<ロシア・メディア報道>

3月9日のコラムで、ノルドストリーム事件に関する米独メディアの報道ぶりを紹介しました。3月3日の米独首脳会談を受けた米独メディアの「時宜を得た」(?) 報道は、少しでも常識が働くものであれば誰しもが首をかしげる類いのものです。ましてや、「5人の男性と1人の女性から成るグループ(船長、2人の潜水員、2人の潜水補助員、1人の医師)」が犯行を行った可能性を匂わす内容(ドイツの検察筋)に関しては、高度の専門性を要する今回の爆破事件の性格との比較において、「眉唾もの」であることをはしなくも自ら認めるような内容であることが広く指摘されました。
 3月22日にブログを更新したハーシュは、ふたたび、ロシア・トゥデイは「外交情報にアクセスできる情報源」(an anonymous source with access to diplomatic intelligence)あるいは「アメリカ情報社会の中の情報源」(a source within the American intelligence community)と紹介し、スプートニク通信は「外交情報にアクセスがある誰か」(someone with access to diplomatic intelligence)と紹介した人物から得た情報として、「情報社会の用語で表現すると、CIAが、バイデンがパイプラインの破壊を命じたという貴方(ハーシュ)の主張を無視する(discount)努力として"システムを作動させる"(to pulse the system)ようにした」、「これは、(米独首脳会談を受けて)CIAがドイツ側と一緒に行った、貴方(ハーシュ)のストーリーの信用性を失わせるためのウソ八百(a total fabrication)だった」と紹介しました(3月2日付けのロシア・トゥデイ及び翌日付のスプートニク通信)。

<中国メディア報道>

 中国中央テレビは3月21日付けで、また、環球時報は3月22日付けで、ハーシュに対して行った単独インタビューの内容を紹介しています。22日のハーシュによるブログ発言の前の段階ですが、この発言につながる情報、アメリカ政治に対する見方を含めて興味深い内容が盛り込まれていますので、以下のとおり紹介します。

(中国中央テレビ)

私はパイプラインを建造した会社との交流がある。今や19000キロにも達するパイプラインが天然ガスと石油の輸送に使われている。多くの会社が敷設工事にかかわっているし、その業務についても理解している。彼らはみんな誰がやったかを知っている。ほかに誰ができるというのだろうか。ホワイトハウスは今回のウソ八百で視線をそらすことを期待しているだろうが、誰も信じはしない。
 私の親友であるセオドア・ポストル(Theodore Postol)は海軍作戦部長の顧問、ペンタゴン海軍作戦部長の高級顧問を勤めたこともある技術方面の専門家だ。私は今回の爆破事件の情報に接した際、彼にすぐ意見を聞いた。1日かけた。彼は非常に真面目な人間であり、私の出した話題に興味を示した。彼は様々な可能性を提起して説明したが、実行可能な方法の一つは実際に行われたものだとした。米独メディアが報じたような、4,5人によるものとする話は極めて馬鹿げている。テーブルに爆薬の痕跡があったという。それはTNT火薬を指すのだろうが、それが水面下で3,4ヶ月も持つかのように言っている。しかし、使われたのはC4プラスチック爆薬だ。NYTはヨット上で爆発を画策したと報道したが、(このような幼稚なストーリーは)プロのレベルにまったく達していない。
 また、私のストーリーについて情報源を隠していることに対する批判がある。私はNYTで7,8年仕事をしていた間に800本ぐらいの報道記事を書いたが、情報源を明示したのは5,6本であり、匿名ソースとすることがアメリカ政府内部から情報を取得する唯一の方法だ。
 (3月15日のブログで、ホワイトハウスがソ連あるいはロシアのエネルギーに対して早くから敵意を持ってきたと書いたことについて)1960年代のケネディ政権当時から、アメリカ政府は天然ガスを「武器化」するという考え方を持っていた。1980年代のレーガン政権当時、アメリカ政府はソ連が欧州に通じるパイプラインを建設することを阻止しようとした。その後数十年、歴代政権は禁止令や制裁手段を通じて妨害を行ってきた。バイデンが副大統領だった2014年にも、ロシアに対してアメリカのルールに従うように警告したことがあり、これが8年後の今回の事件の種を蒔いた。バイデンは大統領就任後、欧州同盟諸国の利益を無視して爆破を批准したのだが、自分たちが行ったということは永遠に承認しないだろう。アメリカはロシアが反感を覚えることを数多くしてきており、そのあげく、現在のような恐るべき混乱に陥っているというわけだ。
 NYT等の米メディアがハーシュのストーリーを報道することを拒否する原因の一つは党派政治だ。彼らの現在の報道姿勢の唯一の原因は極右の共和党候補が大統領に当選することを恐れているということであり、そのために、バイデン政権の狂気じみた行動を盲目的に支持し、見て見ぬふりをするということになっている。

