4月23日に行われた衆参補選は自民4・維新1という結果に終わりました。日本社会が保守反動化に向かって留まることなく突き進んでいることを再確認させられた、というのが私の偽りのない実感です。特に、吉田忠智氏が元社民党党首であり、村山元首相を出した大分という「社会党の地盤」だった土地柄であるにもかかわらず、本来は「泡沫候補」とも言うべき自民党の新人候補に敗れたのは象徴的です。1000票に満たない僅差だったことは事実ですが、かつてだったならば大差で勝利しても「順当な結果」であったはずなのに、やはり敗れたという点にこそ、考えるべき問題があると思います。衆議院山口2区の事情も基本的に同じです。
 私はもともとこのコラムで今回の結果について書く気持ちはありませんでした。しかし、民主党の岡田幹事長の敗戦結果に対する発言(「僅差で残念」)、そして朝日新聞の見方(4月24日付けの「視点」の見出し:"「慢心」自民 想定外の苦戦")に接して、「一言なかるべからず」という気持ちにさせられました。両者に共通するのは、「日本社会が保守反動化に向かって留まることなく突き進んでいる」という本質に対する認識が欠落していることです。だからこそ得票数という量的な捉え方しかできないのです。ただし、これは民主党と朝日新聞だけの問題ではありません。私が思うに、国内的にはいわゆる「保革対決」が崩れた1980年代以後、そして、国際的には「米ソ冷戦」が終結した1990年代以後、「何でもあり」の「新自由主義」があらゆる価値(観)を突き崩して自己主張するに至った結果が今日の世界、そして日本社会を作り出していると思います(ただし、今回は世界の問題には深入りしません)。
 そうした日本社会が生み出した弊害は枚挙にいとまがないのですが、「日本社会が保守反動化に向かって留まることなく突き進んでいる」という本質に即して言えば、「日本の民主主義は絶望的にまで形骸化している」という問題と「国際的に井の中の蛙である(=正しい国際情勢認識が欠落している)」という問題が特に重要だと考えます。しかも、この二つの問題は互いに絡まっているのです。すなわち、「米ソ冷戦終結=アメリカの勝利=民主主義・資本主義の勝利」という受け止めが支配(実は等号関係が成り立つわけではない)する日本では、もはや「体制選択」の議論も、「民主主義は如何にあるべきか」という問も、「アメリカという国家をどう評価するか」という問もなされません。そういう根本論が欠落した日本の政党政治は「重箱の隅をつつく」次元の「論争」しかなくなってしまっています。
 「日本の民主主義は形骸化している」という問題のもっとも端的な表れは、日本では"民主主義とは多数決である"という見当違いも甚だしい理解が当たり前のように受け入れられていることに示されます。民主主義の本義は"議論を尽くす"ことにあります。しかし、動態としての政治において決断が要求される時があるため、多数決という制度が採用されるのです。しかし、多数意見が間違っていることは十分にあるわけで、その後も"議論を尽くす"ことでその誤りを正していくプロセスが当然に想定されています。"議論を尽くす"ことに民主主義の本義があり、"多数決"はあくまでも便宜的手段という位置づけであることが分かります。
 しかし、「日本の民主主義の形骸化」という問題はつとに指摘されている問題であり、今日に始まった問題ではありません。私が今特に深刻な問題として考えるのは、日本社会全体が誤った国際情勢認識に毒されて、日本の国際的立ち位置を完全に見失っていることです。特に深刻を極めるのは、「中国は最大の脅威」、「ロシアはウクライナを侵略した極悪人」と決めつける見方が圧倒的に支配していることです。中国とロシアを「クロ」と断定する結果、アメリカの対中政策、対ロシア政策は「シロ」扱いされています。物事の本質は、アメリカの台湾政策及びNATO東方拡大政策が中国及びロシアを身構えさせていることにあり、したがって私たちがまず問いただすべきはアメリカの政策でなければならないのに、この視点がまったく欠落しています。
 論より証拠。最近の2つの具体的事実関係を紹介し、それに対するしんぶん赤旗と中国メディアの論調を対比的に紹介することで、皆さんに考える材料を提供したいと思います。しんぶん赤旗の記事を取り上げるのは、主要政党の中では日本共産党の国際問題に対する関心が高いと判断するからです。また、私はかつて外務省で働いていた頃(もう30年以上も前になります)には、しんぶん赤旗の国際情勢分析(特に米帝国主義批判)から多くを学んだという記憶があります(そういう私からすると、以下に紹介する2つのケースについて、しんぶん赤旗がアメリカに対するまともな分析はおろか、まともな言及すら行っていないことには心底がっかりさせられます)。

