41.第三幕.その3
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■お世話になった方々への言葉
(司会) 『それでは、新郎新婦から皆様へのあいさつがございます。よろしくお願いします』
(HARUNA)『本日は、遠いなかを皆さまお越し頂いて、本当にありがとうございます。今日まで二人、一所懸命いろんな準備を重ねてきました。ただ、それ以外に、いろんな方々のご協力を得て初めてこの式を成り立たせることができた、それもまた事実であります。
 今日の式に携わってくださったたくさんの方々のお名前をお呼びして、感謝の意を表したいと思います』


 普通、結婚式でこんなことはやらないが、僕ら二人はどうしてもこのコーナーをやりたかった。感謝してもしきれないくらいの思いが二人の胸のうちにあったのだ。
(HARUNA)『音響機器、ならびにテーブルのご手配をいただいた、ダスキンレントオール様。
 ご宿泊、ならびにバスの手配をいただいた掛川グランドホテル様。
 それから、新婦のブーケ。これは我々二人が作ったんですけれども、もちろん二人だけでこれだけのものを作ることはできません。プリザーブドフラワーの専門の先生にお願いをして、一日講習という形で、一緒に作っていただきました。基本的に作ったのはあでりーで、僕はひたすら裏作業に回って、花にテープを巻くという地味な作業を、テーピングの鬼と化してやってました。その、プリザーブドフラワー、ベイシック様。

 それから、さきほどのケーキ。ペンギンの形をということで、実現していただきました。味もすごく美味しかったと思います。洋菓子工房グリフォン様。こちらは我々二人が事前に何度か試食をさせて頂いたんですが、どれを食べても美味しくて、もし皆さま、機会がありましたら、足をお運びになられてはいかがでしょうか。菊川市の東名菊川インターの近くにお店があります。

 それから今日、あちらで、今もお忙しそうに働いてらっしゃる、柿本写真館、柿本浩様です!』


 通常、結婚式でこうして紹介されることはほとんどないはずで、柿本さんはなんだか恐縮して頭を下げてらっしゃった。柿本さんにスピーチをお願いすればすごく面白いものになっただろうけれど、今回はそういうわけにもいかなかった。


(HARUNA)『本当にありがとうございます。柿本さんは鳥好きの方で、我々二人も、ペンギンに限らず鳥全般に好きなんですが、柿本さんはそれに輪をかけたバードウォッチャーであります。今回の式のために、何度かお打ち合わせをさせて頂いたんですが、だいたい2時間打合せをすると、1時間40分鳥の話をされていた、そんな愉快な柿本さん、もちろん写真の腕は確かですので、皆さま、ご安心ください。

 それから、新郎新婦の衣装です。新郎の白無垢……、じゃなくて、新婦の白無垢と新郎の袴、については、ラビアンローゼ様にお願いしました。先ほどちょっと見にくかったですが、ビデオの中でも登場していただきました。

 それからこのドレス。さきほどのカクテルドレスと帽子についても、ご用意いただきましたのは、レイナ三城様です。レイナ三城さんというのは、東京でも六本木ヒルズでファッションショーをおこなったり、名古屋でもファッションショーをおこなったりしてらっしゃるようなデザイナーの方です。たまたま我々の住んでいる場所のすぐ近くにサロンがありまして、そこで、一度行くとだいたい3〜4時間ぐらい付き合ってくださって、衣装の打合せ、試着などをやらせて頂きました。本当に細部まで手の込んだ素晴らしいドレスになっていると思います。

 それから、先ほど登場してもらったペンギン、ならびに飼育員の方々。こちらは、加茂花菖蒲園様の姉妹施設にあたる掛川花鳥園様というところからお越し頂きました。そちらのご協力を得て、ペンギンをからめた結婚式をやりたいという夢を実現することができました。本当に感謝しています。本当にありがとう、ペンギンさん!