(環球時報)

 私は過去1ヶ月半の間に、パイプラインとウクライナ危機に関して5つの文章を書いてきた。今後も続けていくが、そうするのは現在のアメリカの政策を非常に憂慮しているためだ。ロシア・ウクライナ問題だけではなく、対中国政策もある。
 私が確実に言えるのは、パイプライン爆破はバイデンが命じてやらせたということだ。歴史的にアメリカと密接な協力関係にあるノルウェー(アメリカの対ヴェトナム戦争開始の発端となったトンキン湾事件以来の協力関係)もこの計画に参与している。しかし、この任務を執行した人々の中にはやったことに複雑な気持ちを持っているものもいる。ドイツなど西欧の生活を壊してしまうということは、政治的に好ましいアイデアではない。
 私に内情を話した人間は、真相が水面に浮かび上がるべきだと信じているからそうしたのだ。彼らが忠誠を誓うのはアメリカ憲法であって、「親方」ではない。ブリンケン、サリヴァン、ヌーランドは徹底した反共主義者であり、私は彼らに批判的だ。
 私がヴェトナム戦争に関する調査報道をやっていた当時は、上下院の民主党議員は全員が戦争に反対していた。戦慄すら覚えるのは、現在の上下院の民主党議員全員がウクライナを支持し、一握りの共和党議員が今回の衝突に反対しているだけだということだ。アメリカは狂った状況にあり、真相は何かを調査しようとするものもいない。今回のロシアとウクライナの衝突に関していえば、ウクライナとバイデン政権に良い結末はないだろう。アメリカの人々は全体状況を知らされていない。この衝突に良い結末はないだろう。
 プーチンに対する見方はどうあれ、私は軍事衝突に反対だ。1990年に東西ドイツが統合したとき、アメリカは、NATOが東方に1インチたりとも拡大しないことについてソ連と約束した。しかし、現在、NATOは14ヵ国に拡大している。私は、ロシアがこれを脅威だと感じることが理解できる。私は、ロシアがウクライナに対する軍事行動を起こさないことを願ったが、ロシアは絶対にこの衝突に負けることはあり得ないと言わなければならない。
 今後の紛争の拡大については、NATOを名目にした介入はあり得るが、アメリカ政府がロシアとの直接衝突を考えているとは思わない。もっとも、何が起こるかは誰にも分からず、戦状は予測が難しい。しかしウクライナに関して言えば、良い結末はないことが分かる。
 ロシアとしては、ドンバスに対する何らかの形での支配を維持できれば、和平交渉を通じて問題を解決することを願っていると思う。ドンバスには多くのロシア人がおり、プーチンはすでにこの地域を軍事的に支配している。しかしこれを認めることはバイデンにとって政治的失敗を意味し、大統領再選は至難となる。
 爆破事件を国連中心で調査するなどの提案に関して言えば、アメリカはほかの安保理常任理事国と比べて、国連の権威を損なうことをもっとも多くしてきた。数週間前に会合が開かれたが、安保理でこの事件について議論することをもっとも強く反対したのは誰だったか。どうして私のストーリーがアメリカ国内ではほとんど報道されないのか。それは、アメリカが本件を調査することには肯んじられないからだ。