39.第三幕.その1
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■純白ドレスにて再入場
(司会) 『みなさま、たいへん長らくお待たせいたしました。これより、新郎新婦、新たな装いでのご入場でございます』
(♪BGM) オンリー・ユー/「スターライト・エクスプレス」サウンドトラック
 僕らが会場に姿を現すと、会場から大きなどよめきの声が聞こえた。カクテルドレスの時とは違い、僕も正統なタキシード姿である。あでりーが手にしているブーケと、僕が胸に挿したブートニアは、どちらも二人で作ったものだ。自分で言うのも何だが、すべてが完璧に“キマって”いた。

 皆さんのテーブルを訪問し、僕が手に提げたカゴの中からあでりーがクッキーを一つずつ置いていく。ウェディングケーキと同様、洋菓子の「グリフォン」さんに作ってもらった、ペンギン型クッキーである。
 BGMには、僕が愛してやまないミュージカル、「スターライト・エクスプレス」のクライマックスで流れる曲を使った。僕が両親と一緒にロンドンで見た思い出のミュージカルでもあり、このシーンでどうしても使いたかったのだ。どちらかというと平坦な曲ではあるものの、男性と女性が交互に歌い、最後にハーモニーで同時に歌うというスタイルが、このシーンによく合っていたと思う。
(司会) 『さて皆様方には、新婦のブーケにもご注目いただきたいと思います。じつは、新郎新婦お二人の手作りのブーケとなっております。今日の日のために、二人で、ひとつひとつ手作りされました』


 すべてのテーブルをまわり、新郎新婦席につく。
(司会) 『お二人がメインテーブルご到着でございます。どうぞ改めまして大きな祝福をお贈り下さい』
(♪BGM終了)
■札立てシークレット発表
(司会) 『さあ、本当に華やいだ雰囲気になってまいりました。さきほどビデオのほうで、皆様方の席札立てが、お二人の手作りであることをおわかり頂けたと思います。もう一度そちらの席札立てを、お手元にお寄せ頂いてよろしいでしょうか。ひとつずつお二人が、おもてなしの心をこめて、作らせて頂きました。さあ、こちらの席札立てには実は、シークレットがふたつ、ございます。よろしいでしょうか。イワトビペンギンという、頭に黄色い飾り羽根がついていて、目が赤く、足がピンク色のペンギンの方がいらっしゃるはずなんです。
 イワトビペンギンの席札立ての方、大きくお手を挙げて頂いてよろしいでしょうか』
 これは最初から仕組んであったことで、公正なくじ引きではなかった。つまり、招待客のうち、小さな子供さんが2名いらっしゃっていて、その二人にプレゼントをあげようという企画だったのだ。該当者は、あでりーの姪のCちゃん、それからペンギン仲間のYさんのご子息、R君の二人である。両親の助けを借りながら、二人が手を挙げた。僕はスタッフの方に手提げカゴを持ってきてもらい、その中にプレゼントを入れてステージに歩み出る。
(司会) 『かわいいお子様お二人ですか。それでは、見事イワトビペンギンをゲットされましたお二人には、新郎から素敵なプレゼントをお渡し頂きたいと思います。HARUNAさん、お願いします』
 ステージに出てきてくれた二人に、プレゼントを渡した。親御さんには、その場で開けてもらうように伝えた。この先、セレモニーなどのイベントが控えるなか、子供さんたちが退屈しないよう静かにおもちゃで遊んでもらうことも、プレゼントの目的の一つであった。


(司会) 『かわいいお子様お二人に、素敵なプレゼント、良かったですねー。HARUNAさん、ありがとうございました。お子様たち、良かったですね。おめでとうございます。もうさっそく開けてらっしゃいますけれど、しばらくこれでお時間が稼げるような気がします。ごゆっくりお楽しみください』
■誓いの儀式
(司会) 『さて、ここから先はセレモニーへと、運ばせて頂きたいと思います。

