ハシリドコロ

4月から5月にかけて山裾の沢沿いを歩いていると不思議に目にとまる花がある。 ハシリドコロと呼ばれ、実は猛毒を持った植物である。
地上に出たばかりの若芽がギボウシやフキノトウ等の山菜に似て、これを間違えて食べると錯乱して走り回り、死に至ることもある事と根がトコロ(野老)に似ていることからハシリドコロ(走野老)と呼ばれたようである。( 「オニドコロと野老」 の項参照)

江戸時代の平賀源内の著 「物類品隲(ぶつるいひんしつ)」 にも記述があり、 「これを誤って食べると狂走して止らず、故にハシリドコロと云う」 とある。
アルカロイド系の毒成分を含み、きわめて危険な毒草であるが、この成分を利用して薬用にもなる。 鎮痛の為の胃腸薬や、瞳孔を開く作用がある事から目薬にも使われる。
この散瞳薬としての働きについては実に興味深い次のような史実がある。
眼科医として名声を博し徳川将軍の奥医師でもあった土生玄碩がシーボルトに散瞳薬として名のあった西洋薬であるベラドンナを分けてくれるよう頼んだところ、日本にも近似のオニドコロがあると教えられた。 お礼に葵の紋入りの紋服を贈ったが、これが後にシーボルト事件(シーボルトが日本の地図他門外不出品を持ち出そうとして調べられた事件)で発覚し捕らわれた。 オニドコロを使って眼の手術に成功したものの、不遇な晩年を過したとのことである。


猛毒でもあり、眼科用としての有用な薬草でもあったナス科ハシリドコロ属の植物であるが、なんとなく不思議な感じの花であり、シーボルト事件にも関連していたと考えると一層謎めいて見える。

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