〈タクシー裏物語〉を読んで

近藤 貞二

先回のおもちゃ箱では、「鉄道員は見た!」という、鉄道員が書いた鉄道の本を読んで勝手なことを書いたが、今回はタクシー乗務員、つまりタクシードライバーによるタクシーの裏物語です。副タイトルには、「現役ドライバーが明かすタクシーの謎」とあります。

タイトルを見れば内容の想像はできますが、私はこのタイトルを見つけたとき、つボイノリオ(新しいウインドウで開きます)「ワッパ人生」という、タクシードライバーの悲哀を歌った「パッパワッパ パッパワッパ…」というメロディーが頭の中を駆けめぐっていました。
 正にこの本はその歌と同じでした!!というのは逆なのでしょう。つボイノリオのワッパ人生がこの本の内容とまるで一緒で笑ってしまいました。

著者である「伊勢正義(いせ まさよし)」さんは、全く違う業界で働くサラリーマンから三十代後半に、タクシー業界に転職した現役のタクシードライバーです。
 話し好きでB型人間の伊勢さん、まさに現在はワッパ人生まっしぐらなのでしょう。
 「鉄道員は見た!」もそうですが、わたし、業界の人が書いたその業界のこの手の話が、まるで知らない世界をのぞき見しているようで好きなのです。

しかしこの本、「おいおい、そんなことまで書いていいのかよ!」と思えるくらい書いちゃってあります。
 例えば、私たちが知らなくてもいいような裏技的な操作やドライバー仲間の不正、我慢できずに運転中ビニール袋に出したおしっこを窓から車外へ捨てちゃった話など、とにかく興味深くおもしろい話が満載で楽しく読みました。
 しかしですよ、不正行為はもちろんいけませんが、窓からおしっこなんて捨てちゃってもやっぱりいけないでしょ伊勢さん!!いやしくも大手タクシー会社の看板を背負って、道路を職場としているプロのドライバーなのですからね。

最近の私のタクシーの利用は、ゴミ(短距離)ばかりでタクシードライバーからは喜ばれないお客ですが、それにも関わらず、にこやかにあれやこれやと話しかけてくださるドライバーもあります。
 それはそれでもちろんうれしいのですが、この本を読んでからは、そんなドライバーに出会うと思わず「タクシー裏物語を書かれた伊勢さんですか?」と聞きたくなってしまいます。

それにしても、タクシードライバーもいろいろですが、それを利用するお客もいろいろで、とんでもないお客や理不尽な要求をするお客もいるものなのですね!
 それはおそらくどんな世界でも同じで、ほとんどの人は問題ないのでしょうけれど、一部の人は、お酒のいたずらやパニックなどによる心の混乱状態で、そのようなとんでもない人間・理不尽人間に変貌するのかも知れませんね。
 人ごとではなく、私も心して気をつけたいものです。

そういえば先日、目的地へ向かうタクシーの中、タクシー代を準備しようとして顔が青ざめました!バッグの中を見る間もなく、財布を入れ忘れてきたことに気づいたからです。
 料金はいつものように数百円の距離。たぶん千円以内ですむはずです。
 どうしよう!!財布を取りに戻ってもらう時間もありません。数百円とはいえまさか踏み倒すわけにもいかず、久しぶりに焦りましたね。そして、瞬間的にいろいろな手段が頭の中をめぐりました。
 しかし幸運なことに、その後すぐに、たまたま千円札が1枚バッグのポケットに入れてあったことを思い出して一安心。それを確認すると、あとは料金が千円内で治まることを願うばかりです。
 けれど、そんなときに限って、踏切で電車の通過に2本も待たされ、赤信号でも引っかかってばかり!早く信号が青になってタクシーが動き出すことを願いながら、千円札を握ってドキドキな時間を過ごしました。
 結局料金はセーフ!!冷や汗もので心臓には悪かったのですが、どうにか千円内で収まり、犯罪者になることもなく、恥をかくこともなく済みました。

著書紹介

タイトル:〈タクシー裏物語〉(新しいウインドウで開きます)
副タイトル:現役ドライバーが明かすタクシーの謎
著者名:伊勢 正義 著
出版者:彩図社
音声デイジー 録音時間:5時間6分