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昨年(2019年)の6月頃にこのレポートの作成を開始してから、およそ10カ月、ようやく最後のページに終止符をうつことができた。最初は、第1章の概要程度で終わらせる予定だったが、調べるうちにだんだん欲が出ててきて、結局、本文だけでA4サイズで約170ページ、小資料集など付属資料を含めると210ページ、新書版にするとおよそ500ページものボリュームにふくれあがった。

慰安婦問題のレポートに取り組もうと思ったきっかけは、友人から「慰安婦問題って、いったいどうなってんの! どうしてこんなになっちゃったの?」と聞かれたことだった。そのときは、慰安婦問題に関する本を1~2冊ななめ読みしただけだったので、「日本も韓国もどっちもどっちなんじゃないの」と、答えるのがやっとだった。

もうちょっと調べてみるか、と思ったのはもうひとつ気になることがあったからだ。それは、南京事件で中間派を名乗っていた秦郁彦氏が、慰安婦問題では否定派の理論リーダとなっているのはなぜなのか、だった。
秦氏は「正論」1992年6月号によせた論稿の最後で、「日本統治時代に数万に上る朝鮮人慰安婦たちが、故郷を離れて辛酸をなめたのも厳然たる事実であってみれば、なんらかの形での「救済」を考慮する必要があろう」と述べている。そのわずか1年後、1993年8月の河野談話では強制連行を認めたかのような表現を強烈に批判している。結局、この疑問は今になってもわからないのだが、もともとは右寄り、というより左派がお嫌いで、心情的には元慰安婦たちへの同情はあっても国として責任を取る必要はない、と最初から考えていたのかもしれない。

秦氏は「慰安婦と戦場の性」の執筆にあたっては、自分の感情を抑え中立的な立場を貫いたので、終わった時はとても疲れた、と述べている。よく読むとところどころにホンネのようなものがチラッと見えるときもあるが、概して冷静に書いている。否定派と国家補償派の著書は、主張が前面に出過ぎていて、食傷気味になるものが多いが、「戦場の性」は安心して読むことができる。おそらく、慰安婦問題に関する著書では世界のトップに位置づけられる作品といってよいのではないだろうか。

この本の英語版を出版しようという計画が政府にあって、秦氏に依頼があったらしい。ご本人がその経緯を「慰安婦問題の決算」のあとがきで書いている。要約するとつぎのようになる。

2013年7月に内閣官房国際広報室長から依頼があり内諾したが、政府が翻訳した本は一般の市場に流通することなく、その国の図書館に保管されるだけになるので、米英の一流出版社から出すよう下交渉をしていた。そこへ、内閣広報室の担当官から連絡があり、第5章 諸外国に見る「戦場の性」をバッサリ削り、ほかにも「朝鮮人慰安婦には若く初心者が多い」という部分は削除して欲しい、などの要請があった。秦氏は、広報官が首相に忖度してこのような修正を依頼してきたのだろう、と推測している。この手の要請が限りなく出てきそうなので、この話は取りやめにした、とのこと。

とても残念だが、おかしな"改竄"をするくらいだったら出さない方がよほどましだろう。いつか原書そのままの内容の英語版が出版されることを願うばかりである。「事実」を大事にする櫻井よしこ氏も"THE FACTS"に1500万円もかけるのであれば、同じ金で秦氏の本を出した方が、よほど効果があると思うのだが、反対する政治家などが多いのかもしれない。

- 了 -