戦争がロシアに有利に展開し、米西側の対ウクライナ支援の前途も楽観が許されなくなっていることを背景に、米西側でも戦争の早期終結を訴える主張が現れるようになりました。…
         私が注目したのは、2月16日にアメリカのクインジー研究所(Quincy Institute for Responsible Statecraft。以下「QIRS」)が発表した、ウクライナ問題の外交的解決を目指す意欲的な政策提言(以下「提言」)です。… またロシアでも、2月26日付のロシア・トゥデイ(RT)は、フョドル・ルキャノフ署名文章「ロシアのウクライナ紛争の終わらせ方」(原題:"How does the Russia-Ukraine conflict end?"以下「判断」)を掲載しました。… 私が注目したのは、提言と分析・提言とが多くの問題意識を共有していることです。両者を比較対照することで、ウクライナ問題の政治解決の可能性について具体的な視点・示唆が得られる…

2月26日にウクライナ支援国首脳会議を主催したフランスのマクロン大統領は会議後、ウクライナに、「縦深攻撃遂行」を可能にする「中長距離ミサイル」を提供するための新たな多国籍軍についての構想を発表するとともに、将来的にはウクライナを支援するための地上軍派遣の可能性も排除しないと発言(ロシア・トゥデイ(RT)は「公式には地上軍を派遣するというコンセンサスは存在しない」、しかし、「動態学的にはいかなることも排除することはできない」とマクロの発言を引用)、フランスとしては「ロシアがこの戦争で勝てないことを確保するために必要な… 

2月9日付のフォリン・アフェアズ(FA)WSは、トビー・マティーセン(Toby Matthiesen)署名文章「中東を再統一させたガザ-新・汎イスラム戦線:アメリカ最大の挑戦(?)-」(原題:"How Gaza Reunited the Middle East -A New Pan-Islamic Front May Be America's Biggest Challenge-")を掲載しました。…
全編を読み通すことを億劫に感じる方は、まず、最後の「(イランが勝利する可能性のあるゲーム)-A GAME IRAN CAN WIN-」から読むことをお勧めします。これだけ堂々とイラン(抵抗枢軸)のパレスチナ政策の対米勝利を予告する論者は他にないでしょう。しかも、ティラーセンの予告は「当たるも八卦」の類いの「予言」ではなく、緻密な分析・観察に裏付けられた科学的診断なのです。彼の予告に衝撃を受けないものはいないと思いますし、衝撃を受ければ、全編を…

2月2日、バイデン政権は、3人の米兵が殺害されたことに対する報復として、イラク及びシリア領内の85カ所に対する大規模な空爆に踏み切りました。同日、米欧諸国(12カ国+EU)の800人以上の現役官僚(約80名がアメリカ人官僚で、国務省官僚が最多)が署名する、イスラエルのガザ地区に対する軍事行動を支持するバイデン政権に対する反対の意思表示声明が発表されました。この声明は、「イスラエルのガザにおける行動を一方的に支持し、パレスチナ人の人道問題を無視することは道義的失敗であると同時に政策的失敗である」と指摘し、「我々の政府の政策は国際人道法に深刻に違反し、民族浄化・絶滅をもたらす可能性すらある」と批判しています。800人以上という多数の現役官僚が…

ハマスの攻撃を奇貨としたイスラエル・ネタニヤフ政権が開始したハマス撲滅を呼号する無差別作戦は、多大な人命喪失(最近のハマス側発表では25000人以上)とガザ地区の多くの瓦礫化、そしてガザ地区住民(230万人)の大半が難民化するという大惨事を生み出しています。ネタニヤフ政権のハマス撲滅作戦を全面的に支持(武器供与を含む)するアメリカ・バイデン政権は、国際世論の非難に直面して、ピンポイント作戦に切り替えることをネタニヤフ首相に要求すると共に、エジプト、カタールなどを… 

昨年(2023年)12月6日付の人民日報海外版が、私の敬愛する陳映真に関する文章を掲載しました。陳映真夫人・陳麗娜が中国現代文学館に寄贈した彼の資料の贈呈式兼陳映真研究計画始動式が行われたことを紹介するものです。主催は中国作家協会、中国作家協会港澳台弁公室と中国現代文学館が担当して行われたこの会合には、中国と台湾の学者30人余が出席し、彼を追憶し、記念するとともに、彼の文学精神の研究、伝承に関して研究討論を行ったことが紹介されています。陳麗娜夫人が述べた(と紹介されている)発言は、今回の催しの意義を… 

既刊書『日本政治の病理』(三一書房)のご案内

2020年8月15日に三一書房から『日本政治の病理-丸山眞男の「執拗低音」と「開国」に読むー』を出版して早くも3年半余になります。
 私が丸山眞男の日本政治思想史研究の成果の中でもっとも共感を覚えたのが「執拗低音」と「開国」に関する論述でした。私自身が実務体験の中で日本政治の病理に関して培った問題意識はこの二つのキーワードに集中されているからです。
 日本の政治思想は「普遍の意識」を欠いており、それ故に「個」の確立が難しく、集団に埋没する傾向を脱し得ない。そこに日本政治の病理の根幹がある。この病理を剔抉するためには「開国」(今日的条件のもとでは、多民族国家への生まれ変わりという荒療治)が不可欠である。
 以上がこの本の中心的メッセージです。
 残念ながら、出版社による価格設定が根本的に間違っていた(¥2500+税)こともあり、買い求めて読んでくださる方はほとんどないまま今日に至っています。しかし、内容的には自信作であり、かつ、時間の経緯によって色あせるという性格の本でもありません。
 今回、次男がトップページを元に戻してくれた機会に、この本を改めて紹介させていただこうと思い立った次第です。以下の章立てです。日本政治に問題意識をお持ちの方は是非この本を手に取っていただきたいと、厚かましく自薦する次第です。

一 個人的体験
(一)「執拗低音」との出会い
(二)外務省勤務時代の体験
(三)大学教員時代の体験
(四)外務省の「親米」体質
(五)歴史教科書検定と中曽根靖国公式参拝
二 執拗低音
(一)丸山眞男の問題意識
(二)石田雄の批判
三 開国
(一)丸山眞男の日本政治思想史の骨格
(二)「開国」の諸相
四 「普遍」と「個」
(一)「普遍」
(二)「個(尊厳)」
五 日本の「開国」への道のり
(一)精神的「開国」
(二)物理的「開国」
(三)強制的「開国」
六 21世紀国際社会と日本
(一)21世紀国際社会について正確な認識を持つ
(二)国際観を正す
(三)「脅威」認識を正す
(四)国家観を正す
(五)国際機関に関する見方を正す