1月11日にワシントンで行われた日米安全保障協議委員会(「2+2」)の共同発表は、「(日米の)新たな国家安全保障戦略及び国家防衛戦略が軌を一にしていること」を認識し、「戦略的競争の新たな時代において勝利する態勢をとるための現代化された同盟のビジョンを提起」したという宣言に始まり、日本が「新たな戦略の下、防衛予算の相当な増額を通じて、反撃能力を含めた防衛力を抜本的に強化するとの決意」を表明し、「(アメリカ等との協力の下)地域の平和と安定の維持に積極的に関与する上での役割を拡大するとの決意」を再確認し、アメリカはこれを「同盟の抑止力を強化する重要な進化」として「強い支持」を表明した、としています。また、岸田首相と会談したバイデン大統領も、「新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略、及び防衛力整備計画に示されているような、防衛力を抜本的に強化する…との日本の果敢なリーダーシップを賞賛」する(日米共同声明)と、手放しの歓迎の意を表しました。
 「現代化された同盟のビジョン」という提起は新しいものですが、「日米安全保障協議委員会(日米「2+2」)(概要)」の「3 同盟の現代化」がその内容を明らかにしています。すなわち、「同盟としての抑止力・対処力を最大化する方策」として、①「起こりうるあらゆる事態」に対する日米間でのより効果的な役割・任務の分担(適時かつ統合された対処)、②日本の反撃能力の効果的運用に向けた日米協力の深化、③「柔軟に選択される抑止措置」を含む日米協力の深化、④装備・技術面での日米協力の加速、⑤宇宙関連能力での協力深化、という5つの分野での「方策」を掲げています。
以上の記述の「対中指向・敵対」の本質を正確に読み取るためには、1月12日のコラムで紹介したCSIS報告の内容を踏まえ、次のような文言上の補足(強調部分)を加える想像力を働かせることが不可欠です。なぜならば、CSIS報告の作者が日米両政府間で行われている協議内容を踏まえた上でこの報告を作成していることは間違いないからです。

○「(日米の)新たな国家安全保障戦略及び国家防衛戦略が軌を一にしていること」を認識→「(日米の)新たな国家安全保障戦略及び国家防衛戦略が中国を最大の脅威と見なすという認識に立っている点で軌を一にしていること」を認識
○「戦略的競争の新たな時代において勝利する態勢をとるための現代化された同盟のビジョンを提起」→「中国との戦略的競争の新たな時代において勝利する態勢をとるための現代化された同盟のビジョンを提起」
○日本が「新たな戦略の下、防衛予算の相当な増額を通じて、反撃能力を含めた防衛力を抜本的に強化するとの決意」を表明→日本が「中国を最大の脅威とする新たな戦略の下、防衛予算の相当な増額を通じて、中国に対する反撃能力を含めた防衛力を抜本的に強化するとの決意」を表明
○アメリカはこれを「同盟の抑止力を強化する重要な進化」として「強い支持」を表明→アメリカはこれを「対中指向同盟の抑止力を強化する重要な進化」として「強い支持」を表明
○「新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略、及び防衛力整備計画に示されているような、防衛力を抜本的に強化する…との日本の果敢なリーダーシップを賞賛」する(日米共同声明)→「新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略、及び防衛力整備計画に示されているような、対中指向防衛力を抜本的に強化する…との日本の果敢なリーダーシップを賞賛」する(日米共同声明)
○「現代化された同盟のビジョン」→「対中指向・敵対という現代化された同盟のビジョン」
○「起こりうるあらゆる事態」→「台湾有事において起こりうるあらゆる事態」
○日本の反撃能力の効果的運用に向けた日米協力の深化→アメリカから導入し、南西諸島に配備するパトリオット・ミサイル等に関する日本の反撃能力の効果的運用に向けた日米協力の深化
○「柔軟に選択される抑止措置」を含む日米協力の深化→中国によるミサイル攻撃による損害を最小限にするためのシェルター設置、リスクを分散するための民間空港利用等、「柔軟に選択される抑止措置」を含む日米協力の深化
○装備・技術面での日米協力の加速→中国のミサイル攻撃に対処するための装備・技術面での日米協力の加速
 ちなみに、「共同発表」の「同盟の現代化」においては、①「同盟における調整」、②「平時における同盟の取組」、③「同盟の抑止力・対処力」、④「宇宙・サイバー・情報保全」、⑤「技術的優位性の確保」等に関する「両国間の協議」の「加速」となっており、記述内容も、"「(概要)」は「共同発表」の中身の要約"と単純に理解できません。どうして、このような操作を行ったのかは明らかではありません。後々記録として残るのは「共同発表」であって、「(要約)」ではありません。しかし、「共同発表」は「後腐れがない」記述にしておき、「(概要)」でホンネ部分を示したと見ても大過ないでしょう。