 お式のあいだ、皆様のお席に色紙が回っていたことと思います。この色紙には、たくさんの温かいお言葉と共に、皆様のご署名をいただきました。まだご署名、お済ませでない方はいらっしゃいませんか?』
 色紙には、全員の署名とメッセージが既に書かれてあった。そしてこれから、クライマックスの儀式がはじまる。
(司会) 『それではこれにて、皆様のご署名がそろったことになります。ただし本日は、さらにもうお一方、特別なゲストにお越しいただいております。その方の署名をもって、この色紙を完成させたいと思います。

 それでは皆様、特別ゲストの登場でございます。どうぞ入場口をご注目ください』
(♪BGM) Me and I/ABBA
 高らかにBGMが鳴り、全員の視線が入場口に集まる。誰が出てくるのか、わかっている人もわかっていない人もいる。
(司会) 『それでは、スペシャルゲスト、入場です!』
 ついに出てきた! 本物のケープペンギンが2羽、1羽は飼育員のTさんに抱かれて、もう1羽は床を歩いての登場である。姿が見えた途端、うわーっ、という大歓声があがる。かわいい、という声があちこちから聞こえる。床を歩いているほうのペンギンがなかなか思う方向に進んでくれず、Tさんも両足にはさむこむようにしながら、苦労して誘導している。なんとかメインスペースまでたどりつき、僕らもそれに合わせてテーブルの前に出ていく。


(♪BGM終了)
(司会) 『そうです皆様、結びとなるスペシャルゲストは、お二人の出会いのきっかけとなった、この方たちでした。ただ、お二方とも、署名はあまり得意ではありません。うまく署名ができるかどうか、皆様、あたたかく見守ってくださいますよう、お願いいたします。それではお二方、よろしくお願いいたします』
(♪BGM) The Old Friends Do/ABBA
 お客さんたちのざわめきが消えない。本物のペンギンが登場したことで一気に興奮が高まった様子だ。うわー、とか、きゃーとかいう声が上がっている。テーブルの上には既に、墨汁をひたしたスポンジと色紙がセットされている。Tさんは、床を歩いていたペンギンを残し、抱きかかえたペンギンと共にテーブルの前に立つ。僕とあでりーはTさんの左右に立ち、両側から色紙を手でおさえる。何が始まるのかと、興味津々な様子でこちらを凝視しているお客さんたちの気配が伝わってくる。

 Tさんがテーブルに置かれた墨汁スタンプにそっとペンギンをおろし、足の裏に墨汁をつける。会場から、「あー、足形かー!」という声がちらほら聞こえてくる。そのとおり、Tさんが今度はペンギンの足を色紙の上に持っていき、一気に下におろす。ペンギンは足をばたつかせながら、ぱたぱたぱた、と3つの足形を押し、すかさずTさんが上に持ち上げる。うまくいった! 色紙には、所定の場所に、きれいに3つの足形がついていた。リハーサルではどうしてもうまくいかなかったのに、本番では大成功だった。お客様から、歓声と笑い声が響く。

【墨汁スタンプに足をつけて…】


【色紙に乗せる】


【きれいな足形がつきました!】
(司会) 『みごと、署名が入りました。これで、お二人の結婚について、ここにいらっしゃる方すべてのご承認を得られたことになります。皆様どうぞもう一度、お二人の結婚を承認し、あたたかい拍手でお祝いください』
 僕とあでりーは、できあがった色紙を皆様にお見せし、全身にいっぱいの拍手を浴びた。ひととおり写真を撮ってもらったあと、僕はもう一度色紙を頭上に掲げ、「どうもありがとうございました!」と皆さんにお礼の言葉を向けた。胸が熱くなった。


(♪BGM終了)
(司会) 『皆様、ありがとうございます。そして本日のスペシャルゲストも、退場となります。またのちほど、記念撮影の際に皆様のもとへ来てくれることになっています。さあどうぞ、大きな拍手でお送り下さい』
 ペンギンたちは、なんだかきょとんとした感じで立ちすくんでいたが、やがてTさんに導かれ、元来たほうへよちよちと歩いていった。


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