 それから、今日、皆さまのテーブル周りで、本当にお忙しく働いてくださった、今回の式全般にあたって総合プロデュースをして頂いた、アルタモーダ様、それから、美容室アトリエまのん様。本当に我々二人の、なんといいますかわがままな要望を、ひとつひとつ、現実化できるような形で実現してくださった、その手腕には本当に感謝しております。チーフプロデューサーのS様はじめ、たくさんのスタッフの方にお手伝いを頂きました。本当に感謝しています』


 Sさんはじめスタッフの方々は、もうだいぶ手が空いてきて、会場の周囲に並んで立ってらっしゃった。ご紹介にあわせ、皆さんが会釈をされた。


 そして、結びにはもちろんこちらを紹介しなければならない。

(HARUNA)『それから、こちらの会場。この加茂花菖蒲園という会場がなければ、僕らの結婚式は、もっと全然ちがった形になっていたと思います。たいへん忙しいなか、結婚式をやっていただくというのは非常に難しいことだったんですけれど、我々も何度か足を運んでお願いをして、結果的にGOサインを出していただいた、本当にそれには感謝しています。常務取締役、U様、それから、T様、厨房担当のM様、喫茶担当のK様、はじめ、たくさんの方々にご協力いただきました。

 皆さま、今日の素晴らしいスタッフに、もう一度盛大なる拍手をいただきたいと思います!』


 会場から温かい拍手が響く。


(HARUNA)『まあ本来、結婚式でこういうことはあまりやらないのかもしれませんが、我々の要望で、一項目、付け加えさせていただきました』
■皆さまへのごあいさつ
 僕はあらためて招待客の皆さまへ向き直り、今日の式をしめくくるべく、感謝の辞を述べた。

(HARUNA)『それではあらためまして、本日はたいへん長い時間、お付き合いいただきまして、本当にありがとうございます。どうでしょう、楽しんでいただけたでしょうか?』

 会場から温かい拍手がわき起こる。
(HARUNA)『ありがとうございます。あのー、もう一ヶ月くらいペンギンは見なくていいと思ってらっしゃるかもしれませんが。

 こうしてあいさつをしながら、すごく充実した気分を味わっています。そして、この式を実現できたことに対して、自分たちに対する誇りも感じています。
 去年の2月に僕らは、結婚することを決めました。そのときに、結婚式はどうしようか、結婚式ってそもそも何のためにやるんだろうということをすごく考えました。たとえば、結婚したら結婚式をするのは当たり前だろうとか、みんながそうするから結婚式はやるものだとか、そういう理由で結婚式を決めたくはありませんでした。結婚は、僕ら二人にとってすごく大事なことです。そのために、ひとつひとつのことを精一杯考えながらやっていきたいと思いました。ですので、当初は結婚式をやらないという選択肢もありました。ただ、ペンギンが縁で知り合った二人ですので、なにかペンギンをからめたような結婚式ができれば、すごく有意義なことじゃないかと思いました。そこで、式場選びから始めることにしました。

 いつも思うんですが、幸せになりますとか、幸せにしますというような言葉は、それが具体的な形になっていかなければ、何の意味もない、ただの言葉にしか過ぎません。じゃあ僕ら二人にとっての幸せというのはどういうことなんだろうと、いろいろ考えました。そんな中で、この場所で結婚式をやることが決まって、そのための出し物を考えて、着るものを考えて、そういうことを重ねていくと、最初は、「ペンギンの結婚式」という、ただの夢だったものが、ひとつひとつ形になっていきました。そうすると、二人で一緒になって何かを作り上げていくというのはすごく楽しいことなんだなあということを、二人で何度も話しました。そういうことが、僕らにとっての幸せ、つまり、何か一つのことを決めて、それに向かって二人で何かを作り上げていく、そういうことが二人にとって大事な幸せにつながるんじゃないかと思うようになりました。