<沖縄県議会意見書>

 3月30日に沖縄県議会は、衆議院議長、参議院議長、内閣総理大臣、外務大臣、防衛大臣、内閣官房長官、内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策)宛に、「沖縄を再び戦場にしないよう日本政府に対し対話と外交による平和構築の積極的な取組を求める意見書」を議決しました(4月24日及び25日に県議会要請団が上京し、意見書を提出)。大要は以下のとおりです。
 (昨年12月16日に)閣議決定された国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画の3つの文書には、反撃能力の保有、防衛体制強化のための南西地域の空港・港湾建設等の整備・強化及び第15旅団を師団に改編すること等、沖縄の軍事的負担を強化する内容が記述されている。また、沖縄本島のうるま市をはじめ宮古及び八重山地域へのミサイル配備、航空自衛隊那覇基地の地下化及び沖縄新弾薬庫建設等、本県の軍事要塞化も進んでいる。
 アジア太平洋地域の安全保障環境が厳しさを増していると言われる中、軍事力機能の増強による抑止力の強化がかえって地域の緊張を高め、不測の事態が生ずる危険性が増すことへの懸念は拭えない。また、反撃(敵基地攻撃)能力による攻撃は、相手国からのミサイル等による報復を招くことは必至で、「沖縄が再び「標的」とされる」との不安が県民の中に広がっている。
 当該3文書は、中国の対外的な姿勢や軍事動向等を国際社会の平和と安定への最大の戦略的な挑戦と位置づけており、南西諸島への軍事的機能の増強が進んでいる現状は、明らかに中国を意識したものである。
 一方、日本と中国はこれまで「日中共同声明」をはじめ、「日中友好平和条約」、「日中共同宣言」、「戦略的互恵関係の包括的推進に関する日中共同声明」及び「日中関係の改善に向けた話し合い」等に基づき、両国関係のさらなる深化と諸問題の解決を進め、平和共存の道を歩んできた。
 中国は今や日本にとって最大の経済パートナーで、お互いにとって必要不可欠な関係が既に構築されていることから、日中両国は、国民の命を脅かし、アジア太平洋地域において甚大な経済損失を生み出すことがないよう緊張緩和と信頼醸成を図り、平和構築への最大限の努力を払うべきである。
 よって、沖縄県議会は、日本政府に対し、対話と外交による平和構築への一層の取組により、決して沖縄を再び戦場にしないよう強く求め、下記事項について強く要請する。

1 アジア太平洋地域の緊張を強め、沖縄が再び戦場になることにつながる南西地域へのミサイル配備など軍事力による抑止ではなく、外交と対話による平和の構築に積極的に役割を果たすこと。
2 日中両国において確認された諸原則を遵守し、両国間の友好関係を発展させ、平和的に問題すること。

(4月25日付けしんぶん赤旗)

 4月25日付けのしんぶん赤旗は、「対話で日中平和構築を」というタイトルのもとで、沖縄県議会要請団が24日に防衛省を訪れて木村防衛政務官に意見書を提出したことを報道していますが、意見書にかかわる内容は以下のとおりです。
 意見書は県議会が3月30日に日本共産党などの賛成多数で採択したもので、安保3文書に盛り込まれた敵基地攻撃能力保有について、「相手国の報復を招くのは必至で、沖縄が再び標的とされるとの不安が県民に広がっている」と強調。①抑止でなく、外交による平和構築に取り組む②日中両国で確認された諸原則を遵守し、友好関係を発展させる-ことを要請しています。
 ちなみに、同紙は同日付で参議院決算委員会における吉良よし子議員の「自衛隊施設の強靱化」に関する発言(「自衛隊施設さえ守れば何とかなるかのような、国民置き去りの『防衛力強化』で国民も平和も守れるとは思えない」)も紹介しています。「自衛隊施設の強靱化」は、「台湾有事」の際に中国攻撃の主力となる在日米空軍に対して中国が反撃をすることに備えるものであることはCSIS報告(1月12日のコラム参照)からも明々白々です。ところがしんぶん赤旗はその点を取り上げず、「一般人を犠牲にして自衛隊だけを守ろうとする」という批判に終始しているというのが私の強い印象です。吉良よし子議員の発言はその一例です。要するに、アメリカ批判が欠落しているのです。これは、中国批判、ロシア批判に埋没してしまっていることによるものだと考えざるを得ません。

