の両親から。
 えー、いつになったら結婚するんだろうと、もしかしたら結婚しないのかもしれないと、思っていたかもしれません。たいへん遅くなりましたが、このような形で、結婚式を挙げることができました。
 僕は別に独身主義を貫いていたわけでも何でもなくて、ただ、結婚するのであれば、自分が選んだ、ずっと一緒に歩いていけるような、そんな人を探していました。そして、あでりーという、素晴らしい女生と巡り会うことができて、今日の日を迎えることができました。
 実家に帰って、初めて結婚の話をした時から今日まで、二人がすごく嬉しそうにしてくれていることが、僕にとってもすごく嬉しいことです。これからも二人で、なるべく実家のほうに顔を見せるようにします。今後とも、よろしくお願いいたします』

 会場からの拍手。
 今度はあでりーの両親に顔を向ける。

(HARUNA)『そして、僕にとっては新しいお父さんとお母さん。去年の6月に初めてごあいさつをさせて頂いたんですが、そのとき僕は、緊張してコーヒーに砂糖を入れることもできませんでした。そんな僕を、すごくあたたかく迎えてくださり、とても感謝しています。なにより僕が申し上げたいのは、結婚に関して、我々二人のやりたいようにやらせてくれた、そのことをすごく感謝しています。なにより僕らを信頼してくれている証だと思っています。これからも、その信頼を損なうことのないよう、二人で力を合わせてがんばっていきたいと思っています。今後ともどうぞよろしくお願いいたします』

 ふたたび大きな拍手。僕はあでりーにマイクを渡す。

(あでりー)『じゃあ今までの感謝の気持ちをこめて、受けてきた恩の、ほんとに何分の一くらいにしかならないですけど、二人で一所懸命、プリザーブドフラワーのアレンジを作りました。
 プリザーブドフラワーは、一度花の色を抜いてからまた色をつけています。保存状態が良ければ三年から五年、そのまま楽しんでいただけますので、これを見るたびに、今日のこの日のことを思い出していただければと思います。
 じゃあ、今からお渡ししたいと思います』
(♪BGM) 夜想曲(ノクターン)/さだまさし
 二人で作ったプリザーブドフラワーを一緒に持ち、お客様のほうへかかげて見せてから、僕の両親の前に歩み寄る。一礼をしてから、二人に手渡す。いったん戻ってもう一方の花を持ち、同じようにあでりーの両親に手渡した。
(6月にプリザーブドフラワーを製作した模様は、こちら




(司会) 『昭和○○年2月21日、火曜日。兵庫県は、曇り時々雨。HARUNAさん、誕生。昭和○○年5月19日、水曜日。愛知県は、曇り時々雨、遅く晴れ。あでりーさん誕生。お二人に、素晴らしい命を与えてくださいましたお父さまお母さま、今日まで大きな愛情を、本当にありがとうございました』
 お互いの両親が移動し、僕ら二人をはさみこむように六人で一直線に並ぶ。
(司会) 『どうぞ皆さま、今日ここに誕生いたしました、新しいご家族の絆にも、温かい祝福の拍手、お送り下さいませ』
(♪BGM終了)
■両親からのあいさつ
(司会) 『ここで、ご両家のお父さまより、ごあいさつがございます。はじめにHARUNA家を代表いたしまして、HARUNAさんのお父さまでいらっしゃいます、M様にお願いをいたします』
 僕の父親がマイクを持つ。僕としてはちょっと心配だった。父親は、こうした席で話をするのが得意なたちではない。それでも、どれだけ練習したのかは知らないけれど、無事にこなしてくれた。

 あいさつの内容は以下の通り。
 『ごあいさつをさせて頂きます。本日は、遠いところ、お忙しいところ、天気の悪いにもかかわらず、遠方よりご出席いただきまして、誠にありがとうございます。まだまだ未熟ではございますけれども、皆さまの温かいご支援、ご鞭撻を、よろしくお願いいたします。これからも二人は、ちゃんとやっていけると思います。本日は慣れない披露宴だったと思いますけれども、これからも二人を温かく見守っていただきたいと思います。
 本日は、遠いところ、ご出席していただきまして、誠にありがとうございました』
(司会) 『ありがとうございます。つづきまして、あでりー家を代表し、あでりーさんのお父さまでいらっしゃいます、M様より、ごあいさつを頂きます』
 僕の父親とは対称的に、こうした場でしゃべるのには慣れているお義父さんなので、普段と変わらない感じでうまく話をしてくださった。

 あいさつの内容は以下の通り。
 『本日はどうも、遠いところをありがとうございました。本来ですと、愛知と……、岡山だったっけ? (隣のお義母さんに確認してから)……兵庫、ですと、こちらの静岡まで来るということは、大変なことだったと思います。また、一週間の予報を見ましても、本日は雨でしたので、足下のお悪いなか、というあいさつをしようと思いましたけれども、ことあるごとに日が差して、たいへん二人の心がけがいいのかどうか、これから先を見ていきたいと思います。本当に明るいなか、雨も降らずに、がんばってもらえました。これも心がけがよかったのだと思います。またこれから末永く、この子たちが、そのような形で、過ごせることを祈って、私のあいさつとします。本日は、遠いところを、本当にありがとうございました』
 たしかにお義父さんの話したとおり、昨日と今日はずっと雨という予報だったのが、当日になってみるとほとんど降らず、式にまったく影響がなかったばかりか、ビデオを見る時などは多少暗い程度がちょうどよかったので、空が曇っていたのは好都合だった。
(司会) 『お父さま、お母さま、今日まで本当にありがとうございました。あらためまして、おめでとうございます、と言葉を贈らせて頂きます。それではお父さまお母さまには、お席のほうにお進み頂きます』
 お互いの両親が席に戻り、僕とあでりーはそのままステージに残る。
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