オニドコロ

オニドコロの雌花

 「この山の かなしさ告げよ 野老堀り」・・・・芭蕉

エビを海老と書くように、トコロ(野老)はヒゲ根を野の老人に見立て 「野老」 と書き、根に塊ができる事から 「凝(とこり)」 がなまってトコロ(野老)になったとされる。
古来からヒゲ根を正月の床に飾って長寿を願う風習があり、 「野老飾る」 は季語にもなっている。
トコロにもオニドコロ、ヒメドコロ、カエデドコロ、キクハドコロ等いろいろ種類があるが、一番目に付くのが表題の写真のオニドコロである。 葉が大きいのでオニドコロと呼ばれるヤマノイモ科の植物で、ヤマノイモ共々、根が食料とされてきた。  ヤマノイモと同じようなハート形の葉を付け、蔓性(ツル性)で、葉だけ見ても一瞥では区別が付かないが、ヤマノイモの葉は対生しており、オニドコロは互生しているので、よく見れば区別が出来るし、花は全く異なる。 ヤマノイモ(自然薯)を掘る時は葉が枯れた後なので、葉が付いているうちに確認しておいて掘ったほうがよさそうである。( 「ヤマノイモと自然薯」 の項参照)
ヤマノイモはいわゆる自然薯(じねんじょ)で美味しい食物であるが、オニドコロは灰汁(あく)で煮て水にさらして調理しないと食べられない。 それどころか、この根を細かく砕いて渓流に流し、魚を麻痺させて捕らえる魚毒となる。
ただし、芭蕉の句にもあるように、良く掘られていたようで、昔は灰汁で煮て水にさらし調理して食べられていたと思われる。
トコロは古くから知られた植物で万葉集には 「ところずら」 の名で長歌一首、短歌一首が詠まれ次の歌がある。  「皇祖神(すめらき)の 神の宮人 ところずら いや常重(とこしえ)に われかえり見む」。
又、埼玉県所沢市の所沢の名の由来も在原業平が野老(ところ)が多く生えているのを見て 「この地は野老(ところ)の沢か?」 と言った事に由来するとされている。
雌雄異株で、表題の写真が雌花、下の写真が雄花で、秋になると実を付け、又、ヤマノイモのようなきれいなムカゴではないけれども、ムカゴらしきものもできる。

オニドコロの雄花      オニドコロの雄花        互生している葉

 オニドコロの果実       オニドコロの果実      オニドコロのムカゴ?

この仲間には葉が細いヒメドコロ、葉の形が楓(カエデ)に似たカエデドコロ、菊の葉をイメージしたキクハドコロがあり、いずれもよく似た蔓性植物であるが、少しずつ違い、例えばカエデドコロの花は橙色である。

カエデドコロ

オニドコロ、ヤマイモ、ヘクソカズラ、ガガイモ、クズ、ノブドウ、アオツヅラフジ、ヤブガラシ等等、夏から秋にかけて蔓性の植物がはびこり、入り乱れて繁茂し、夏から秋の風物詩となるが、オニドコロはその中では花も実もあまり目立たず、かっては有用な植物でも現代では何となく見過ごされてしまう花である。

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