 また、岸田首相が慌ただしく防衛費の5年間倍増を打ち出したのも、「日本及びグアムの空軍基地の要塞化と拡張。ミサイル攻撃の効果を弱めるための分散と強化」、「米日が240億ドルをかけて400のシェルターを建設(原注:2023年度防衛概算要求で、7つの優先 順位項目中の一つとして「同盟のレジリエンス強化」)」、「民間空港アクセス:攻撃対象となる機体分散問題」、「台湾に近い在沖縄米軍基地の脆弱性」、「日本中の米空軍基地は中国の高精密なミサイルによる壊滅的攻撃対象となる」、「中国は、在日米軍と自衛隊を攻撃対象とする」、「日本及びグアムの空軍基地能力の強化拡大」等を指摘しているCSIS報告の内容を踏まえれば合点がいきます。CSIS報告が「2026年に中国が台湾に上陸作戦を行う」という超近未来の想定に立っていることからも直ちに理解できるように、アメリカは日本が可及的速やかに軍事費を大幅に増やすことを要求していることは疑問の余地がありません。
 中国は日米「2+2」及び岸田首相訪米の意味を明確に捉えています。その代表的なものとして、1月14日付けの環球時報社説「平和追求こそが侵略戦争清算の出口」(原題:"追求和平,日本才能走出"二战阴影"")の内容(要旨)を紹介しておきます。
 岸田首相は13日(現地時間)にバイデン大統領と首脳会談を行った。過去の新任首相の「表敬儀礼的訪問」とは異なり、今回の岸田訪米は日本の新安保戦略についてアメリカの支持を得るという「特殊任務」を帯びたものだった。アメリカの前官僚が露骨に称したように、「今回の日米首脳会談は中国牽制を意図したもの」だった。日米のこのような動きは国際社会の平和と発展という願いに背き、第二次大戦後に形成された国際秩序に挑戦するものである。
 岸田訪米の背後には、日本政府が先月採用した安保3文件がある。そこに含まれる防衛費の大幅増加、「反撃能力」構築等は第二次大戦後最大規模の軍事改革を盛り込んでいる。このような動きが強大な道義的阻止力に直面していることを日本政府は百も承知であり、だからこそ、岸田首相の一連の(G7諸国)訪問は、「外国の支援」獲得の色彩が濃いものだった。岸田訪米は3つの「土産」を伴っている。一つは日米同盟関係深化を積極的に追求し、アメリカの「インド太平洋戦略」に対する忠誠心を表すこと、第二はアメリカに対して日本の軍事的な動きと「反中成果」を報告し、「専守防衛」突破についてアメリカの支持を獲得すること、そして第三は、「中国脅威論」を喧伝することで軍拡と戦争準備の隠れ蓑とすることである。
 以上のことは日米同盟70年越しの重大調整である。日本はもはや「盾」であることに甘んじず、「戈」の役割を演じようということであり、アメリカはこのことを強烈に支持している。岸田訪米前に行われた日米安全保障協議委員会「2+2」で双方は、日本が「反撃能力」を備えることについて協力することに同意した。岸田の仏英加米訪問の「成果」も安全保障協力強化一色であり、経済協力は片隅に追いやられた。留意するべきはこれら5ヵ国がNATO加盟国であることであり、日本はことさらにNATOをアジア太平洋に引っ張り込もうとしていることは見やすいところだ。
 アメリカが多くの同盟国に対して対中戦略協調を迫っているのとは異なり、日本は自ら(中国対処の)議題を設定し、「主導する」役割すら演じている。日本が「専守防衛」原則を放棄し、「平和憲法」の制約を突破することの本質は、戦後国際システムを覆し、第二次大戦の結果をひっくり返すことに他ならない。
 日本の戦略的衝動とアメリカの対中戦略私心とは意気投合しており、アジア太平洋及び国際社会は戦後かつてなかった巨大なリスクに直面している。米日は盛んに「ルールに基づく国際秩序」を口にするが、実際にやろうとしていることは国際秩序の根幹を突き崩すことである。国際社会は日本のこのような動きに対する警戒を高め、強力な道義的圧力をかけるべきである。なぜならば、このことは戦後秩序の安定にかかわり、アジア太平洋の平和発展の局面が根本から破壊されかねないからだ。
 アメリカのメディアの中には、日本が「強くなること」、「第二次大戦の「陰影」から踏み出すこと」を促すものもある。しかし、日本は戦後の誓約を遵守し、真剣に自省し、実際の行動をもってアジア諸国の信頼を獲得してのみ、第二次大戦の「陰影」から歩み出ることができる。日本にとっての真の力はいわゆる「戈」と「盾」ではなく、平和と発展という普遍的な追求にあるということを、日本はハッキリ認識するべき時である。