(4月27日付け環球時報社説)

 4月27日付けの環球時報(ネット掲載は26日23時29分)は、「我々も共有する沖縄人民の不安と心痛」(原題:"冲绳人民的不安与心痛,我们感同身受")と題する社説で、次のように述べています。私は、かつてのしんぶん赤旗であれば、こうした主張を展開していただろうと思います。
 意見書は沖縄の人々の集体としての胸の内を反映しているのみならず、彼らの平和と正義を求める姿勢をも代表している。ところが本土の利益のためには沖縄の犠牲を厭わないこれまでの歴史同様、東京では冷遇され、無視されている。しかし、中国人の我々は沖縄の人々のアピールを深く理解し、断固支持している。世界の平和を愛するすべての人々も沖縄の人々と同じ立場に立っている。
 県議会は3月30日にこの意見書を決議したが、東京で関係方面に提出するまでに1ヶ月近くの時間が経っており、しかも、沖縄のメディアが報道したほかは、日本の主流メディアには無視され、提出後も防衛省から簡単な反応があっただけだ。意見書は東京という大海に沈んでしまい、日本政府とアメリカが沖縄の民意にしたがって軍事外交的に見直すこともあり得ないだろう。
 しかし、沖縄の行動は重要な意義があり、米日がことさらに無視することによって埋没してしまうことはあり得ない。意見書は世人に対して今日の東アジア特に台湾海峡で起こっている真相を明らかにし、米日が「地域の平和と安定」を口実にすることを許さないだろう。なぜならば、この地域の平和と安定に対する最大の脅威は米日自身だからだ。歴史の法廷において、この意見書は平和の破壊者に対するもっとも有力な控訴であり、反駁の余地のない法廷証拠である。
 琉球列島が1879年に日本に併合され、沖縄と改名された後、その運命は人々の心を打たずにはおかない悲しみの曲だった。沖縄は第二次大戦に巻き込まれ、当時の日本政府によって捨て子とされ、砲火による灰となった。1945年の沖縄戦では人口の1/4にも達する人々が亡くなり、沖縄は太平洋地域でもっとも血なまぐさい、凄惨な戦場となった。
 世々代々の沖縄の人々は、米軍によって引き起こされる事故、騒音、環境汚染さらには犯罪に抗議し、基地移転を強く要求し続けてきたが、東京及び米軍によって一貫して無視されてきた。現在、沖縄の人々がさらに耐えられなくなっているのは、日米が沖縄における軍事配備を強化し、沖縄を要塞化、前線化しようとしていることだ。沖縄の人々の不安と怒りを東京は本当に分かっているのだろうか。
 今回の意見書は東京に対して2つの要求を提起している。第一、外交と対話で平和を構築するべきであり、ミサイル配備など南西諸島の軍事力強化によって日本の「抑止力」を実現するべきではない。第二、日中間の政治文献で確認された諸原則を遵守して両国友好関係を発展させ、平和的に問題を解決するべきである。この2点は情に叶い理にかなっており、大義も明らかであって、東京は拒む理由を探し出すことはできず、したがって身を隠すことしかできない。
 かつて戦争に蹂躙され、長期にわたって戦争の影に脅かされてきた沖縄の人々は平和の尊さを身にしみて感じており、「子々孫々を絶対に戦争に巻き込ませない」決心が沖縄の人々の平和のために闘う最大の動力となっている。琉球王国は歴史上「万国の橋梁」という誉れを享有した。今日、「平和の列島」を目指す沖縄の人々のたゆまぬ努力は全世界の尊重と声援に値している。沖縄は近年、ツーリズムを大いに発展させ、観光資源は競争力を持っている。しかるに、風光明媚な沖縄は武装兵士と攻撃型ミサイルによってけがされている。沖縄の人々の心痛を我々は肌で受け止めている。

<国連安保理会合>

(ラブロフ外相発言)

