1月12日付け朝日新聞(朝刊)は、「台湾有事「日本が要」 米シンクタンクが報告書」と題する記事で、アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)が9日に公表した「次の戦争の最初の戦い」(原題:"The Fist Battle of the Next War")の概要を紹介しています。CSIS自身の紹介に基づけば、このプロジェクトでは2026年に中国が台湾に上陸作戦を行う机上作戦(wargame)について24とおりのシナリオを検討し、その検討結果に基づいて勧告を行いました。結論的には、日本の基地をフルに活用する米軍の全面介入を得る台湾が中国軍の上陸作戦を撃退できることになっているのですが、報告は、台湾が甚大な破壊に見舞われることはもちろん、米軍(及び自衛隊)も甚大な損害を被り、その軍事的威信は大きく損なわれ、立て直しは容易ではないと指摘しています。
 以上の結果から引き出されるべき本来の勧告は、「米中軍事激突に至る事態、つまり、中国が本格的上陸作戦決行を余儀なくされるような事態が生じることを回避するための政治的外交的努力(①台湾の独立志向を煽るような言動をきっぱりやめる。②「一つの中国」原則を厳守する)に全面的にコミットすること」に尽きると思われます。ところが"戦争ありき"の前提に立つ報告が勧告しているのは、米軍が被る損害をできる限り最小限にとどめるための対策(筆頭に来るのは在日米軍基地の要塞化・強化)を講じることによって、中国が作戦を発動すること自体を思いとどまらせること(=デタランス強化)なのです。アメリカの戦争「中毒」のすさまじさには呆れを通り越して背筋が寒くなる思いです。
 日本国内では「台湾有事は日本有事」(安倍元首相)という暴論がまかり通る世論状況になっています。G7広島サミットの「準備」と称して岸田首相が欧米6ヵ国を行脚していますが、そこでの焦点の一つが「中国脅威に対するG7の結束強化」であることを公言する岸田首相の世論迎合の暗愚さには寒々とした感慨に襲われます。こうした世論状況及び日本政治の「浮かれた状況」に対して、CSIS報告の日本関連の指摘は、客観的に「警鐘を鳴らす」ものです。要するに、日本の対米全面協力なしの対中勝利はあり得ないこと、逆に言えば、日本にはアメリカに「待った」をかける力・条件が備わっているということを認識しなければいけないということ、これに尽きます。NATO加盟国であるエルドアン・テュルキエ(トルコ)が、決然としてロシア・ウクライナ戦争で西側に与せず、独自の立場から休停戦実現に力を尽くしている事実は、日本もその気にさえなれば、アメリカの走狗になることに甘んじるだけではいけないことに対する生きた教材になっていると思うのです。CSIS報告の日本関連部分をまとめて紹介するゆえんです。

○中国の侵略を挫折させることに成功するための条件

 ① 台湾軍が死守すること。
 ② 「ウクライナ・モデル」(直接戦いに従事せず、武器提供に限定する)は論外。
 ③ 戦闘作戦のために在日米軍基地が使用できること(必須)。他の同盟国(豪韓)も一定の役割を果たしうるが、要は日本。在日米軍基地使用なくして、米軍機が戦争に効果的に参加することはあり得ない。(報告p.3 以下同じ)
 ④ 中国防衛ライン外から中国艦隊に迅速かつ大量の攻撃ができること(必須)。

○大きな犠牲を払うことを余儀なくされる勝利(a Pyrrhic victory)を回避するための原則と態勢

 ●日本及びグアムの空軍基地の要塞化と拡張。ミサイル攻撃の効果を弱めるための分散と強化(p.4)。(それ以外に4項目列記)

○戦略的政策決定上の想定:日本に関する基本ケースと派生ケース(p.53)

 ●基地駐留使用権 基本:提供   派生:中立
 ●自衛隊参戦    基本:攻撃対処 派生:作戦開始予定日から参戦
 ●自衛隊作戦行動 基本:すべて  派生:防御のみ

○主要戦闘国・地域の戦略的想定

●中国
●台湾
●アメリカ
●日本(pp.57-59)
 *基本:アメリカに対する基地使用許可及び自衛隊の戦闘参加。
**日本は世界最大の米軍基地及び軍隊のホスト国であり、米軍の中国侵略に対する対応は在日基地か らとなる。
**日本は、①米軍の在日米軍基地の自由使用許可、②自衛隊による中国の日本領土(在日米軍基地を含む)に対する攻撃対処、③交戦開始後の攻撃作戦、をメインとする。
 *派生
  ①最初から参戦(←「予防反撃能力」憲法解釈)
  ②中立堅持
  ③自衛隊:防衛作戦のみ。

○作戦上のインフラ関連想定(pp.81-82)

  ●シェルター建設
*基本:戦争前のシェルター建設なし。
*派生:米日が240億ドルをかけて400のシェルターを建設(原注:2023年度防衛概算要求で、7つの優先 順位項目中の一つとして「同盟のレジリエンス強化」)
●民間空港アクセス:攻撃対象となる機体分散問題
*基本:最小限度の利用
*派生:民間空港へのアクセス拡大

○戦争被害(pp.112-114)

●台湾に近い在沖縄米軍基地の脆弱性
●日本中の米空軍基地は中国の高精密なミサイルによる壊滅的攻撃対象となる。
●中国は、在日米軍と自衛隊を攻撃対象とする。

○勧告

 ●戦略面(pp.116-117):日本との外交軍事的結びつきの強化が最優先事項。在日米軍地位協定の「事前協議」条項の曖昧性解消の必要性を指摘(日本は、日本防衛目的以外の米軍出動については事前の許可が必要とするのに対して、アメリカは通報のみで足りるという立場)。
 ●態勢面(pp.125-126):日本及びグアムの空軍基地能力の強化拡大