<米独メディアの報道>

3月7日、ニューヨーク・タイムズ紙はアメリカ政府筋の情報として、ノルドストリーム爆破事件が「親ウクライナ勢力」によって起こされた可能性があると報道しました。同じ日、ドイツの国営放送ARD・SWRとツァイト紙は、爆破に使われたヨットとして、ドイツの調査当局が2人のウクライナ人が所有し、ポーランドの会社に所属するヨットを特定したと報道しました。
 この報道に関してCNN・WSとロイター通信は8日、ドイツのピストリウス国防相は、「ウクライナのグループがウクライナ政府の命令の下で行ったのか、ウクライナ政府の関与のない下で行ったのかを明らかにする必要があり、今後の事態の展開を見守る必要がある」と答えたと報じました。ただし彼はその前にドイツのメディアに対して、ウクライナに責任をかぶせようとする報道の可能性もあるから軽々に結論を下すべきではないとも述べました(8日付け環球時報ニューメディア)。また、ドイツの検察筋は同日、1月に爆破事件と関係がある爆発物を運んだ可能性のある船舶を捜索したこと、船内のテーブル上に爆薬の痕跡を発見したこと、5人の男性と1人の女性から成るグループ(船長、2人の潜水員、2人の潜水補助員、1人の医師)だったこと、パスポートは偽造の疑いがあり彼らの身分は明らかでないことなどを明らかにしました(中国中央テレビ・クライアント端末)。
 この報道を行ったNYT記事の中では、アメリカ政府の匿名の関係者が、バイデン及び高官は破壊工作を承認しておらずアメリカの関与はないこと、親ウクライナ団体が事件の元凶であること、その組織とウクライナ政府との関係を示す証拠あるいはその指示を受けたことを示す証拠もないこと、アメリカ人、イギリス人の関与はないこと、証拠、ソース、詳細を明らかにすることは拒んだことなどを伝えています。NYT記事は、CIAのスポークスマンはコメントを拒否し、ホワイトハウス安全保障会議のスポークスマンは、調査を行っている欧州当局に問い合わせるように、と述べたとも伝えています。同時にNYT記事は、アメリカの当局者が、ウクライナによるクリミア大橋爆破、ロシアの哲学者ドゥガンの娘暗殺などの事例を挙げて、ウクライナ側はアメリカに対してすべてについて透明であるわけではないと述べたことを紹介した上で、ウクライナまたはその代理人の関与に関する証拠が挙がれば欧州の反発を招き、ウクライナ支援の統一戦線を維持することは難しくなるだろうという観測も付け加えています。
 以上のメディア報道に対するロシア・メディアからコメントを求められたセイモア・ハーシュは、「コメントはしない。私は自分の資料について書くのみ」と笑って答え、「今NYT記事を読んでいるところだが、ソースについて何も触れていない」と付け加えた上で、「何も言うことはない」と述べたということです(3月8日付け環球網)。

<米独首脳会談>

 3月3日、ドイツのショルツ首相はホワイトハウスを訪問してバイデン大統領と会談しました。3月6日付けの環球時報は、「記者会見も開かない「神秘的すぎる」会談」(原題:"闭门会谈且不开记者会,拜登朔尔茨会谈被批"过于神秘" ")と題する記事で、ドイツ側からは高官、メディアの随行なし、冒頭公開時間はわずか4分、会談後の共同記者会見もなし、会談は首脳同士のみ(ショルツの高級顧問も参加できず、録音もなし)という異例ずくめの会談であったことを紹介しています。
 また、3月8日付けのロシア・トゥデイ記事「ノルドストリームに関する新主張に対するロシアの反応」(原題:"Russia reacts to new Nord Stream claims")は、次のように報じて、米独首脳会談(3月3日)と米独メディア報道(3月7日)との関係性を強く匂わせました。
 ペスコフ報道官は、(西側報道は)真の犯人から注意をそらそうとする試みのように見えると述べた。ソースが明らかではない報道は、ショルツ独首相がワシントンを訪問してバイデン大統領と会談してわずか数日後に行われた。