 4月24日、4月の安保理議長国・ロシアのラブロフ外相が主催する「国際の平和と安全の維持:国連憲章諸原則防衛による実効的多国間主義」をテーマとする安保理会合が開催されました。冒頭発言を行ったラブロフは、①アメリカ以下の西側諸国(コレクティヴ・ウェスト)が国際法及び国連憲章に代わる「ルールに基づく秩序」なるものを掲げて国際社会を支配してきたことを非難し、②コレクティヴ・ウェストの攻勢のもとでロシアが置かれてきた状況に関するロシア側の立場を述べました。
 私は、「ルールに基づく秩序」なるものの本質に関するラブロフの指摘は正鵠を射ていると判断します。また、日本を含めた西側世論はロシアのウクライナ侵攻が国連憲章に違反していることを糾弾することに集中し、ロシアがウクライナ侵攻を余儀なくされるに至った経緯を無視しますが、私がこのコラムで繰り返し指摘してきたように、ロシアをウクライナ侵攻にまで追いやったのはアメリカ以下のコレクティヴ・ウェストによる「ウクライナ(=ロシアの心臓部)まで呑み込もうとするNATOの東方拡大」の必然的所産です。ラブロフの発言はそのことを改めて国際社会に訴える意味が込められていると思います。

-「ルールに基づく秩序」-

 これらのルールを見たものはいない。透明な国際交渉で議論されたこともない。多国間主義を体現するセンターを形成する自然のプロセスに対抗するために編み出されたものだ。多国間主義を阻止するための一方的な措置が講じられている。先進的テクノロジー及び金融サービスに対するアクセス阻止、サプライ・チェーンからの排除、資産凍結、基本的インフラの破壊等。これらの結果、世界貿易は細分化され、市場メカニズムは崩壊し、WTOは麻痺し、IMFはアメリカ及び同盟諸国の目標達成のための道具と化している。
 アメリカの言うままにならないものを罰するため、アメリカは自らが作り出したグローバリゼーションをも壊しにかかっている。ワシントンは、国際法に従って政策を行い、西側の利己的な利益に従うことを拒否する国々に対して、これらのルールを使って自らの不法な手段を正当化している。また、多国間主義を損なう自らの行動をイデオロギー的に正当化するべく、「民主主義対権威主義」という考え方を編み出した。彼らの手法は、まず身内で合意した何ものかを、次の段階では「国際社会の立場」として提起するというものだ。西側マイノリティが全人類を代表するなどと認めたものはない。
 ルールに基づく秩序を押しつける彼らは、国家の主権的平等という国連憲章の中心原則を傲慢にも拒否する。EU対外代表のボレルは、欧州は「花園」で残りの世界は「ジャングル」だ、という趣旨の発言をした。1月10日のEU・NATO協力共同宣言は次のとおり述べる。我々西側は、「政治的、経済的、軍事的手段を動員して我が10億市民の利益となるよう、共通の目標を追求する。」最近、アメリカはモンロー・ドクトリンの復活を唱え、ラ米諸国がロシア及び中国との結びつきを断つことを要求した。しかし、多国間主義にコミットしているこの地域の国々はこれに抵抗している。アメリカ及び同盟諸国は、アジア太平洋地域におけるASEAN中心のオープンな経済的安全保障的協力システムを壊そうと力を注いでいる。NATO諸国は、昨年のマドリッド・サミットで欧州・大西洋といわゆるインド・太平洋の安全保障の不可分性に言及した。このインド・太平洋戦略は中国を包囲し、ロシアを孤立させようとするものであることを隠そうとするものはいない。