 僕ら二人にとっての幸せ、それは、二人の“作品”を作っていくことだと思います。ですので、今日のこの式というのは、二人にとっての最初の作品だと僕は思っています。つたない作品だったかもしれません。それでも、僕ら二人で一所懸命作り上げて今日の日を迎えることができた、そのことにはすごく満足しています。

 結婚に関していろんな人から、結婚式っていうのはすごくめんどくさいよとか、しんどいことが多いよとか、そういう話を耳にすることはありますが、今日までいろんな作業をしてきて、そのことはひとつひとつ僕にとっては、しんどいとか、大変だとか、そう思うようなことはほとんどありませんでした。すべてがとても楽しくて、幸せな作業でした。

 今日、この式を皆さんに見ていただいたことは、皆さんに楽しんでいただくことはもちろんなんですが、これから二人が、こういう風に幸せをつかんでいきますよという、その一端を感じ取っていただければと思います』


 話す内容はほとんど事前に考えてあって、ここまではそこそこうまく話せたと思う。ただ、調子に乗ってこのあと、すこしくだけてしまった。まあ、割と堅い内容が続いたので、ちょうど良かったかもしれない。


(HARUNA)『もちろん、新婚時代、新婚当初というのは楽しいもんだよと、そういいことばかり言ってもいられないよという諸先輩方のご意見もあるかもしれませんが、確かに僕ら二人、新婚ほやほやの、新婚まっただなかの、ういういしい僕たち、ではありますが……。えー、僕もまだ三十過ぎの若さ(多少サバ読みあり)ですが……。
 えー、そういう、ういういしい中でも、だんだんういういしくなくなっていきます。それはもちろん仕方のないことです。そして今日のような晴れがましい舞台、幸せを謳歌できるような機会というのはこれからそうそうあるものではありません。そういうことも重々承知してはいるつもりです。それでも僕ら二人がこれからやっていきたいことに変わりはありません。十年後も、二十年後も、そのときどきの二人の目標を決めて、それに向かってまた新しい作品を作っていく、そんな二人でいられたらいいなと、すごく思っています。

 本日は、たいへん遠いところをお越しいただいて、そしてたくさんのお言葉をいただいて、盛り上げていただいて、本当にありがとうございました!』


 皆さんからの温かい拍手を浴びた。
 あとからビデオで見てみると、相当長い時間話していたなあと感じた。僕としてはこれでもはしょったつもりだった。それほど、伝えたい内容はたくさんあったのだ。
 僕は、ひきつづきあいさつをするあでりーにマイクを渡した。


(あでりー)『じゃあ私からも、ひとことだけ、すみません、お時間のほういただきます。
 式に関して今まで準備してきたこと、遠いところまで足を運んでいただいたこと、本当に感謝しています。そしてもう一つ、この場にいる皆さまに感謝していることは、今まで別々の道を生きてきて、そこで皆さまと関わって、少なからず私たちの性格や方向性を決めるにあたって、いろいろ道を示してくださったり、ご指導いただいたことが多くあります。
 この場にいる皆さまがいなければ、私たちは出会わなかったと思っています』


 あでりーはそこですこし声を詰まらせ、話が途切れた。会場から、「あでりー(実際は本当の名前)、がんばれ」「もうちょっと」「幸せになれよ」と、やさしい言葉がかけられる。あでりーのお父さんの笑顔が見える。


 震える声で、あでりーは言葉を継いだ。

『本当に、ありがとうございました!』


 二人して頭を下げた。いちだんと大きな拍手がわき起こった。そばにいたSさんが、僕にそっとハンカチを渡してくださったので、僕はあでりーの目ににじみでた涙をぬぐった。
(司会) 『ありがとうございます。新郎、HARUNAさん、新婦、あでりーさん、お二人を巡り合わせてくれたペンギンと、いつもお二人を温かく見守ってくださいますご列席の皆さま方に心から感謝を申し上げまして、HARUNA様、あでりー様、ご両名の結婚式をお開きとさせていただきます。本日は誠に、おめでとうございました』
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