<環球時報の解説>

 3月8日付けの環球時報チャット公式アカウント「補壹刀」は、「アメリカの狼狽ぶりを暴露したオペレーション」(原題:"这个操作,暴露美国更慌了!")と題して、今回の米独メディアの報道について「目からうろこ」の解説を加えています。私は「陰謀説」は好きではありませんが、ノルドストリーム事件に関する西側主流メディアの「忖度」ぶりにはほとほと愛想が尽きますので、鬱憤を晴らす意味も込めて、「補壹刀」チャット内容(要旨)を以下のとおり紹介する次第です。
 ノルドストリーム・パイプラインは一体誰が爆破したのか。
 集団的沈黙の後、米西側主流メディアがこの件について話し始めた。
 NYTは、今回の破壊行動はウクライナの反ロ団体が行った可能性があると報じた。しかし、「匿名のアメリカの官僚の暴露」というオペレーションについて、多くの人がNYTのこの報道に疑いの眼を向けている。しかも、「匿名の官僚」が明らかにした内容はすべて、証拠もない、確たるソースもない、細部にわたる新情報もないという「三無」スクープであり、誰が信じるだろう。
 ましてや、6人から成る民間のグループが水深80メーターにある、頑丈に防護されているパイプラインを爆破することができるとでもいうのか。このようなレベルの低いスクープは、明らかに西側民衆の知能指数を過小評価している。
 セイモア・ハーシュが「バイデン政権によるノルドストリーム爆破画策」を指摘してちょうど1ヶ月になる3月7日、一貫して沈黙を守ってきた西側主流メディアが辛抱しきれなくなり、NYTが真っ先に破壊嫌疑の矛先を「親ウクライナ団体」に向けた。しかし留意する必要があるのは、その組織及びメンバーについては「まだ分からないことが多い」としながら、「アメリカ人及びイギリス人は加わっていない」ことはハッキリ言っていることである。これはおかしくはないか。
 「新たな情報」に接したとするアメリカの官僚はさらに、海底のパイプラインに爆発物を仕掛けたのは「おそらく経験豊富な潜水員の仕業」としながら、「軍や情報機関で働いたことはないようだ」とし、「専門的訓練は受けた」可能性があると述べた。彼らは特に、ゼレンスキーまたは彼の配下が今回の行動に関与した証拠はまったくなく、ウクライナ政府の支持で行動したという証拠もないと強調した。そうとはしつつも、NYT記事はウクライナとドイツの「微妙な関係」が壊れることを心配した。ドイツはなんといっても被害者であり、ウクライナが関与しているとすれば、ドイツ人のウクライナに対する支持を弱める可能性があるからである。間が悪いことに同じ3月7日、ツァイト紙は事件の黒幕がウクライナと関連があるとする情報筋の情報を明らかにした。
 ニュースが流れるやいなや、ウクライナ側は直ちに否定した。ドイツもハーシュのスクープに沈黙したのとは異なり、ピストリウス国防相が8日、「親ウクライナ団体」の仕業というメディアの報道について、「軽々に結論を下すことはできない」と述べた。また、「ウクライナを非難するために画策された「フォールス・フラッグ(false flag)作戦」の可能性もあり、このような記事によって「ウクライナに対する支持」に影響があってはならないとも述べた。ホワイトハウスのカービー報道官は7日、NYTの報道に言及した際、バイデン政権としてはドイツ、スエーデン、デンマークの正式調査の結果を待って結論を出すと述べた。
 ロシア側は、NYT等の報道は「元凶が人々の注意をそらすためのやり口」と見なした。ペスコフ報道官は8日、こうしたニュースは作り事であるとした。ロシア外務省のザハロワ報道官は、「西側政府がやるべきはニュースを流すことではなく、ロシアが正式に提起した要求に答えることだ」とし、「少なくともハーシュの調査資料を研究するべきであり、匿名のニュースをあれこれいって視線をそらすようなことをするべきではない」と述べた。
 中国社会科学院欧州研究所の趙俊杰研究員は、西側主流メディアによる今回のスクープは新証拠、新展開のように見えるが、実際はアメリカに対する責任追及を他になすりつけようとするものであり、頭隠して尻隠さずだとして、次のように指摘した。
 第一、NYTの報道のソ-スは匿名のアメリカ筋だとし、破壊者は親ウクライナの政治グループだとするが、このような主張は説得力がない。身分を明かさない「アメリカ情報筋」はウソがつきもので、メディアとつるんだ政治的でっち上げである。かつて、イラクのサダム政権が生物化学兵器を保有していると主張したのも彼らだった。
 第二、西側メディアが暴露したウクライナ団体のわずか6人がNATO監視下の海域で難度の極めて高い破壊行動を行うなどという主張は、西側の人々の知能指数を過小評価している。
 第三、アメリカ人、イギリス人の関与はなく、ウクライナ政府及びロシア政府の関与の証拠もないというが、公平を装いつつ実際はアメリカ及びイギリス政府の責任を他に転嫁している。結局、NYTの報道は視線をそらしてアメリカ政府の罪を免れさせようとするものだ。西側主流メディアは、国家の名声や利益にかかわる重大事件を報道する際には、いわゆる客観性と公正性を保つことができず、NYTも例外ではない。また、破壊行為とウクライナ政府とは関係がないと強調するのも、欧州諸国がウクライナ支援を継続し、武器及び経済援助を継続するようにするためであり、アメリカのメディアと情報機関がいろいろと工夫を凝らしていることがありありだ。
 しかしながら、(情報操作の)手のかけ方がお粗末で、人々を信服させることができない報道は各方面から反駁され、ハーシュには大笑いされる始末である。紙は畢竟するに火を包み込むことはできず、時間が推移するとともに、事件の真相は水面に浮かび上がってくるだろう。関係海域にかかわるドイツ、デンマーク及びスエーデンの連合調査はまだ終結していないが、このような大事件が如何なる手がかりも残さないということは不可能である。ただし、被害国の一つであるロシアが調査に参加したくても西側諸国から拒否されているため、一方的な調査には不確定性が充満しており、このことは国際社会として大いに考え込まされることではある。