-「NATOの東方拡大」-

 ワルシャワ条約機構が解散し、ロシアが政治的に消滅した後、真の多国間主義が到来するという期待が高まった。しかし、西側は平等に基礎を置くOSCEの可能性に見向きもせず、NATOを温存し、ロシアにとっての死活的利益である国々を含め、隣接地帯を支配する政策を追求した。当時のベーカー長官がブッシュ大統領に述べたように、OSCEはNATOの主要な脅威なのだ。付け加えるとするならば、国連及び国連憲章は、ワシントンの世界的野心に対する脅威となっている。
 ロシアは、1990年及び2010年のOSCEサミット文書で宣言されている安全保障不可分原則に基づいて、互恵的な多国間協定を実現するべく努力した。しかし、NATOはその義務には目もくれず、まったく逆のことをしてきた。アメリカは国連憲章に違反して旧ソ連邦諸国の内政に「カラー革命」で干渉した。ジョージア、キルギスタンに続き、2014年2月にはキエフでクーデターが行われた。2020年にベラルーシで起こったのも同様の試みだった。西側の頂点にいるアングロ・サクソンは自らの無法な冒険主義については「民主主義促進」政策として正当化し、住民投票も行われなかったコソヴォの独立を承認したが、住民投票が行われたクリミアの独立は拒否した。滑稽なのは、フォークランドでは住民投票が行われたので問題ない、というのがイギリス外相の説明である。
 ダブル・スタンダードを避けるべく、我々は、1970年国連国際法諸原則宣言の一部として達成されたコンセンサス合意に従うことを提唱している。そこでは、「人民の平等な権利及び自決の原則に従って行われ、当該領土に属する全人民を代表する政府を所有する」国家の主権及び領土保全を尊重すべしと宣言している。ウクライナ政府が2014年2月のクーデターの結果を受け入れることを拒否した地域の住民を代表する政府とは考えられないことは、公平な観察者には明らかである。ドイツとフランスもドンバスの特別な地位を約束した。
 クーデターの結果、ウクライナ東部で起こった戦争を止めるための国際的な努力があった。平和的解決に向けた努力は、国連安保理において全会一致で採択された決議に体現されている。キエフと西側諸国はこれらの合意を足蹴にした。彼らは、この合意を実行する意図はなく、ウクライナがロシアに対抗する力をつけるまでの時間稼ぎだったとすらうそぶいた。彼らはそのことを公にすることで、安保理決議にはすべての加盟国が従う義務があるとする国連憲章上のコミットメントにも公然と違反したのだ。
 2021年12月の多国間相互安全保障に関する提案を含め、我々は対決を防止するために努力したが、NATOは、ウクライナを「受け入れる」ことを誰も防ぐことはできないと拒否した。クーデター後は、ロシア語、教育、メディアなどの分野でロシアの文化的・宗教的伝統が法律によって破壊されたが、これはウクライナ憲法及びエスニック・マイノリティの権利に関する条約に違反するものである。また、キエフ政権はナチの理論や慣行を日常生活に持ち込んだが、西側は黙って見過ごしてきた。

(4月26日付けしんぶん赤旗)

 私は、4月24日の国連安保理におけるラブロフ発言を読んだ後に、4月26日付けのしんぶん赤旗に掲載された、この安保理会合に関する報道を読んで、私の理解とあまりにも隔絶していることに絶句する思いでした。この報道記事の見出しは、「ロシアは憲章違反」でした。導入部分は、「国連安全保障理事会は24日、「国連憲章の擁護」に関する公開会合を開きました。4月の議長国ロシアが自らを国連憲章の擁護者であるように見せかけるために主宰しましたが、同国が国連憲章に違反しウクライナに軍事侵略したことに対し、非難が続出。国連の信頼を傷つけたロシアの姿が改めて浮き彫りとなりました。」とあります。ラブロフの発言内容についての紹介は、「ウクライナの問題は、米国の侵略的な覇権主義とのバランスによって形成された。地政学的な問題と切り離せない」と表明。軍事侵攻は「ロシアの安全への脅威を除くためだ」と正当化しました」というだけ。「安保理で非難が続出」という副見出しのもとで、シンガポール、エクアドル、スイス、マルタ、カナダ、オーストラリア、アメリカの批判・非難を紹介しています。

(4月26日付け環球時報)

 4月26日付けの環球時報は、「多国間主義の真偽について激論した国連安保理」(原題:"联合国安理会激辩真伪多边主义")というタイトルでこの会合の内容を詳しく報道しました。「腑に落ちる」内容です。
 4月24日、国連安保理は「国連憲章防衛を通じた多国間主義擁護」に関する公開討論会を行った。ロシアは4月の主催国であり、この討論会を組織した。ラブロフ外相はいわゆる「ルールに基づく国際秩序」を国際法に代位させようとするアメリカ及び西側を痛烈に批判し、「西側が全人類を代表して発言する権利を誰も与えていない」とした。アメリカ代表は、ロシア・ウクライナ戦争を挙げてロシアがこの討論会を組織するのは欺瞞だと非難した。中国の張軍大使は「真の多国間主義」を実践することを呼びかけ、「排他的なグループ化、いわゆる「民主主義対権威主義」というでっち上げ、地縁政治的対決を行ってはならない」と強調した。環球時報のインタビュー取材に対して、多くの中国人学者は、今回の討論会は真の多国間主義と西側の排他的グループ化の偽多国間主義の激しい衝突であり、国際的に、特に西側の一方的制裁に苦しめられている途上諸国においては突っ込んだ考察を呼ぶものとなるだろう、と表明した。

-ロシアによる西側「ルールに基づく秩序」批判-

 ラブロフ外相は、国連を中心とするシステムが深刻な危機にあるが、その根本原因は西側が「ルールに基づく秩序」によって国際法に置き換えようとしていることにあると述べた。彼によれば、世界は「多国間主義に対する信頼を失い、西側の金融及び経済侵略はグローバル化の成果を打ち壊し、アメリカ及びその同盟国は外交を放棄し、戦場ですべてを決めようとし、こうしたことが局面を悪化させている。」「冷戦時代のように、我々は再び危険な、いやもっと危険な状況に立ち至っている。」
 ラブロフは次のように述べた。「(西側は)国連のような普遍性を備えた組織の中で問題を議論することが不都合と早くから見なし」、「まずは身内で問題について協議を達成し、その後にそれを国際社会共通の立場として押し出すのだ。」西側は、「軍事力、禁輸、金融制裁、財産没収、基礎インフラ破壊さらには普遍的に認められた規範及び手続きの操作」等の方法で自らの「ルール」を押しつける。」しかし、「少数の西側国家が全人類を代表することなど誰も許さない。西側諸国は、国際社会のすべてのメンバーを尊重するべきである。」
 討論では、米西側諸国代表は徒党を組んで、意図的にロシアの「孤立」を際立たせようとした。しかし、会議場では、アラブ首長国連邦、ガボン、ガーナなど多くの国の代表が列を作ってラブロフを歓迎した。また、米西側は一再ならずこの討論会を阻止しようとしたが、多くの国の代表と記者を引きつけた。当日は、安保理メンバーでない多くの国の代表が会議に参加し、各国記者もやってきて幾重にも列をなした。
 西側メディアは、討論会における途上国代表の発言を一切報道しなかった。しかし、国連(WS)の会議実録によれば、イラン、ヴェネズエラなど多くの国の代表が国際法に違反する制裁措置に反対し、制裁は「国際協力、平和及び安全に対する深刻な脅威」であると指摘した。ベラルーシ代表は、「他国に対する制裁実施は新植民地主義の表れである。制裁はもはやアメリカ及びその属国が自主的な国々に対して圧力を行使するための日常手段になっている」と述べた。キューバ代表は、公正、公平な国際秩序を実現し、各国の主権平等を尊重するべきであると述べるとともに、アメリカ及び西側によるいわゆる「テロ支援国家リスト」等の一方的制裁を即刻廃止するように呼びかけた。

-真の多国間主義-

 今回の討論の中で、中国の張軍代表は「真の多国間主義」を実践するように各国に呼びかけた。張軍は、個別の国が自らの意志をいわゆる「ルールに基づく国際秩序」と装って国際社会に押しつけることに対する中国の反対を表明した。また張軍は、アメリカなどが安保理の授権もない一方的制裁を乱発することは法律的根拠がなく、国際関係の和諧安定を大きく破壊するものだと指摘した。
 西側代表は、ロシアのウクライナ侵攻を理由に多国間主義に関する討論会を組織する資格はないと非難した。しかし、多くのネット・ユーザー及び国際メディアは、アメリカこそが世界最大の「侵略者」であると指摘した。アメリカ・ブラウン大学で発行された研究報告によれば、21世紀に入ってから、アメリカは「対テロ」を名目に85ヵ国で軍事行動を行い、その結果、少なくとも92.9万人の民間人が死亡し、3800万人が難民となったと指摘している。2024年の大統領選に名乗りを上げているケネディ元大統領の甥であるロバート・ケネディ・ジュニアは先日、自分がホワイトハウス入りした暁には海外における軍事干渉を終結すると述べた。彼は、「アメリカは、国外で帝国でありながら、国内で民主国家を自称することはできない」と述べた。